25. 美樹ちゃんの日記帳
※登場人物紹介
◇ 首なし女子高生幽霊(私)………湖の精霊?
◇ 上杉 美樹………桜花高校一年時、別荘の湖で溺死
◇ 明智 詩織………同高校二年生 美樹の親友
◇ 織田 海斗………同高校二年生 美樹の幼馴染
◇ 北条光………同高校二年生 美樹の従兄
◇ 上杉 京香………美樹の母親
◇ 上杉 エリック………美樹の父親
◇ 北条 武士………美樹の叔父 光の父親
◇ ◇ ◇ ◇
「北条君、美樹や私のことをそんなに思ってくれてありがとう」
「!?」
「あ、美樹の叔母さん!」
詩織ちゃんと織田君が一斉に部屋の入口に目線を移しました。
ドアを開けて入ってきたのは美樹ちゃんのお母さん、京香さんでした。
「叔母さん……」
項垂れて泣いていた北条君も、顔をあげて京香さんを見つめます。
「ごめんなさいね。悪いと思ったけどドアの外で聞いてしまったわ」
「あ……僕らの話を……」
「ええ……」
「叔母さん、ごめんなさい。謝って済むことじゃないけど、ごめんなさい」
「詩織ちゃん……」
「僕も、僕もごめんなさい。僕がよけいなこと言わなければ美樹は……」
詩織ちゃんと北条君が、京香さんの側に寄って涙声で謝ります。
「二人共、謝る必要なんて何もないのよ」
「でも……」
「詩織ちゃん、そして光も本当にもう謝らないでちょうだい」
京香さんは笑顔で首を振りました。
それでもキッとした表情になって、二人に諭すように言いました。
「美樹はね、あなたたちが思っているそんな弱い娘ではないの、もっと強い娘よ!織田君に振られたくらいで身投げする娘じゃないの!」
「!」
二人の後ろにいた織田君もビクッとなりました。
「そうだけど……」と詩織ちゃん。
「いいえ詩織ちゃん、どうか聞いてちょうだい!あの日は光が言ったように晴天だったわ。夕方から突然天候が変わって物凄い大嵐になったのよ!あの時の美樹は、単に運が悪かっただけ!」
京香さんは語気を強めました。
三人はその気迫にのまれたのかシーンと静まり返ります。
その後で京香さんはあの日のことを淡々と話していきました。
「──昔、美樹の祖母がよく私が幼い頃、子守唄を歌ってくれたの。
『ももとせの月見月に、水神様が家来の魚の大群を引き攣れて百年に一度大嵐を起こす』て。昔からいい伝えられてる鏡湖のわらべ歌よ。あの大嵐はまさに百年に一度だった。──鏡湖付近の旅館やペンションは浸水のせいで家屋が壊れて、今も修繕中だし、近隣の林の大木もそうとう雷で焼け落ちてしまった」
京香さんは一年前の大嵐の大災害を思いだしたのか、ぶるっと身震いしました。
「──多分美樹は、いつものようにダイビングした後、直ぐにボートを漕いで乙女涙の島から戻ってくるはずだったと私は思ってる。きっと二人のことについても、日記帳にそう美樹は書いてあるはずよ」
そういって京香さんは手に持っていたラベンダー色で、サイズがB6程の日記帳を三人に見せました。
それは、表のカバーは耐久性のレザーで星型の金色のロックが付いていました。
なかなかお洒落でコンパクトな日記帳です。
「叔母さん、それ……美樹の?」
織田君が訊ねました。
「ええ織田君、美樹はね、ああ見えてけっこうマメな娘で、小学生の頃からいつも日記をつけてたの。もう何十冊も部屋の棚に置いてあるわ」
「そうなんだ……」
今度は詩織ちゃんが意外そうにいいました。
北条君が疑問に思ったことを口にします。
「なら叔母さん、美樹はあの日も日記に書いてたの? あ、でも昼間だから書く訳ないか」
「ううん光、あの子はね、何か嫌なことや嬉しいことがあると直ぐ日記に書くの。『文章にして書くと気分がすっきりする』って、よく私に言ってたわ。だからあの日も鏡湖で、美樹が潜る時に持ち歩くバックに着替えと、この日記帳が入っていた。でも……読むことは叶わないわ」
「叔母さん、何で?」詩織ちゃんが聞き返します。
「美樹は中学二年生から鍵付の日記帳を使い始めたの。やはり子供の頃と違って親に読まれたくないのか、用心してたみたい。美樹が亡くなった日も、持ち歩いていたけど鍵がしたままで開かないのよ」
京香さんは手に取っていた日記帳の星型のロック鍵に触れた。
おしゃれな日記帳だが、よく見るとラベンダー色が日ヤケでところどころ色あせていた。
カバーには可愛い有名な“さんメロ”のマスコットシールが何個か貼ってあった。
さんメロは美樹のお気にいりのキャラクターだ。
「え、でも叔母さん。美樹の部屋とか探したらスペアキーが見つかるかも」
北条君がすかさず言いました。
「一応探したんだけど、他の日記帳の鍵は見つかったのよ。美樹は最後に書き終えた物は、必ず鍵をカバーに添えてたから。でもこの日記だけはスペアキーが見つからない。常に持ち歩いていたから本キーを、あの嵐の晩に落としたのね、もしかしたら湖の中からもしれないわ」
「じゃあ叔母さん、だったら、この際ニッパーとかで開けちゃったら?」
さらに北条君が提案しました。
織田君と詩織ちゃんは美樹ちゃんの日記があると知って、逆に幾分戸惑った表情でしたが、北条君はどうしても美樹ちゃんの日記を読みたいみたいです。
「そうね、そう思ったんだけど……やはり最後に美樹が持っていた遺品だから、できれば傷をつけたくないのよ」
「あ、そうか……ごめんなさい」北条君は顔を赤らめました。
「光、謝らなくていいわ。本当は亡くなった娘の日記を読むのもどうかと思ったけど、あなた達の話を聞いていたら、美樹がどんな気持ちだったのか。──あの日の美樹の思いが何か分かればいいなと。それも話したくて、今日二人に来てもらったの」
「「叔母さん……」」
織田君、詩織ちゃんは京香さんの顔をしっかりと見つめました。
「あなたたちの心が少しは晴れるんじゃないかと思って──それを言いたくて持ってきたのよ」
「でも叔母さん。私、逆に怖いわ。だってもしあの日、美樹が日記に『私を絶対に許さない!』とか書いてあったら……私、もう……どうしていいか……」
「俺もです。美樹が俺のこと好きだってわかって、俺が詩織にしたこと恨んでいたら……俺、俺」
「いいえ大丈夫、それは絶対にないわ!」
「どうしてそんな風に言い切れるんですか?」
詩織ちゃんが聞き返しました。
「それはね──」
京香さんはにっこりと女神のように詩織ちゃんに微笑みました。
※明日(1/10)も投稿予定です。




