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7話


「初めて見る子だ」


 ちょっと離れたところに、ラナと黒と赤の子がいた。何かとラナの世話を焼いてくれている。


「最近来るようになったんだよね。ラナともともと家族だったりしたのかな?イルちゃんは何か分かる?」


 干渉しないようにしてたから、まだ関係は分かってない。もしかしたらラナも森へ帰っちゃうかもと考えると少し寂しいけど、ラナが望むのなら良いことだ。


「いや、違くない?お姉さんぶってるだけというか」

「え、あ、そうなの?」


 勝手にラナの生い立ちを考えちゃってそういうことだと思ってたけど、確かにただ導いているにしては自慢気という感じもする。

 うわ、勘違いしてた!恥ずかしい。


「ホントだそれっぽい……ラナのこと好きになっただけだったか……」


 一度そう見えたら、もうそうとしか見えない。


「ミルスの恋愛事情ってどうなんだろ」

「リコちゃんが知らないのに私が知るわけないでしょ。気になるならユフィに聞きなよー」

「ユフィに聞いても、多分ユフィは知らんって言うだけよ。興味ない人に聞いてもね」


 ユフィはそんな感じのミルスだ。


「まーそっか。ユフィが一番好きなのはリコだろうしミルス同士のことは分かんないよね」

「恥ずかしいこと言ってくれちゃって……」


 顔が赤くなってるのが自分でもわかる。からかうように笑顔を向けてくるイルちゃんに照れ隠しのチョップを入れる。


「じゃあむしろ、イルちゃんに人間同士の恋愛とやらを聞こうじゃないか」


 ちょっとした復讐だ。


「ふっふっふ、私がいつ人間だと錯覚した!」

「じゃあ何なの」

「妖精さんだ!」

「もー、何それ……」


 完全にイルちゃんのペースだ。私にどうにかなる相手じゃなかった。


 そんな能天気な話をしている間も、黒と赤色の子はラナの相手をしている。ラナの方は何も気にしていなさそうで、ちょっとアピールが空回りしてる気もする。気付いてあげて!と思うけど、私も気付いていなかったのだから他人のこと言えない。


「もどかしいけど、余計なことしちゃ悪いよね」


 イルちゃんにセリフをとられちゃった。あの子から相談されるようなことがない限り、ただ見守っているだけの方が良いよね。



「いただきまーす」

「いただきます」

「ミャー」

「ナゥー」


 折角なのでお昼代わりに丸太ネギの実食タイム。ざるそばの薬味としてのネギと、焼きネギ。素材の味を確かめたいのでシンプルにした。

 蕎麦は白いので冷や麦に見えるし、色のコントラスト的には白と白であんまりだ。


「うん、これはネギ」

「だね」


 文句なしでネギ。いや、ちょっと違うかも。ネギであることに文句はないけど、ネギとしては文句ある。


 なんというか、普通にネギとしてあんまり美味しい方じゃない。


「改良の余地ありだけど、作物としては良いって感じね」

「悔しいなぁ」


 ミルスが育てたやつは美味しかったので、私の育て方が悪かったか、やっぱり青い蔓のせいでおかしくなったか。


「作り直しだねー」


 多少ミルスに手伝ってもらってるとはいえ、人の手で作れるかの実験。育成期間はそれなりにかかり、やり直すと言ってもすぐに結果は出ない。


 つまり、育てていた三種類とも失敗。ガッカリな結果だ。


「ネギは作り直しで、あとは諦めかな」

「んー、このトウモロコシはもう一回やってみて欲しいかも」

「そう?」


 イルちゃん的には結構魅力があるみたい。食用としてじゃなく、薬か何かに良いのかな。


「じゃあ、ジャガイモを紫トマトに変えて再挑戦かなー」


 新作物の開拓が一番お金になるから、頑張りたいところだけど……。今回みたいにイレギュラーで台無しになっちゃうとやっぱり引きずっちゃう。


「どこでも農業は一筋縄では行かないねぇ」


 ここでは台風や地震とかの自然災害はまずないし、一番大変なモンスターによる被害もミルスたちのおかげで防げる。最高と言っても良いくらいの環境なんだけど、イルちゃんの言う通り中々難しい。


 それでも、農園を始めた頃に比べたら格段に良くなってる。



 最初の頃は本当にめちゃくちゃだった。


 始めの頃にとある草を植えられた時は、そりゃあもう大変だった。雑草とはまた違うんだけど、ミルスの手に掛かれば似たようなもの……というかそれ以上の生命力で生え続けちゃった。


