第5話:普通の中学生(1)
オレンジ色に染まった東京の空を、巨大な赤い鉄塔が串刺しにしている。
東京タワー。
俺にとって、そいつは日常の象徴であり、見飽きた風景の一部だ。
蔵条学園、屋上。
フェンス越しに眼下に広がる街を見下ろし、俺は溜息をついた。
制服のズボンのポケットに手を突っ込み、風に煽られる黒髪をかき上げる。
耳には、親父の遺品である有線のイヤホン。
流れているのは、平成の時代、熱い魂を叫んでいたロックバンドのナンバーだ。
俺の名前は本郷アキト。中学2年生。
剣道部所属、成績は中の中。喧嘩は……まあ、売られりゃ買う程度だ。
俺の日常は、平穏そのものだった。
退屈で、ぬるま湯で、あくびが出るほど平和な世界。
だが、その「平和」が音を立てて崩れ去るなんて、この時の俺は想像もしちゃいなかった。
全ては、一枚の『CD』から始まったんだ。
放課後。
竹刀を部室に放り込み、俺は制服のまま学校を飛び出した。
「マジかよ……あの幻のインディーズ盤が、歌舞伎町の地下で目撃された、だと……?」
ネットの掲示板で見つけたから、情報の真偽は不明だ。
だが、俺の直感が囁いてやがる。
『行け、アキト。そこに運命がある』とな。
電車を乗り継ぎ、新宿駅に降り立つ。
歌舞伎町。
眠らない街、欲望の掃き溜め。
俺はスマホの地図を頼りに、路地裏へと足を踏み入れた。
「ここか……」
目の前には、今にも崩れそうな古びたビル。
地下へと続く階段は、まるで怪物の口の中みたいに暗く、カビ臭い空気を吐き出していた。
「……面白ぇ。冒険に危険は付き物だろ」
俺は口角を上げ、暗闇へと足を一歩踏み出した。
階段を降りるたびに、地上の喧騒が遠のいていく。
地下3階。いや、4階か?
もう何階降りたか分からねぇ。
スマホの電波はとっくに圏外だ。
「おいおい、CDショップにしちゃあ随分とディープな場所にあるじゃねぇか」
ようやく、突き当たりに一枚の扉が現れた。
俺の勘が告げている。
俺は意を決して、ノブを回した。
中に入った瞬間、俺は思わず息を呑んだ。
「……なんだ、ここは」
そこは、CDショップじゃなかった。
ヤクザの事務所でも、秘密クラブでもねぇ。
壁一面に、古今東西のあらゆる「ガラクタ」が埋め尽くされていた。
見たこともない動物の剥製、光る鉱石、血に濡れたような刀剣、そして宙に浮く奇妙な時計。
空間そのものが歪んでいるような、平衡感覚を狂わせる部屋。
そして、部屋の中央。
一枚の座布団の上に、そいつはいた。
「……何者じゃ、小僧」
仙人みてぇな長い髭を生やした、小柄な老人。
俺は冷や汗を流しながらも、虚勢を張って言った。
「あ〜……客に向かって随分な挨拶だな、ジジイ。俺は探し物があって来たんだよ」
「……ほう。お主、『音』を求めて来たか。……だが、ここにあるのは現世の音ではない。魂を削り、次元を穿つ、禁断の旋律のみじゃ」
「何言ってんだか分からねぇよ。俺が欲しいのはCDだ。ここにあるって聞いたんだがな」
俺はズカズカと部屋に入り込んだ。
老人の周りには、確かにいくつかのレコードやCDらしきものが積まれている。
俺の目が、その中の一枚に釘付けになった。
ジャケットには、確かに俺が探し求めていたバンドのロゴが!
