微分と積分-すれちがう二人の恋物語
僕は奇跡の瞬間をみた
二人は正反対の存在だった
同じモノを追いながら、しかし全く異なる方法で真理を探している
ある日二人がeを追いながら出会ったとき
彼は彼女は、自分たちは同じものだと気づいたのだ
そのとき僕は一番近くで二人を見つめていた
しかし・・・
彼は「いま」を見つめる人だ。
過去も未来も関係なく、「いま」この瞬間を見つめている。
曲線を容赦なく斜めに切りつけ、触れたその瞬間、そこにある傾きを見抜き、そこにある意味を読み取る。
彼が信じるのは、確かな一点の変化。実体として目の前に立ち現れる、確定した勾配だけ。
そこにすべてが宿る。
そう彼の名は「微分」
世界を理解するために、関数を切り裂いている。
彼女は、「過去から未来」を愛する人だ。
一つ一つの瞬間を、過去から未来へとやさしく抱え込むように集めている。
どんなに小さな変化も、彼女は見逃さない。
彼女の目は広く、深い。
それは単なる足し算ではない。無数の点が織りなす連続の流れを紡ぐのだ。
そう彼女の名は「積分」
関数を通して、彼女は過去から未来を理解している。
彼は傾きを見つめ、彼女は面を見つめた。
彼は線を引き、彼女は塗りつぶした。
彼は変化を愛し、彼女は蓄積を愛した。
彼は「いま」を見つめ、彼女は「過去から未来」を想った。
ある日、二人は同じeをたどり、そして気づいた。
「君は僕だ」
「あなたは私」
それは奇跡だった。
離れていたものが、本当はずっとつながっていたかのように。
まるで、反対に進んでいた道が、実は同じ始まりと終わりを持っていたかのように。
二人は鮮烈に惹かれ合った。
「微分」が見るのは「動き」、「積分」が見るのは「歩み」。
ふたりが重なるとき、そこには世界の全体像が立ち現れる。
「微分」は、「積分」の深さに惹かれた。
点の外側に広がる無限の記憶に。
すべてを見通すような、あの落ち着いたまなざしに。
彼には到底たどり着けない「全体」が、彼女には見えているようだった。
「積分」は、「微分」の鋭さに憧れた。
一瞬の真理を見抜く、その速さと正確さに。
複雑なものを単純に読み解く、その姿はまるで魔法のように見えた。
ふたりは違った。
だからこそ、惹かれ合った。
だが、それでも、同じ関数を愛しても、
彼らは一つになれない瞬間がある。
そう・・・
「積分」が彼女が世界を集めるとき
必ず最後に僕があらわれる
僕は彼女から離れることができない・・・
二人は交わろうとするとき、必ず衝突した。
「微分」は何度も問う。
「なぜ、君はCを持っている?僕のもとへ戻ってきたなら、Cなんて不要なはずだ。」
「積分」は静かに首を振る。
「私には、あなたが見ない“過去”がある。私はすべての道を見てきた。だから、Cは残るの。私の記憶そのものだから。」
そのわずかなズレが、ふたりの間にいつも残る。
定数Cは、人が世界を理解しようとするとき出てしまう余白。
それは不完全さではなく、世界の美しさなのだと、
「微分」は、まだ気が付いていない・・・
そう決して消せない存在、それが僕「定数C」
微分と積分が、また別々の道を歩きはじめるとき、
ふたりの間には、変わらず僕「定数C」いた
僕があらわれるのは、
ふたりが触れ合った証だと、いつか「微分」は気が付くだろうか
不完全さの中の美しさを愛する日が来るだろうか
ねえ、覚えておいて
完全な世界の中にも、ひとつだけ不確かな余白があるということを・・・
最後まで読んでいただきありがとうございます。
擬人化して妄想するのって楽しいですよね♪
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