 他の植物の栄養を吸っちゃってミルス同士のケンカにもなったし、農園どころじゃなくなってた。


 しかもそれを植えたミルス自身はその草をモリモリ食べてたんだけど、他のミルスは口にさえ出来ないような植物だった。私も危ないから食べちゃダメって言われてそれまで。


 さらにはこの前の青い蔓の時と同じで、突然そのミルスが来なくなっちゃったんだよね。ただでさえ増えすぎてたその植物がミルスの管理を離れちゃうともう大変。


 際限なく増え続けて農園の他の植物は完璧に全滅しちゃった。その上さらに範囲を増やして、家の周りを取り囲んで、丘を下って町まで草だらけ。ユフィはとにかく自分の米畑を守ってた。

 町の方は何か作物を育ててるわけじゃないから大して問題にはならなかったみたいで、本当に良かった。


 その植物の繁殖は数日後、栄養切れなのかいきなり止まったかと思うと枯れ出した。


 後からその草の育成条件が見つかって、それがなければあんまり増えないことも分かった。逆に扱いやすいと評判になって、今では他の町で有効活用されて一番有名になっているくらい。


 そんな感じで新たな発見はあるんだけど、いちいち全部台無しになるようなことが少なくなかった。ミルスもそうしたことがあると離れちゃうから、常連さんなんていなくて苦労ばっかり。


 最低限の決まりを作ったり、ミルスたちと仲良くなったりして、ようやくここまで安定してきたのだ。



「まあでも、紫トマトは期待大だし楽しみだね」

「うんうん。育成条件が変わっても、それはそれで味の変化が気になるよね」

「そうだねー。エベナでのスタンダードになる可能性を秘めてる植物だね」


 本当にそうなったら、トップ冒険者並みの報酬が貰える。冷蔵室みたいな便利な機能付きの部屋や建物を増やす事だってできるから、ワクワクだ。宝くじが当たるみたいな感じ!


「もしそうなったら何を買おうかなぁー」


 こういう「もしも」を考えるのって楽しいよね。


「ミルス用にもなる大き目の部屋作るとか?ラナとあの子がくっ付いたら、あの子も家族になるわけでしょ?」


「あー、確かにそうかも?あんまり考えてなかったや。でも、増築すると農地が減っちゃうかも」


「確かに。そしたら家の下の方を整えて、農業に使える土地増やすとか」


 普通なら森を切り拓くという方法で使える土地を増やすのだろうけど、それは難しい。ミルスたちの土地を奪うようなものだからね。ミルスがいない南東方向も、エルフの方へ近づくことになるからもっと難しい。


「そうなると、丘を削る感じ?」


 森への影響がなければ基本問題はないはずだけど、ミルスたちの心象はどうだろう。


「削るか盛るか、その両方かだね。しっかりした人に頼めば心配してるようなことにはならないと思うよ?」

「はえー、そうなんだ。したら結構ありかも」


 重機で山を削るような想像をしていたから、いかにも自然破壊ってイメージがあったけどそうでもないのかな。

 そういえば家を建てた時やふもとの町を作ってた時も、魔法だからか自然な形で地面をいじくっていたっけ。あんまり気にしてなかったから、印象が薄い。


 農地の確保が出来るとなると、増築も現実味を帯びてきた。


 ミルス用に増築するなら、土間から行ける地面スペースを増やした方が良いのかな。便利な洗浄魔法もあるし部屋に上がる形でも良いとは思うんだけど、屋根付きの作業スペースを増やす意味も含めて便利そうだ。


「あー、そういえば温室みたいなのも欲しかったんだ」

「前言ってたねぇ」


 温室と言っても、植物を育てるための部屋じゃない。


 不思議な作物ばかりだから、保存方法として常温や冷蔵以外にも、暖かい部屋が適している場合があるみたい。他にも熟成のために置いておく場所としても使えるだろうし、最近あったら良いなと思うことが増えてきた。


 単純な増築ならそこまでお金は掛からないけど、温室の方はかなりの額になるはずだ。

 なんてったって私が欲しいのは、管理が楽な永久型。経費がどうとか手入れがどうとか、私には難しい。

 アーティファクトと呼ばれるような一級品のアイテムを使用することになると思う。


 もともとこのエベナという世界では、電気の代替エネルギーはあるけど変換効率が悪いとかなんとかで使える家電みたいなものは制限されちゃう。しかも私のこの家は、町から離れている関係でそれが顕著。

 考えるのが苦手な私としては、ここだけで完結する形にしたくて余計お金をかけちゃうことになるのだ。


「ふふ、せっかく儲けたとしても、またあっと言う間に使っちゃいそうだね」


 冒険者さんたちは儲けてもすぐ装備だなんだでお金を使っちゃうみたいで、金遣いが荒いなんて言われてる。だけど私も設備とかにすぐ使っちゃうから、同じようなものなんだよね。


 失敗して丸っきり無駄になることもあるから、なんなら私の方が酷いかもだ……。

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