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4話

 私の仕事は、農園以外にも一応ある。やりたくなければ断ることも出来るんだけど、良いこともあるし心配なとこもあるからやってる。


 それが、仲人って呼ばれる仕事。


 結婚式のやつと同じ言い方だけど、結婚式の仕事じゃない。

 仲人って言うのは、人間とミルスの仲介をすること。


 私はミルスたちと仲良しだし言ってることも分かるけど、みんながそうってわけじゃない。誰かがミルスとお話したかったり、ミルスと仲良くなりたかったり。そういうときに、私がお手伝いするお仕事。


 ふもとの町には、人に興味があるミルスとミルスに興味がある人が会うための、大きく綺麗な公園がある。仲人の仕事はここですることがほとんどだ。



「リコさんですね。今日はわざわざありがとうございます!」


 依頼した人はやる気十分。後ろにメラメラと炎が見えそうなくらい気合いが入ってる。

 髪にも何か塗ってしっかり整えていて、服も綺麗にしてる。いつも作業着な私にファッションは分からないけど、オシャレなんだと思う。女性とデートにでも行きそうな感じだ。


 この人は、最近仲良くしてるミルスにどう思われてるか知りたいみたい。ミルスは勝手気ままに過ごしていることが多いから、仲良くなったつもりでも実は全然で、顔も覚えていないってことがあったりするから心配だ。


 本当に仲良くなれてたら、そのまま行けば仲間や家族になれるかもしれない。大好きなミルスを見つけた人は、脈ありかどうか知りたくて仕方がないのだ。


 もちろんミルスの方も好きな人間さんを見つけた場合は確認したいこともあるだろうけど、わざわざこの町に来てこの公園に顔を出す人が断ることなんてないから、ミルスの方がちょっと偉そうにしてることが多い。


 拳を握りしめながら目的のミルスの元へ向かう男の人、オシャレさん。よっぽど気になっているみたいだ。


「こ、こちらの方です」


 木陰でのんびりしていた黒色のミルス。ちょこっとだけ赤い色の模様が入ってて格好良い感じもある、耳の長い猫みたいな姿。流線形のフォルムが格好良くも可愛くもある、人気の高そうな子だ。


「ナー?」

「こんにちは。今日はこっちの人の通訳で来ました」


 ミルスに説明すると、「ふーん」と興味があるのかないのか分からない感じでオシャレさんの方を眺めてる。


「話を始めてしまっても?」

「どうぞどうぞ」


 軽く胸を叩いて咳ばらいをして、気合いを込めるオシャレさん。


「最近いつも一緒にご飯を食べたり遊んだりしているので、結構僕たちは仲良くなれたかなと思うんだけど、あなたはどう思っているのかな?」


「ナン?」

「べつに?ですって」


「べ、べつに……えっと、僕はあなたと仲良くなりたいなと思ってる、思ってるのですが、どうでしょうか?」


「ナァ」

「さぁ。ですって」


「え、えっと……」


 ミルスはこんな感じのことが多いんだけど、ちょっと可哀そうだ。


「脈ありかなしか、バッサリ聞いちゃいましょうか?」

「……お、お願いします」


 もうここまで来たら聞くまでもないと思うんだけど、ハッキリさせてあげた方がこの人のためだと思った。


「この人と一緒に過ごしたいって思う?」

「ナー」


 私はオシャレさんの方を向いて、腕でバッテンを作る。

 オシャレさんはグサッと何かが胸に刺さったようによろめきながらも足に力を入れ踏ん張る。


「ぐ、ぐあ……あ、あなたと過ごした日々は幸せでした、今、今までありがとうございました!」


 ガバッとミルスの方に頭を下げたかと思うと走り出すオシャレさん。今にも泣きそうだった。



 追いかけて入ってきた公園の出入口まで行くと、オシャレさんがやっぱり泣いてた。


「え、えっと」

「ぅぐ、いいんです。最初から、こういう、ものだって、聞いてましたから。ぐすっ。でも、やっぱり一緒に、ひっく。」


 こんなふうになることはあるんだけど、いつもどうしたら良いか分かんない。知り合いでもないし放っておくしかないけど、なんだか困っちゃう。


「ぐすっ、ぁ、リコさん、ありがとうございました。もう十分ですので、大丈夫ですよ」

「あ、はい。えっと、また良い出会いがあることを祈ってますね」


 トラブルを避けるために私自身はお金のやり取りをしないから、これでお仕事は終わりだ。


 他に相性の良さそうなミルスを探してあげようとも思っていたけど、それどころじゃない感じ。良いミルスがいないことの方が多いから、この人もそうだったらもっと泣いちゃうかもしれないし。