「あった……! マジかよ、都市伝説じゃなかったのか!」
「触れるなッ!!」
老人の喝が、衝撃波となって俺を吹き飛ばした。
「痛ェな……! 何すんだよクソジジイ! 客に手ぇ出す店があるかよ!」
俺は竹刀袋から、愛用の木刀を取り出した。
「帰れ、小僧。ここは貴様のようなヒヨッコが来ていい場所ではない。ここは『境界』じゃ」
「境界だァ? 知ったことかよ! 俺はそいつを買うまではテコでも動かねぇぞ!」
「……愚か者が。その円盤は、ただの記録媒体ではない。異界への鍵じゃ。貴様の魂では耐え切れん!」
「鍵だァ? 訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇ! 俺にとって音楽は命なんだよ! 魂くらい賭けてやるさ!」
俺は地面を蹴った。
一瞬で間合いを詰め、木刀を振り下ろす――フリをして、左手でCDを掴みに行く!
「甘い!」
老人は座ったまま、残像が見えるほどの速さで俺の手首を掴んだ。
万力みてぇな力だ。骨が軋む。
「離せッて!」
「ならん! 貴様、妙な資質を持っておるな。……危険じゃ。ここで始末せねばなるまい!」
老人の殺気が膨れ上がった。
本気だ。こいつ、マジで俺を殺す気だ。
俺は瞬時に判断した。
勝てねぇ。
なら、逃げるしかねぇ!
俺は渾身の力で老人を突き飛ばし、部屋の奥にある「別の扉」へと走った。
「待てッ! そちらは出口ではない!」
「うるせぇ! 表の扉が塞がれてんだ、こっちに行くしかねぇだろ!」
俺は奥の扉を蹴破った。
そこにあったのは、通路じゃなかった。
光の渦だった。
紫と黒が混ざり合った、毒々しい色の渦。
それが、ブラックホールみたいに口を開けていた。
足が止まらなかった。
慣性の法則ってやつだ。俺の体は、その渦へと吸い込まれていく。
「くっそ……! CD……買いに来ただけなのに……なんでこんな……!」
俺の意識は、そこでプツンと途切れた。
「……ん……ぅ……」
目が覚めた時、最初に感じたのは「臭い」だった。
腐った卵と、焦げた肉、そして錆びた鉄の臭い。
生理的な嫌悪感を催す最悪の悪臭だ。
「……ってぇ……ここは……」
俺は上半身を起こした。
見渡す限りの荒野。
空の色は、灰色だった。太陽は見当たらない。代わりに、不気味な紫色の雲が垂れ込めている。
「カブキの地下に、こんな場所があるわけねぇよな……」
俺は立ち上がろうとした。
その時だ。
俺の目の前を、何かが通り過ぎた。
数人の人間……だと思われる集団が、奇声を上げながら行進していた。
ボロボロの服を着て、泥だらけで、ガリガリに痩せ細っている。
だが、俺が絶句したのは、そんなことじゃねぇ。
彼らには、「片足」がなかった。
全員だ。
男も、女も、老人も、子供も。
全員が片足を失っており、松葉杖をついたり、あるいは器用に跳ねたりしながら歩いている。
しかも、その顔は満面の笑みだ。
苦痛に歪んでいるんじゃない。心底幸せそうに、狂った笑顔を浮かべているんだ。
「……な、なんだありゃ……」
俺の背筋に、冷たいものが走った。
「おや? お前さん、見ない顔だねぇ」
不意に、行進していた集団の一人が足を止めた。
片足の男だ。手には錆びた包丁を持っている。
「……ああ、迷子になっちまってな。ここはどこだ?」
俺は警戒しながら尋ねた。
男は、俺の姿をジロジロと見た。
そして、俺の「両足」に視線を固定した瞬間、男が悲鳴を上げた。
「に、二本ある……! 足が、二本あるぞぉぉぉぉッ!!」
その叫び声で、周囲の空気が一変した。
行進していた全員が足を止め、一斉に俺を振り向く。
