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第2弾:ナラティブ・ヴェリタス  作者: 王牌リウ
手づくりの悪

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第1話:中年会社員の涙!

王都の下町。

安い焼酎と、煮込み過ぎたモツの臭いが充満する居酒屋『焼き鳥・若ちゃん』。

その薄汚れたカウンターで、あたし、ナラティブ・ヴェリタスは、ハイボールの氷をカランと鳴らした。


「……はぁ。世知辛い世の中になったもんだ」


隣の席には、ひどく疲れた男が突っ伏していた。

グレーの安スーツ。伸びかけの無精髭。すり切れた革靴。

どこからどう見ても、ノルマに追われ、上司に詰められ、家庭に居場所がない、しがない中年会社員だ。

名を、ガンツといった。


「あら、ため息なんて吐くと幸せが逃げるわよ? ……ま、この店の酒じゃ無理もないけれど」


あたしが声をかけると、ガンツはコップ酒を煽りながら、重い口を開いた。


「なぁ、姉ちゃん。……聞いてくれよ。最近の若いのは、なっちゃいねぇんだ」


「若いのが?まあ、よくある話ね」


「ああ。『挨拶』ができねぇんだよ」


ガンツは、悔しそうに拳を握りしめた。


「現場に入ったら、まずは客の目を見て、『挨拶』するのが礼儀だろうが。相手に『こっちは本気だ』って情熱を伝える。それが信頼関係の第一歩だ」


「……なるほどね。熱心な営業マンじゃない。基本は大事よ」


あたしはピーナッツを摘みながら頷いた。元気な挨拶はビジネスの基本だ。


「だろ!?それを今の新人は、無言で仕事しやがる。相手の顔も見ねぇで、指先一つでパパッと処理して『はい、完了っす』だとよ」


「ああ……わかるわ。最近の子って、何でも魔導端末で済ませようとするものね」


「そうなんだよ! 俺が注意してやったんだ。『おい、ルカ。ちゃんと汗水たらして、泥臭くぶつかっていけ』ってな。そうしなきゃ、客だって心を開いてくれねぇだろ?」


ガンツはテーブルを叩いた。

店主が嫌な顔をするが、彼は気づかない。


「そしたらあいつ、なんて言ったと思う? 『先輩、それタイパアー悪くないっすか? ツール使えば一瞬っすよ』だとよ!」


「タイパ……。嫌な言葉ね。一流の仕事には、無駄に見える『間』が必要なのよ」


あたしは同意した。効率化ばかり求めて、情緒のない仕事をする若者が増えているのは、どこの業界も同じらしい。


「道具だってそうだ」


ガンツは、懐を愛おしそうに撫でた。

ジャケットの下に、何か重くて硬いものが入っているような膨らみがある。恐らく、長年使い込んだ商売道具――万年筆か、計算機か、あるいは職人の工具だろう。


「俺はね、昔ながらの『重み』がある道具が好きなんだ。手入れは面倒くせぇし、音もうるせぇし、手も汚れる。……だがな、こいつが動く時の反動こそが、『いい仕事をした』っていう実感になるんだよ」


「……あんた、意外と職人気質なのね。そういうこだわり、嫌いじゃないわ」


「へへっ、そう言ってくれるのは姉ちゃんだけだ。……上は違う。『ガンツ君、今期からアナログなやり方は経費削減のため控えるように。これからはアイチーで自動化を推進します』だと」


 ガンツは、涙ぐんでいた。


「俺はね。俺は……俺は!現場に『俺が担当しました』っていう証を残すのが流儀なんだ。それが俺の名刺代わりで、他社へのアピールにもなる。……それを『カンプライヤンス的にNG』だの『個人情報の取り扱いが面倒』だの……」


彼は、深いため息をついた。

その背中には、時代の波に取り残された男の哀愁が漂っている。


「……一流の流儀が理解されないなんて、一流じゃない証拠よ。気にすることないわ」


あたしは、自分のボトルから彼のコップに酒を注いでやった。


「あんたみたいな骨のある男は、もう……絶滅危惧種なのかもね」


「……違ぇねぇ。俺はただ、真面目に、丁寧に、一件一件の案件に向き合ってきただけなのになぁ」


ガンツは酒を飲み干し、ふらりと立ち上がった。


「すまねぇな、姉ちゃん。愚痴っちまった。……これから『夜勤』だ。大きな案件が入っててな!」


彼はヨレヨレのジャケットを羽織り、小銭を置いて店を出て行った。

その背中は小さく、雨に濡れた野良犬のように震えていた。

あたしは、彼が残していった温もりを見つめた。

きっと今夜も、彼は理不尽な上司や生意気な部下に挟まれながら、汗水たらして営業回りに奔走するのだろう。


「……頑張んなさいよ、会社員」


あたしはグラスを掲げ、名も知らぬ企業戦士に乾杯した。

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