21. 美樹ちゃんの恋と嫉妬と画策
※2026/1/4 一部追加訂正済。
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『織田、あんたなんで?』
『いいから、手を取れよ』
『え、なんでゴールしないの、一位になってたじゃん!』
『一位とっても、お前が転んだから……フェアじゃないだろう』
『フェアじゃないって。あんた何いってんの?』
『いいから、ほら!』
織田はあたしの手をぐいっとひっぱりあげて、軽々と立ち上がらせてくれた。
それは織田があたしに見せた初めての優しさだった。
もう既にあたしたちの前を何人も通り過ぎて、大勢の子たちがゴールテープを切っていた。
その時、織田はあたしにこういったんだ。
『美樹、お前、今日は惜しかったな。女のくせに俺と張り合うなんて生意気って!思ってたけど、やっぱお前の根性、俺は嫌いじゃないぜ!』
『織田……』
あたしは戸惑いながらも織田を見つめた。
その時、あたしは今まで感じたことのない、妙な気分になって焦って喚いた。
『あ、あんた馬鹿?あたしなんてほっとけば一等だったのに……』
『いんだよ。今日は俺も足痛かったし。無理はしない。美樹、俺たち勝負は次回までとっておこうぜ』
『……』
その時の──あのへんな気持ち。いまだに覚えてる。
涙が出そうな、でも涙なんか織田には絶対に見せたくないから、ぐっとあたしは堪えた。
織田の日焼けした笑顔が太陽に輝いてキラキラ……なんだよ、今日はやけに眩しいじゃないか。
こいつが下級生たちから、人気あるの知ってる。
悔しいけど確かにカッコいい!
は?
なんだあたし、
なんだこれ? 気持ち悪い。
それって初恋じゃね はあぁ?
ええ嘘だろ、よりによってこのあたしが?
チクショー! なんたる屈辱!!
※
結局、あたしと織田はその場で一緒にゴールしたんだ。
それ以来、あたしはなんとなく、織田と勝負するのを避けるようになっていた。
でも⋯⋯気付いたら、あたしのブルーアイズは織田をいつも追っていた。
空手部以外も、運動場で、教室で居眠りしてるのも、北条にからかわれてる時も。
中学最後の年は織田海斗であたしの脳内は一色になった。
※ ※
でもあいかわらず、織田と逢えばあたしはぶっきらぼうな態度ばかりとってた。
絶対にあたしが織田を好きだという気持ちは、あいつに悟られたくなかった。
なんだか嫌だった、子どもの時からの腐れ縁が切れてしまいそうな予感がしたんだ。
※
だから織田があたしと同じように、いつも詩織を見つめていたのは、すぐにわかった。
小学校からあいつ、和風っぽいタイプの女の子にちょっかいだしてたの知ってたから、詩織は織田のドンピシャだっただろう。
あたしとはまったく正反対の女の子。
あたしとは違って詩織は女らしい。
あたしとはまったく違う。
そうだ、織田にとってあたしはたんなるライバルの一人でしかない。
あいつはあたしなんか眼中にない。
だから告白なんてできない。振られるのは目に見えてる。
振られたら以前のように、気軽にしゃべれなくなる。
どうする、でも告白する? 駄目だ、できない。けどあきらめきれない。
こうしてあたしは毎日、悶々とした。
◇ ◇
美樹ちゃんの独白テレパシーはここで突然、ぷつりと切れました。
──美樹ちゃん。あなたの気持ちが痛いほど、私の心にどんどん入ってくるよ。
私は美樹ちゃんの織田君への想いが伝わってきて、心がズキズキ痛みました。
自分の親友を自分が好きな男の子が好きになるなんて残酷だなと。
ただ、私は自分が湖の精霊らしいが、魚として生きていた水底の記憶しか覚えてないのです。
多分、人ではない何かなので同情はするけれども恋愛という感情は、湖上の陸地に住む人間のお伽話でしか知らなかったのです。
だから、初恋は大人になればいつか醒めるものだという、イメージがありました。
美樹ちゃんの話を聞いてるとそんな気持にもなってました。
ましてや、まだ3人は高校生です。これからいくらだって恋愛は……
その時です──。
(そうだよ精霊さん、自分を愛してくれない奴が親友を愛するって残酷だね、あたしは耐えられない。このまま二人がくっついたら、あたしは親友も友人もみんな失うと思ったんだ!)
──美樹ちゃん!
即座に美樹ちゃんのテレパシーが入ってきました。
美樹ちゃんはまっすぐ私を見つめて無表情に親指を下に向けるジェスチャーをしました。
(だから、あたしは織田が詩織に告白する前に先手を取った!)
──先手?
(うん先手さ。織田が詩織に告白する前に、あたしは織田が好きだって詩織に何度も打ち明けんだよ)
──え、それってどういうこと?
私は美樹ちゃんの意図が汲み取れません。
多分、人間ならすぐにわかるんでしょうが。
なにせ、元は古代の巨大アンコウだったのですから。
(あ、そんなこともわかんないの? けん制だよ。やられる前に潰す!女同士のね、親友の好きな男にはけっして手をださないって暗黙のルールは女子にはあるんだ。だからそれを詩織にさせた、だからプレッシャーをかけたっていったの )
──なるほど、そういう仕組みが人間にはあるのね?
私は納得しました。先手必勝てやつか。
(でも、詩織はあたしを裏切って織田と付き合っていたんだ)
その時の美樹ちゃんは、それまで淡々と話してたのに、青い瞳が爛々と輝いて、突然すさまじい形相になりました。