数百の瞳が、俺を凝視する。
その目に宿っているのは、好奇心じゃねぇ。
「異物」を見る目。そして、「恐怖」と「殺意」だ。
「汚らわしい!なんて醜い姿だ!」
「レクタ様の教えに背く悪魔だ!」
「殺せ! その余計な足を切り落としてさしあげろ!救済だ!」
狂気の合唱が始まった。
彼らは手に持った包丁や石を振り上げ、俺に向かって殺到してくる。
その動きは、片足とは思えないほど速く、そして不気味だった。
「な、なんだコイツら……! 訳分かんねぇこと言ってんじゃねぇ!」
俺は踵を返して走り出した。
息が切れる。心臓が早鐘を打つ。
これが夢なら、とっくに覚めてるはずだ。
痛みも、臭いも、恐怖も、全部リアルだ。
俺はとんでもない場所に迷い込んじまったらしい。
平成のふっるい音楽が好きで、ちょっと喧嘩が強いだけの、ただの中学生が来ていい場所じゃねぇ。
逃げ込んだ先の路地裏で、俺は巨大なモニターを見つけた。
街頭ビジョンだ。
そこには、豪奢な椅子に座る一人の男が映し出されていた。
漆黒の喪服を着た、青白い肌の男。
その膝の上には、首輪をつけた美女が侍り、周りには不気味な三人の少女が笑っている。
男は、口元で手を組み、知性の欠片もない……いや、底知れぬ狂気を秘めた瞳で、カメラを見下ろしていた。
『あ〜、市民諸君。今日も元気に片足で跳ねてるか?……「両足がある奴を見つけたら、その場でなぶり殺しにしていい」ぞ!』
画面の中の男――レクタ・ファルサスが、ニヤリと笑った。
歓声が上がる。
街中の片足人間たちが、狂喜乱舞して雄叫びを上げる。
俺は、震える拳を握りしめた。
状況は最悪だ。
武器はない。仲間もいない。
世界中が敵で、支配者は狂った魔王。
そして俺は、その魔王が指定した「殺すべきターゲット」そのものだ。
「……上等じゃねぇか!」
背後から迫ってくる、不揃いな金属音の不協和音。
奴らの目は血走り、手には包丁やチェーンソーが握られている。
義足のバネ仕掛けで、バッタみてぇに不規則に跳ねながら追いかけてくる様は、悪夢以外の何物でもねぇ。
「ケッ、どいつもこいつもイカれてやがる。足が二本あるのがそんなに気に食わねぇかよ!」
俺は吐き捨てるように叫び、角を曲がった。
行き止まり。
目の前には、崩れ落ちたビルの瓦礫の山。
壁の高さは5メートル。登れなくはないが、今の体力じゃ時間がかかりすぎる。
「……チッ、詰みかよ」
俺は舌打ちをして、踵を返した。
路地の入り口は、すでに義足の群衆によって塞がれている。
「追い詰めたぞォ! 二本足の悪魔め!」
先頭にいた男が、エンジン付きの回転ノコギリを振り上げて飛びかかってきた。
「死ねェェェェェッ!」
「……くそッ!」
俺は反射的に、近くに落ちていた鉄パイプを拾い上げ、構えた。
「……死んでたまるかよォォォォッ!!」
俺は咆哮と共に、鉄パイプを振り抜いた。
ただの我武者羅な一撃。
だが、その瞬間。
俺の手から、黄金色の雷撃がほとばしった。
鉄パイプが光の刃と化し、空間そのものを歪ませるような衝撃波を生んだ。
「な、なんだぁ!?」
回転ノコギリの男ごと、前列にいた数人が吹き飛ばされた。
爆風が巻き起こり、路地の壁が消し飛ぶ。
俺自身も、その反動で尻餅をついた。
「……あァ? 何だ今のは……?」
俺は自分の手を見つめた。
掌から、微かに金色の火花が散っている。
あの歌舞伎町の地下にいたジジイ……老師とか言ったか。
あいつに捕まりそうになった時、妙な感覚があった。あいつの体から何かが流れ込んでくるような……。
まさか、あのジジイの「力」を吸い取っちまったのか?
