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ナラティブ・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
密告者たちの青春
75/198

第2話:Love, sadness, and reassurance.

主題歌:ストリートファイターII MOVIE/恋しさと せつなさと 心強さと

https://youtu.be/oBE4lGvGUVg?si=FAz1LztUgLA7BvqS

ナラは、レオの手から魔導結晶を奪い取ると、強制的にマイクのミュートを解除した。

ノイズ混じりの不快なハウリング音が、通話に参加している全員の鼓膜を襲う。

パニックになる「ラウンド」のメンバーたち。

ナラは冷徹な声で告げた。


『こんばんは、ちびすけども。レオの代理人のヴェリタスよ。……随分と楽しそうね。集団リンチの味は、蜜の味かしら?』


静まり返る通話。

ミナが震える声で反応する。


『な、誰?おばさんが入ってくるなんてルール違反……』


『おばさんじゃないッ!』


『…………』


『……』


『……ルール?笑わせないで。権限乱用に盗み聞き、スクショ晒し。ルール無用のデスマッチを仕掛けたのはそっちでしょう?』


ナラは鉄扇で机を叩き、リズムを刻んだ。


『さて、ミナさん?貴女はレオのストーカー行為に怯える「可哀想な被害者」を演じているけれど……。貴女も「加害者」、よね?』


『はああああ?何言ってるの?』


『とぼけないで。貴女、別グループで、陰口してるわよね?』


ナラは、事前にエラーラに解析させていたデータを読み上げた。

この「ラウンド」には、ミナ、女子A、女子Bがいる。

だが、ミナはAとBを外した「裏・ラウンド」を作っていた。


『昨日、貴女が「裏・ラウンド」に書き込んだ内容を読み上げるわね。……『Aのアイコン、加工しすぎで宇宙人』『B、レオのことキモいって言ってるけど、自分も狙ってたよね』……あらあ?親友じゃなかったのかしら?』


通話の空気が凍りついた。

女子Aが叫ぶ。


『え……ミナ? あんた、裏でそんなこと言ってたの?』


『ち、違う! これは……!』


友情崩壊の音がする。

だが、ナラの手は止まらない。


『それから男子C。貴女、ミナの味方してるけど、裏ではミナの盗撮写真を売買してるわよね?』


『男子D。あなたは無言勢だけど、実はボイスチェンジャーを使って『女児』としてレオに近づこうとしてたわね?』


暴露、暴露。そして、暴露。

全員が誰かへの加害者であり、全員が誰かにとっての裏切り者。

「ラウンド」は阿鼻叫喚の地獄と化した。

罵り合い、泣き声、退室する音、そして開き直って暴言を吐く声。

レオは、その光景を呆然と見ていた。

そして、歪んだ笑みを浮かべた。


「ははァ!見ろ!ざまあみろ!僕を馬鹿にするからだ!僕が正しかったんだ!僕が正しい被害者だ!」


ナラは、冷ややかな目でレオを見下ろした。


「……いい気味ね、レオ。でも、あんたも『同類』よ!」


「え?」


ナラは、レオのポケットに入っていた、もう一つの魔導結晶――サブ端末を抜き取った。


「あんたこれで……何してた?」


レオの顔色が紙のように白くなる。

ナラは、そのサブ端末の画面を、通話のマイクに向けて読み上げた。


『アカウント名、闇の執行人キリト。猫アイコン。プロフィール、おもしろきこともなき世をおもしろく、王都を愛する普通の市民、政治語ります、たまに絵を描きます、クソ女どもに鉄槌を。投稿内容、最新の投稿は……ミナの顔写真を卑猥に加工した合成画像、住所の晒し、そして、殺害予告……』


通話の向こうが、再び静まり返る。

ミナが悲鳴を上げた。


『キャアアアッ!何それ!?あんたそんなことしてたの!?』


ナラは続ける。


「さらに、この自演擁護。別のアカウントを使って『レオ君って実はイケメンだよね』『ミナの方が性格悪い』って書き込みまくってる。……魔力痕跡隠すの忘れてるわよ、マヌケ」