「あ、待って!さ、最後にあの子はなんて言ったかだけっ」


「ない。ですって」


 なんだか、帰ってユフィとラナに抱きつきたい。泣き声を聞きながらそんなことを思った。



 ◇



「おーっ!」


 今日は農園にある一番大きな植物の実を収穫した。もともと目立っていたから、まだかなまだかなーと思っていたんだけど、やっとミルスの許可が出た。植え主は鮮やかな緑と黄色のミルス。お腹側が黄色で、背中側が緑色って感じ。ユフィよりももっと大きくて、小さな象くらいある長い毛が垂れているミルス。頭の中では勝手にトロピと呼んでる常連さん。


「モッフォフゥン」


 果実はパイナップルみたいなやつなんだけど収穫作業は大きいだけあって大変で、大きなノコギリを使ってやっとこさだった。

 切るときに倒れないように支えたり、切った後に運ぶのもすごく大変で、ユフィがいないとどうにもならなかったと思う。


 ユフィは、魔法の手で遠くのものを掴むことが出来ちゃう。もともと力持ちなこともあって、魔法を使ってると大体のものを運べちゃうのだ。

 今回みたいな収穫物は、実以外の葉っぱとかが邪魔になっちゃうからこの魔法が大助かり。力加減が難しいみたいで、掴む部分のない小さいものにはあんまり使えないんだけどね。


 ユフィも含めてミルスは四足歩行だし手足も短いから、きっとお米をたくさん運ぶために覚えた力なんだと思う。

 

「モフォフォ」


 巨大パイナップルをどうやって食べられる状態にしようか迷っていたら、今回はミルスたちでやってくれるみたい。


「コン?」

「ピピィ」


 私が力になれることはなさそうなので、大人しくミルスたちが話し合っているのを眺める。


「ミャ」


 話が付いたようでパイナップルへ向き直ったかと思うと、ユフィが場所を移動させてから地面に倒れさせて置いたパイナップルが切り刻まれた。たぶん桃色の子、モモの魔法だ。

 大きさがバラバラで雑に切られたように見えるけど、中心を通るようにしてあるみたいで、どれも皮が付いている状態になっている。大きさが違うのは、それぞれのミルスが食べやすいようにしたみたいだ。それでもまだ大き過ぎるんだけどね。


 皮はパイナップルそのものだったけど、中身は茶色い。美味しそうな香りがするから良いけど、見た目だけならそれほど食欲をそそらないかも?


 このまま食べるのかなと思った次の瞬間には、そのほとんどが凍った。残っているのは冷たいのが苦手でそのまま食べたい子の分かな。


「モッフォ。モンフォフォ」


 食べて良いみたいなので、早速頂いてみることに……したいんだけど、大きすぎるから食べるのに丁度良いサイズを探す。トロピが言うには上側がサッパリで下側は濃厚な味らしい。どっちを食べるべきかも迷う。


 ミルスたちは予め食べる部分も決めていたみたいで手近な三角形にそのままかぶりつく。


「ナウナウ!」


 とっても美味しいみたい。


 この子たちは飽きたら放ったらかしにするけど、私としては無駄にしたくないしなぁ。凍っちゃってるから、ナイフで切るのも難しい。


「ピィ?」


 と、桃色の子が好みらしい上側の方を、アイスキャンディくらいのサイズで切ってくれた。


「ありがとー!」


 シャリシャリと食べてみると、味はほぼバナナだった。まさかこっちがバナナだったなんて……。ラナが大はしゃぎで喜んでいるのも納得。美味しいバナナはしっかり好きだったんだね。パイナップルだけど。


 私が食べたのが上側だったからか、サッパリしているうえに少しだけ酸味もある。料理にも使えそうな感じだ。



 ちょっとしたパイナップル(バナナ?)パーティを終えて、残りを冷蔵室の中の冷凍庫に入れようとしたけど、多すぎて入り切らない。普段冷凍することはあんまりないからなぁ。仕方がないからそのまま売りに行くことにする。


 ユフィにも荷物を持ってもらって、いざ、ふもとの町へ。

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