6話
翌日の朝は、ちょっぴり寝坊しちゃった。
いつも私が起こしてるユフィもこっそり横からいなくなってるから、気を使ってくれたんだと思う。
支度をしてから外に出て、農園を確認する。改めて明るい状態で見てみると、やっぱり農園は被害が大きかった。
「あちゃー」
蔓の重みで折れたり傾いていたり、栄養を奪われたのか端っこが枯れていたり。
昨日は手を付けられなかったり、今日初めてこの事態を知ったミルスは自分の植物をなんとか復帰させようと、あくせか働いている。影響の少なかったミルスたちも、見るに見かねて手伝っている子が多いので、今日はミルスがたくさんいる。
こんなときにあれだけど、こんなに勢揃いしていることも少ないからちょっと楽しい。
と、楽しんでる場合じゃなくって、私もそんな中で手伝いや収穫をしなくちゃいけない。美味しいうちに採らないとそれまでの努力が無駄になっちゃうし、一回の収穫で満足してないミルスの植物の場合は、収穫自体も手入れの一つと言える。昨日の午後は収穫出来なかったから、その分も頑張らなきゃ。
「ヌー……」
引き抜いた大根みたいなやつが、萎れていた。あの青い蔓の近くだったから、その被害を受けちゃったんだ。ゴワゴワした茶色いアリクイみたいなミルスがしょんぼりしてしまって、私も悲しくなってくる。皮手袋のままそっと背中を撫でてあげる。
でも、いつまでもそうしてもいられない。申し訳ないけど声を掛けてその場を離れ、次の収穫をしに行く。
残念ながら、次の作物もやられていた。幸いと言って良いのか、その植物はもう担当のミルスが飽きていたから悲しまれることはないけど、ため息が出ちゃう。この調子だと、整理することになる植物は多そうだ。
「ふぅ」
いつもなら朝の作業は早めに終わることが多いけど、ミルスたちの要望もあって途中から整理も平行して行っていたからあっという間にお昼だ。ただ、頑張った甲斐あってほとんど作業は終わってる。沢山のミルスたちが手伝ってくれたおかげだね。
「ナー」
「ナゥナ」
「本当にありがとうね!」
特に活躍してくれたのは黒と赤のこの子。この農園に何の植物も植えていないのに、昨日から頑張ってくれている。使う魔法もすごく便利で、不要な植物をどんどん溶かしていく。ちょっと怖い気もしたけど、溶けた植物はそのまま栄養になるし、何より今のところ全部の植物に効果がある。
ミルスたちが植える植物は抜いた後も処分の方法に困ることも多いから、まとめて済んじゃうのはびっくり。
何で手伝ってくれてるのかサッパリだったけど、なんかラナを気にしている感じがする。一方のラナは何にも気にしていないから不思議な関係。あんまり深入りしてもお節介になっちゃうから、悪いようにはならなさそうだし一旦は気にしないでいっかな。
お昼は紫トマトの酢の物?と、バナナップルの上側を入れた肉野菜炒め。
紫トマトの酢の物が特に美味しく作れた自信作だ。ここで採れたワカメっぽいキャベツと白身魚も良い感じに合ってる。疲れがとれそうな味。
私自身紫トマトにハマりだしているので、やっぱりこれは育てるべきだと思う。育てるのもそこまで大変じゃなさそうだしね。
でも、今日のところのお昼はのんびりしよう。ここまで結構頑張ったし。
ご飯を食べ終わってからは、ポカポカの縁側でゴロンとする。疲労が溶けていくようで気持ち良い。よく働いたからこそ感じられる幸せだ。
豚になるぞー、と同じく眠そうなユフィから言われる。
「ならないならない。なるとしても、きっと可愛い豚さんっぽいミルスだよ」
じゃあこっちは豚っぽい人間か、なんて何も考えず言葉を吐くユフィも横で丸くなり始めた。
◇
油断すると溜まってしまうもの。それすなわち洗濯物。
なんか忙しいとか、天気が悪いとか。ちょっと重なってしまうと、気付くと山になってる。
魔法で綺麗にすることは出来るんだけど、ふんわり気持ち良いお日様の匂いがする仕上がりにはならないから、私はあんまり魔法を使わない派だ。
やるぞ!って思った時ほど噴水があったりする。
今日はやっと干せる感じの晴天だ。昨日は雲行きが怪しかったし、その前は噴水で、そのまた前は……疲れてたか忙しかったんだっけな?