レオは膝から崩れ落ちた。

彼は「被害者」の皮を被っていただけだった。

その本性は、ミナたち以上に陰湿で、粘着質な加害者だったのだ。


「ち、違う……これは、『じゃあ』僕、精神疾患あるから嫌がらせをしてしまうのは、仕方ないんだよ!だって彼女が僕を追い詰めたから……!」


「黙りなさい」


ナラは冷たく言い放った。


「部外者のあたしが喧嘩両成敗なんて結論をつけるのは無責任だけど、これは、明らかにどっちもどっちよ。ミナは『かわいそうな私』を演出するためにレオを晒し者にした。レオは『傷ついた僕』を正当化するために、裏でミナを刺していた」


ナラは二つの魔導結晶を手に持ち、通話の向こうの全員に向けて告げた。


『ここには、愛なんて欠片もない。あるのは承認欲求と、被害者ポジションの奪い合いだけ』


『好きとか嫌いとか、そんなチャチな感情じゃない。あんたたちは、相手を、他人を、「自分をかわいそうに見せるための道具」としか思っていないのよ』


ミナが泣き叫ぶ。


『だって!そうしないと私がハブられるもん!やられる前にやるしかないじゃん!』


レオが呻く。


『僕だって……愛されたかっただけだ……!』


「いいえ。あんたたちが愛しているのは、『愛されているという設定の自分』だけよ」


ナラは、両手の結晶に魔力を込めた。

高価な魔導結晶が、ナラの握力によって粉々に砕け散る。


『あ、あああ……僕のフォロワーが……ログが……!』


『きゃあああ!通話が切れるぅぅぅ!』

 

通信が途絶え、部屋に静寂が戻った。

残されたのは、粉々になった水晶の破片と、絶望に打ちひしがれるレオだけだった。


翌日。

王都の魔導学院では、奇妙な現象が起きていた。

レオとミナ、そしてその取り巻きたちは、互いに目も合わせず、ゾンビのように廊下を歩いていた。

彼らのグループは解散した。

全員が全員の弱みを握り、全員が全員を軽蔑している。

もはや、修復は不可能だ。

だが、彼らは反省していなかった。

レオは新しいクラスメイトに、「前の女がメンヘラでさ、酷い目に遭ったよ」と被害者面で語っていた。

ミナも別のグループで、「元カレが犯罪者予備軍でマジ怖かった」と涙ながらに語り、同情を誘っていた。

ナラティブ・ヴェリタスは、校門の陰からその様子を見ていた。

手には、砕けた結晶の破片がある。


「……懲りないわね、人間って」


そこへ、エラーラからの通信が入る。


『ナラ。報酬は受け取ったか?』


「子供から貰うわけないじゃない!それに、レオ君、小遣い全部『スタンプ課金』に使っちゃってて、一文無しだったわ」


ナラはため息をつき、空を見上げた。

鉛色の空は、昨日と変わらず重く垂れ込めている。

ふと、近くを歩いていたカップルが喧嘩しているのが聞こえた。


「ねえ、今のメッセージ、なんで送信取り消しにしたの? やましいことがあるんでしょ?」


「違うよ、誤字っただけだよ!」


「怪しい。スクショ撮って、晒してやる」


ナラは乾いた笑い声を漏らした。

この街では、恋愛は戦争だ。

情報は弾丸。同情は盾。

そして先に「被害者」になった者だけが、主導権を握り、勝者として君臨する。

だが、「被害者」として「勝者」になるということは、敵対を意味する。


「……馬鹿みたい」


ナラは鉄扇を開き、その場を立ち去った。

彼女の背後では、今日も無数の通知音が鳴り響き、誰かが誰かを断罪し、誰かが誰かに、愛……という名の呪いを囁いている。

王都の相互監視地獄は、終わらない。

彼らが「魔導水晶」という鏡を捨て、肉眼で相手を見るその日まで。

……おそらく、そんな日は永遠に来ないのだろうけれど。

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