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第2話:Fly Away

主題歌:パンティ&ストッキングwithガーターベルト サウンドトラック

https://youtu.be/5lC3y4jq6V0?si=wmp7Jgbf_R0473vY

だが、詐欺師たちは一枚上手だった。

数日後。私がゲン爺の工場に向かうと、そこには「立入禁止」のテープが貼られていた。


「……どういうこと?」


工場の前で、ゲン爺がへたり込んで泣いていた。

中には、レオたちが我が物顔で居座っている。


「遅いですよ、お姉さん」


レオが、契約書をヒラヒラと振った。


「ゲンさんはね、昨日の夜、この『事業譲渡契約書』にサインしたんです。ここは今日から、ネクスト・イノベーション・ラボの『第2サテライト拠点』になります」


「嘘よ! ゲン爺がそんなものにサインするはずがない!」


ゲン爺が震える声で言った。


「……『サインしないと、お前の作った部品を使ってる製品を全部リコールさせて、損害賠償を請求する』と……言われて……」


脅迫だ。

卑劣な手口で、判断能力の落ちた老人を追い詰めたのだ。

レオは、工場の真ん中に鎮座する、ゲン爺が50年使い続けてきた旋盤を蹴り飛ばした。


「汚い機械だなぁ。油臭くて、『映えない』よ。全部スクラップにして、最新の3Dプリンタを置こう。壁はコンクリート打ちっ放しにして、エスプレッソマシンも置かなきゃね。これからは『スマート・ファクトリー』だ」


「やめろ……! それはワシの相棒だ……! 壊さないでくれ……!」


ゲン爺がレオの足にしがみつく。

レオは、汚いものを見る目で老人を振り払った。


「しつこいなぁ。ゲンさん、あなたは『シニア・アドバイザー』として名前を残してあげるよ。これからは、ここで素人の会員さんたちに、愛想よく媚びを売っててくださいね。それがあなたの『価値』ですから」


私の堪忍袋の緒が、音を立てて切れた。

法的手段? 交渉?

