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ナラティブ・ヴェリタス  作者: 道民Xフォローして
虚無の世界の主人公
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第2話:My Boss My Hero

主題歌:マイ☆ボス マイ☆ヒーロー/宙船そらふね

https://youtu.be/FlCj_gs_s4c?si=znBgwV_YlqBNguoS

決戦の場は、王都の大通り。

カイは、またしても自動スキルで暴走馬車を止めていた。

そこへ、悪党連合が立ちはだかる。


「なんだ、お前ら?敵?」


カイの視界に、「敵キャラクター」が「表示」される。


「あー、面倒くさい。『オート戦闘』起動」


カイの体が勝手に動き、魔法を放とうとする。

だが。


「金よこせぇぇぇッ!!」


ボリスがドブ板を持って突っ込んできた。殺意ではない。強盗の気迫だ。


「爆発こそ芸術だぁぁぁッ!!」


ジンが花火のような閃光弾を撒き散らす。

 

「僕のコレクションになれぇぇぇッ!!」


ミロクが粘着ネットを投げる。


「その服、高く売れそうねぇ!」


マダム・ロゼが鞭を振るう。

カイのスキルがバグった。


「な、なんだこいつら!? なんでこんなに必死なんだよ!」


カイが狼狽える。

効率を無視した、無駄で、暑苦しくて、臭いエネルギーの奔流。

システム化された「正論」しか知らない彼には、この「情熱」が処理できない。


「今よ!」


システムが隙を見せた瞬間、ナラが懐に飛び込んだ。

鉄扇は使わない。

魔法も使わない。

ただの、素手。


「これが『教育』よ!!」


ナラの平手打ちが、カイの頬を全力で張った。

スキルは発動しなかった。

なぜなら、そこには殺意も害意もなく、ただ「目を覚ませ」という叱咤しかなかったからだ。


カイは吹き飛び、地面に転がった。

彼は、赤く腫れ上がった頬を押さえ、呆然としていた。


「……痛い……?」


彼は、自分の頬の熱さに戸惑っていた。

今まで、どんな強敵の攻撃もスキルが無効化してきた。

痛みを感じたことなど、この世界に来て一度もなかったのだ。


「痛いでしょ?」


ナラは、カイを見下ろした。


「それが『あんた』の痛みよ。スキルじゃなく、運命じゃなく、あんた自身の肉体が感じた、本物の痛み」


カイは震える声で言った。


「なんで……俺は何も悪くないのに……スキルが勝手に……」


「まだ言うか!」


ナラは、カイの胸ぐらを掴み上げた。


「『スキルのせい』にするな! 『運命のせい』にするな! 成功したときは『俺のおかげ』みたいな顔をして、失敗したら『俺じゃない』? ……そんな都合のいい話があるか!」


ナラは、自分の胸を叩いた。


「私はね、私が選んで、私が戦って、私が傷ついたの。成功も失敗も、賞賛も非難も、全部『私が』引き受けた結果よ。……それが生きるってことよ」


ナラはカイを突き放した。


「『巻き込まれた』『スキルがやった』……そんな逃げ口上は終わり。これからは、『私が』痛いと言いなさい。『私が』悔しいと言いなさい」


ナラは叫んだ。


「主語を取り戻せ!カイ・ムソウ!物語ナラティブの主人公になりたければ、自分の人生を生きなさい!」


カイの目から、涙がこぼれた。

それは、痛みによる涙ではない。

初めて、自分の意志で「悔しい」と感じ、自分の心が「怖い」と感じたことへの、魂の震えだった。


「……俺は……俺は、痛い……!俺『が』、悔しい……!」


その瞬間、彼の体を包んでいた「チートスキルの輝き」が、ガラスのように砕け散り、消失した。

彼は、ただの無力な青年に戻った。

だが、その瞳には、先ほどまでの空虚さはなく、怯えと、そして確かな「生気」が宿っていた。


数週間後。

王都のパン屋の裏口で、汗水垂らして小麦粉の袋を運ぶ青年の姿があった。

カイだ。

彼はチートを失い、ハーレムも解散した。

今は、時給制のバイトで食いつないでいる。


「……重い。腰が痛い。……でも」


カイは、休憩時間に貰った売れ残りのパンをかじった。


「……俺が稼いで、俺が食ってるんだ」


その顔は泥だらけだったが、以前のつるんとした「主人公顔」よりも、ずっと人間らしく、いい顔をしていた。

遠くの建物の屋上で、ナラとエラーラがそれを見ていた。


「……人間への進化、おめでとう」


エラーラが皮肉っぽく笑う。


「ま、合格点ね」


ナラは、隣にいる悪党――ボリスの肩を抱いた。


「さあ、飲みに行くわよ! 今日はボリスの奢りでね!」


「なんでだよ! 俺は金がねぇんだよ!」


「うるさいわね、この前カモから巻き上げてたの知ってるわよ。……あんたのその『汚い金』の方が、あいつの『綺麗な虚無』より、よっぽど価値があるわ」


ギャーギャーと言い合いながら、彼らは雑踏へと消えていく。

 美しく整った虚構チートより、汚れて歪んだ現実ナラティブを愛する。

「何者でもない」神様よりも、「何者かである」ドブネズミを愛する。

それが、ナラティブ・ヴェリタスの揺るがない美学だった。


・・・・・・・・・・


そんなナラの元に、また新たな依頼人が現れた。

獣病院のドアを蹴破って入ってきたのは、豪奢なドレスを着た少女だった。

彼女は、開口一番、扇子でナラを指して叫んだ。


「私こそが、この国の真のヒロインよ!」


彼女は、婚約破棄され、国外追放され、実家からも勘当された、いわゆる──悪役令嬢だった。

彼女はナラの前に仁王立ちし、こう言い放った。


「あいつらが悪いのよ! 王子も、ヒロインも、親も、国も! 全員バカで無能で、私の価値を理解できなかったクズどもよ! 世界が間違っているの!」


完全なる、他責。

自分の非を一切認めず、全ての不幸を他人のせいにする、傲慢な態度。

さっきまでのカイと同じ「他責思考」に見える。

だが……!

彼女は、瞳をギラつかせ、拳を握りしめて続けた。


「だから!『私が』あいつらを地獄に叩き落としてやるの!王子には後悔の涙を流させ、泥棒猫には絶望を与え、この国、いやこの世界を乗っ取って、私が女王になるわ!そのために力を貸しなさい、探偵!」


ナラは、ポカンとした後、吹き出した。


「ふふっ……あはははは!」


ナラは腹を抱えて笑った。

カイの他責は「俺は悪くないから何もしない」という逃げだった。

だが、この女の他責は違う。


「あいつらが悪い。だから『私が』あいつらを潰す」という、強烈なまでの主体性(主語)がある。

それは歪んでいるが、紛れもなく、「自分の物語」を生きようとするエネルギーだ。

ナラは涙を拭い、鉄扇を開いた。


「あんたのその『とびきりワガママな主語』、嫌いじゃないわ。……行きましょう。世界を相手に、喧嘩を売りにね!」


ナラティブ・ヴェリタスの物語は続く。

主語なき平和よりも、主語ある闘争を求めて。

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