「ひ、ひぃぃ! 魔法だ!」
群衆は一瞬怯んだが、すぐに狂気が恐怖を上書きした。
魔法への恐怖よりも、レクタへの忠誠の方が強いらしい。
残った数十人が、一斉に襲いかかってくる。
「マジかよ……しつけぇな!」
俺は立ち上がろうとしたが、足がもつれた。
今の魔法一発で、体力を根こそぎ持っていかれた感覚だ。
体が重い。
(万事休す、か……)
迫りくる無数の刃。
俺は歯を食いしばり、最期の抵抗として鉄パイプを握り直した。
その時だ。
「――遅ぇんだよ、雑魚ども」
凛とした、だがドスの効いた女の声が響いた。
同時に、銀色の閃光が夜を切り裂いた。
一瞬の静寂。
次の瞬間、俺に飛びかかろうとしていた先頭の三人の義足が、根本から切断されていた。
「ギャアアアアアアッ!?」
バランスを崩し、無様に転がる追っ手たち。
その中心に、一人の人影が舞い降りた。
そこに立っていたのは、少女だった。
年齢は俺と同じくらいか。
ボロボロだが手入れされた軍服のようなコートを羽織り、手には身の丈ほどもある巨大な刀を持っている。
片目には眼帯。そして何より目を引くのは、彼女が大地を踏みしめる「二本の足」だった。
少女は、刀を肩に担ぎ、不敵な笑みを俺に向けた。
「よう、威勢だけはいいじゃねーか、少年。だが詰めが甘いな。ケツまくって逃げるならもっと上手くやりな」
口調は荒っぽいが、その瞳には強烈な光が宿っている。
この狂った世界で初めて見る、「正気」の光だ。
「テメェ……誰だ!?」
追っ手の一人が叫ぶ。
少女は鼻で笑った。
「あ? 俺か? ……俺の名はスザク。このふざけた世界で、クズどもをスクラップにするのが趣味の、通りすがりさ。……怖ぇか?」
スザクと名乗った少女は、刀の切っ先を群衆に向けた。
「さあ、消毒の時間だ。まとめて掛かって来な。俺の刀の錆にしてやるよ!」
「生意気なアマがァ!」
再び殺到する群衆。
だが、スザクの動きは次元が違った。
彼女は疾風のように踏み込んだ。
義足の動きなど止まって見えるかのような、神速の剣技。
刃と義足がぶつかり合い、火花が散る。
だが、スザクの刀は鋼鉄の義足をバターのように切断し、相手を無力化していく。
殺しはしない。義足を破壊し、動けなくする。
その技量は、達人級だ。
俺は呆然と見惚れていた。
「おい、ボサっとしてんじゃねーぞ! 立てるか?」
スザクが敵を蹴り飛ばしながら、俺に声をかけた。
「あ、ああ……なんとかな」
「なら走れ! 長居は無用だ。増援が来たら面倒なことになるぜ!」
スザクは俺の襟首を掴むと、無理やり引っ張り上げた。
「ちょ、離せって! 自分で走れる!」
「強がるなよ。顔色が死人みてぇだぞ。……しっかり付いて来な! 振り落とされても知らねーからな!」
スザクは俺を庇いながら、敵の包囲網を突破した。
その背中は、小柄なのにやけに大きく見えた。
・・・・・・・・・・
俺たちが逃げ込んだのは、地下水道の奥深くにある隠し扉の向こうだった。
迷路のような通路を抜け、辿り着いたのは、かつての地下鉄の駅を改装したような広大な空間。
そこには、数十人の人間がいた。
全員、薄汚れてはいるが、その目には生気が宿っている。
そして全員が、「二本の足」を持っていた。
「お帰り、スザク!」
「無事だったか!」
「その少年は?」
人々が集まってくる。
ここは、レクタの支配に抗うレジスタンスのアジトらしい。
「おう、ただいま。ちょっと拾い物をしてな」
スザクは刀を鞘に収め、ドカッと木箱の上に座り込んだ。
そして、眼帯のない方の鋭い瞳で、俺を値踏みするように見つめた。
「さて……と。改めて聞くぜ、少年。名前は?」
「……本郷、アキトだ」
俺は警戒を解かずに答えた。
「アキトか。俺はスザク。ここ『夜明けの翼』のリーダーをやってる」
スザクは水筒の水をあおり、口元を拭った。