洗濯機は無いけど、大きな桶に水と洗濯物と綺麗になる泡が出る植物を入れて、掻き混ぜたり踏んだり。
お上品な服だともっと丁寧じゃなきゃダメかも知れないけど、私のはへっちゃらだ。
量が多いと大変だけど、ユフィやミルスたちが手伝ってくれたりもする。特にモモがこれを魔法で掻き混ぜるのが好きでよくやってくれる。私もそれを見るのが好きだから、きっとおんなじ気持ち。
右へグルグル左へグルグル。渦を見るのって楽しいよね。前は青緑色の子がいてその子もやってくれたんだけど、来なくなっちゃった。ちょっと寂しい。
よく混ぜ終わったら、普通の水に入れ替えてもう一回。まだあまり見慣れていないからか、物珍しそうにラナも来た。さらに黒と赤の子も来た。本当に最近付きっ切りだ。
洗い終わったら物干し竿に掛けて、一旦終了。この干している時の、洗濯ものをしている!って感じも結構好き。
今日はミルス農園に加えて、私の農園も収穫する。ミルスに頼らず人の手で育てられるかの試験場も兼ねてるやつ……なんだけど、全くミルスに手伝ってもらってないというわけでもない。
今は赤い稲みたいなトウモロコシと、丸太みたいに太いネギと、キュウリみたいな黒いジャガイモを育ててる。特にこのふっといネギはみじん切りにしちゃえばネギそのものに見えるから、きっと人気が出るはず。こんなに大きいのにミルスが育ててくれた分は自分で全部使い切っちゃったくらいだし。
心配なのは、この前の青い蔓の影響。こっちまで伸びて来ていたわけじゃないし今のところ影響はなさそうだけど、意外なところで影響が出たりもする。最初からミルスに任せてるわけじゃないからか、元植え主のミルスに聞けても「多分大丈夫?」くらいのことしか分からないみたいなんだよね。
稲モロコシの実を採ってみるけど、多分これはダメだ。なんか変な感じ。ぼそぼそしているというかしょぼくれてる。キュウリも完全にダメ。これの収穫はもっと早いはずなのに育たないから待っていたんだけど、しなしなだし手に持ってみると中もスカスカだと分かった。収穫自体しないでいいかな。
肝心の丸太ネギは、けっこう良い感じ?ちょっと緩いというかスカスカな感じもするけど……味見して平気そうなら、継続して挑戦だ。
「ちゃすちゃすちゃーす」
「イルちゃんちゃっす」
まだおはようの感じもするけど、「ちゃす」って言われたから「ちゃす」で返した。「ちゃす」って「こんにちは」の範囲だよね?「こんちゃーす」の省略で……ん?まあいっか。
「おー、ネギいけそうじゃん!ジャガイモは駄目かぁ……」
「残念だねぇ」
ジャガイモはイルちゃんの旦那さんの好物みたいだから、期待してたんだって。今でもジャガイモの代わりになる食べ物はあるんだけど、なんか違うみたい。好きなものだと結構こだわりが出るよね。
「この前植物の大繁殖があって、その影響が出ちゃったかも」
「あらららら。久しぶりにあったのね。ご愁傷様です」
イルちゃんにも何度か助けてもらったことがあるから、その大変さは知ってる。特に大きな事件が五回あって、そのうちの二回も助けてもらったくらいだ。
「因みにどの子?」
「青い蔓が広がってウネウネしてた」
「なるほどねぇ」
考え事をしながら、しゃがんで丸太ネギを洗っていた私の頭を撫でてくれる。こういうところで子育て経験が本当なんだなって感じる。優しい手。
「ん?これなに?」
「それはあの稲のトウモロコシ。ダメそうだよねぇ」
「あー、はいはい。……もしかしたら使えるかもしれないから貰って良い?」
「どうぞどうぞ」
私にはさっぱりだけど、食べ物としてはどうしようもなくても薬とか他の使い道なら意味があったりもするみたい。