そんなものは、人間相手にしか通用しない。

こいつらは人間じゃない。人の魂を喰らう害虫だ。

私は懐の鉄扇に手をかけた。


「……上等よ。地獄を見せてあげる」


レオの背後から、用心棒らしき魔導士たちが現れる。


「おっと、暴力ですか? 野蛮ですねぇ。こちらは正当な権利者ですよ。不法侵入で警察を呼びますか?」


私は、唇を噛み締めた。

私が暴れれば、ゲン爺が不利になる。法律という盾がある限り、手が出せない。


その時だった。

轟音と共に、工場の屋根が吹き飛んだ。

紫色の電撃が走り、瓦礫と粉塵が舞う。


「な、なんだ!?」


レオたちが悲鳴を上げる。

煙の中から現れたのは、白衣をはためかせた一人の女性。

エラーラ・ヴェリタス。

彼女は、怒りの形相……ではなく、極めて冷徹な「無」の表情で、瓦礫の上に立っていた。

その青い瞳は、レオたちを人間として認識していない。ただの「処理すべき汚物」を見る目だ。


「……お、お母様!? なぜここへ?」


私は呆然とした。

エラーラは、私を一瞥もしなかった。

ただ、レオに向かって、静かに言った。


「……私の可愛い娘が、コソコソと何かを隠していると思えば。こんな『産業廃棄物』の処理に手間取っていたとはねぇ!」


レオが震えながら叫ぶ。


「な、なんだお前は! ここは私有地だぞ! 不法侵入で……」


「黙りたまえ、『虚業家』」


エラーラが指をパチンと鳴らした。

レオたちが持ち込んだ「最新鋭の工作機械」や、彼らが自慢していた「3Dプリンタ」が、突然暴走を始めた。


「うわあっ! き、機械が勝手に!?」


「アームが! アームがこっちに向かってくる!」


「おい学生コンサル! 直せ! 止めろ!」


レオが叫ぶが、学生たちはパニックになって逃げ惑うだけだ。


「む、無理ですよ! 僕たち、使い方も構造も知りません!」


「カタログスペックしか読んでないんです!」


慌てふためく詐欺師たちを見て、エラーラは腹の底から嘲笑った。


「滑稽だねぇ!『モノづくり』を標榜するくせに、目の前の機械一つ制御できないのかい?ならば!……君たちがやっているのは、ただの『言葉遊び』だ!」


エラーラは、右手を掲げた。

すると、ゲン爺の古い旋盤が、まるで意志を持った獣のように唸りを上げて起動した。


「いいかい、よく見ておくんだね。技術というのはね、『泥と油にまみれて、数万回の失敗の上に積み上げる執念』の『過程』だよ。君たちのような、安全圏から口だけ動かす『結果』にまとわりつく寄生虫が、ファッションで触れていい領域じゃあ、ないんだよッ!」


旋盤から放たれた魔力が、レオたちの高級スーツを正確無比に切り裂いていく。

肌は傷つけない。だが、彼らの「虚飾」である服だけが、ボロボロになって弾け飛ぶ。


「ひ、ひぃぃぃっ!?」


下着姿になったレオたちが、情けなく悲鳴を上げる。

さらに、エラーラは左手を振るった。


レオたちが持っていたタブレットや、ラボの本部サーバーが、遠隔魔法で物理的に発火した。


「ああっ!データが!僕らの顧客リストが! 知財データが!」


「消しておいてやったよ。君たちが隠していた『二重帳簿』や『違法契約の証拠』は、街中のスクリーンにホログラムで投影しておいたからね。これぞ、君たちが大ッ好きな『知財のオープン化』だろう?」


街中の人々が、空に浮かんだ不正の証拠を見上げている。

レオたちのビジネスモデルは、物理的にも社会的にも、完全に崩壊した。


「お、覚えてろよぉぉぉッ!」


レオと学生コンサルタントたちは、下着姿で泣きながら逃げ出した。

その後ろ姿には、もはや「世界を目指す」輝きはなく、ただの哀れな詐欺師の末路しかなかった。


工場には静寂が戻った。

ゲン爺は、涙を流して無事だった旋盤を撫でている。

屋根は吹き飛んでしまったが、まあ、それはあとで直せばいい。

私は、気まずそうにエラーラを見た。


結局、お母様に助けられてしまった。


「……あの、お母様。隠していてごめんなさい。お母様の手を汚したくなくて……」


エラーラは、冷たい目で私を見下ろした。

そして、無言で近づき、私のこめかみを……

鷲掴みにした。


「い、痛い痛い痛い!!あ、頭蓋骨が軋んでますわ!!」


「当たり前だ!このバカ娘が!」


エラーラは、ギリギリと力を込めながら怒鳴った。


「倫理?法律?手が汚れる?そんな水臭いことを言っているんじゃないよ!」


「えっ?」


「君の最大の過ちはね、『世界最高峰の頭脳』というリソースを、こんなチンケなトラブル解決に使わなかったことだ!私を使えば3秒で解決した問題を、数日も悩んで放置した!それこそが、最大の『機会損失』だろうが!!」


「そ、そっち!? 倫理的な話じゃなくて!?」


エラーラは私を解放し、フンと鼻を鳴らした。


「私はね、ナラティブ君。君が頼ってくれるなら、世界の一つや二つ、消滅させたって構わないんだよ。……次からは、ちゃんと報告しなさい」


少しだけ顔を赤らめてそっぽを向くエラーラを見て、私は苦笑した。

この人は、本当にマッドで、そして不器用な母親だ。


「……はい。肝に銘じますわ」


「よろしい! では、帰るよ!罰として、今夜は私の実験の被検体になってもらうからね!新作の『味覚が3日間すべて激辛になる薬』のテイスティングだ!」


「嫌ぁぁぁぁ!! それだけは勘弁してぇぇ!!」


夕暮れの下町に、私の悲鳴と、ゲン爺の豪快な笑い声が響いた。

本物の技術は、泥臭い手の中にこそ宿る。

そして、本物の絆もまた、泥まみれになりながら守り抜くものなのだ。

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