「この世界は死んでる。知ってるか? 10年前、あのレクタ・ファルサスって野郎が支配してから、知識や魔法を持つ奴らは全員『粛清』された。賢者も、学者も、本を読む奴すら殺されたんだ」
スザクの表情が曇る。
「今じゃ、魔法を使える人間なんて一人もいねぇ。文字を読める奴すら稀だ。残ってるのは……」
「魔法使いが、いない……?」
俺は自分の掌を見た。
さっきの雷撃。あれは間違いなく魔法だった。
「そう。だから俺はビビったんだぜ。お前、さっきド派手な雷ぶっ放しただろ?」
スザクが俺の顔を覗き込む。その距離が近い。
「いや……よく分からねぇんだ。ここに来る途中、変なジジイから吸い取っちまったみたいでな」
「吸い取った? ハッ、傑作だな! つまりお前は、この世界に突然現れた『ジョーカー』ってわけだ」
スザクは立ち上がり、俺の肩をバシッと叩いた。
「アキト。単刀直入に言うぜ。俺たちに協力しろ」
「……は?」
「革命だ。俺たちは、レクタの支配をぶっ壊そうとしてる。だが、戦力が足りねぇ。特に、奴らの『魔法兵器』に対抗する手段がねぇんだ。……お前の力が要る」
俺はスザクの手を振り払った。
「断る」
「あ?」
「俺は、CDを買いに来ただけなんだよ。革命だの戦争だの……。俺は元の世界に帰る方法を探す」
「帰る方法? ……ん、あるわけねーだろ」
スザクの冷たい声が、俺の足を止めた。
「この世界は『閉じて』るんだ。レクタとその家族が、空間そのものを歪めて封鎖してる。奴らを倒さねぇ限り、ゲートは開かねぇよ」
「……なんだと?」
「嘘じゃねーぞ。俺たちも何度も脱出を試みた。だが、空も海も、見えない壁に阻まれてる。ここは巨大な鳥籠なんだよ」
スザクが俺の前に回り込む。
「帰りたきゃ、戦うしかねぇ。……それに、お前見たろ? 足のない子供たちが、笑いながら殺し合いをしてるのを。あんな世界、見て見ぬふりができるほど、お前は冷たい男か?」
「……ッ」
痛いところを突かれた。
あの光景。片足で跳ねる群衆。狂った笑顔。
あれが、まともな神経をした人間の作っていい世界なわけがない。
「……チッ。分かったよ」
俺は大きく溜息をついた。
観念するしかねぇ。
「協力すりゃいいんだろ。……ただし! 俺が元の世界に帰るまでの間だけだ。勘違いすんなよ」
「ヘッ、素直じゃねーな。だが、それでいい!」
スザクはニカッと笑い、俺に拳を突き出した。
俺は少し躊躇ってから、その拳に自分の拳を軽く合わせた。
「で? 具体的にどうすんだよ?」
スザクは、遠くに見えるタワーを指差した。
「俺たちが殺すべきは……この狂ったシステムの心臓部。無尽蔵の魔力を供給し、レクタ一族を守り、空間を封鎖している『元凶』だ」
スザクは、呪いの言葉を吐くように、その名を告げた。
「エラーラ・ヴェリタス!……そいつを殺すことこそが、この革命のゴールだ」
「エラーラ……ヴェリタス……」
俺はその名を復唱した。
街頭ビジョンに映っていた、首輪をつけられた美女。
虚ろな目でレクタに侍っていた、あの女が?
「あいつは首輪をつけられて、従わされてるように見えたが……」
「10年前はそうだったかもしれない。だが!今は違う」
スザクはギリッと歯を食いしばった。
「あいつは堕ちたんだ。……あいつは今、レクタの残虐な遊びを、その頭脳と魔法でサポートしてやがるんだ!」
スザクの拳が震えている。
「俺の家族も……あいつの作った魔法兵器で溶かされた。……被害者だから何してもいいっていう考えの加害者ほど、タチの悪いもんは、ねぇんだよ!」
重い沈黙が流れた。
俺は、事の重大さを理解し始めた。
「……上等だ」
俺は、スザクの目を見て言った。
「俺の剣で、その歪んだ因果、叩き斬ってやるよ!」
「フフッ、頼もしいじゃねーか!」
スザクは不敵に笑い、刀を鳴らした。
「行くぞ、アキト!」
「ああ……!」
俺たちは歩き出した。
待ってろよ、東京。
必ず生きて帰ってやる。
たとえ、神を、殺してでも。




