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33話

「大変だったんじゃないんですか?」


 大慌てで逃げ帰るくらいなんだから、そんな楽な冒険をしていたようには思えない。


「そりゃあ大変よ。だけど、だからこその冒険だろう?楽しくなければ行かないよ」

「荷物捨てて逃げたし、大赤字で最悪よ!でも最高だった!そうだろう!?」

「ああ!」「おう!」


 本当に楽しそうで、みんな笑ってる。

 ちょっとうるさいのか、もともと白い目で見ていた畑のミルスたちがいっそう目付きを鋭くした。


「お邪魔みたいね。そういえば、良い作物売ってるんだっけ?美味い果物とかある?」

「えっと、はい。今は少な目ですけど」


 色々あったせいで在庫は少ない。


「じゃあちょっと売ってくれる?一千万くらいで適当に」

「え?は、はい。あるだけは持ってきますけど……」


 あまりにも豪快な使い方。


「ああ、一応あれの補填用ってことで、適当に差っ引いてくれれば良いよ。俺たちに責任あるのか分からないけど、人間側としての補填が無いのも困るだろうし」

「あ、ありがとうございます」


 ミルスたちが壊した部分の畑。売れるものが採れるかも分からないけど、被害は被害。

 ユフィの感じを見るに冒険者さんたちには何も責任を問いそうにないけど、素直に頷いておく。物を見てもらって判断してもらおう。


 倉庫に戻って高そうな商品を探す。

 思ってた通り、微妙なものが多い。町が襲撃に合った際に畑がリセットされたのが響いてる。


「んー、仕方ないかな」


 とっておきを出すことにする。すっごく甘くて賞味期限がないタイプのやつで、一番高額。あまりにも高いし賞味期限がないせいで勿体なくて、使いどころに迷ってた。


 ラナとノクルが結婚することになったらお祝いで出そうかなって思ってたんだけど、いつになるか分からないし売っちゃおう。


 モモ、キウイ、洋ナシ、ミカン。見た目は違うけど性質はそっくり。というか多分同じ植物で、勝手にハチミツシリーズって呼んでる。皮を剥いたら中身はトロットロで美味しいんだよねこれ。この一斉放出で無くなっちゃうけど。


「味が似てるセットなんですけど、良いですか?」

「美味しけりゃ構わないよ」


 一応確認して、平気そうなので渡す。


「箱に入ったままなら平気だと思いますけど、柔らかいので気を付けてくださいね。賞味期限はないので常温でも平気です。食べるなら少し冷やした方が美味しいです」

「ほー、気になるね」

「一個食おうぜ」

「供える前に食ってどうすんだ馬鹿」

「冗談だよじょーだん」


「そなえる?」

「ん、一人死んだからね。いや、ミルスも含めたら二人か。そんな決まりはないが、今までの礼くらい言わんとな」


 え、亡くなった人がいたんだ。ちょっと雰囲気が理解できない。


「おいおい、しんみりすんなよ?それは話が違う」

「ご、ごめんなさい。えっと……」

「あたしたちは入りたいから勝手に森へ入った。結果は関係ねーぜ」

「最高の最後だったしな!死ぬまでに言いたい言葉ランキング一位だろあれ!」

 

 一番ガタイの大きい人が、豪快に笑う。つられて他の人も笑ってる。


「死ぬまでというか、死に際ですけどね。見事でした」

「とにかくリコちゃんが気にするこっちゃない。これ美味いんだろ?なら問題ないさ、ありがと!」


 呆然としてる中、お金を出されたので反射的に貰う。


「既に美味しそうな匂いがするね。楽しみだ。ありがとうね」

「ありがとな!」


 口々にお礼を言って、笑いながら町の方へ行く。前来た冒険者さんとはえらい違い。一口に冒険者と言っても、本当に色々だ。



 ◇



「おー、ネコ耳に尻尾だ!」


 数日後、イルちゃんがやって来た。私からの連絡で来たというより、もともと用事があったから来た感じ。まあ緊急でもなんでもないしね。連絡にいちいち反応してたら、イルちゃんくらい人望があると何もできなさそう。


「ネコ耳なの?」

「知らん!狐?」


 真っすぐにてきとーだ。


「なんかミルスの耳みたい。尻尾もそうなんだろうけど、尻尾の見た目は犬みたいだよね」

「おー、透けてる」


 ズボンを貫いてるから分かることだけど、ぱっと見で透けてると判断できるのは流石イルちゃんだ。


「進化おめでとう?」

「ありがとう?で良いのかな」

「さあ。変わりたい人は本気で変わりたいみたいだから」

「なるほどー。私は気付いたら、って感じだしどうなんだろう」

「好きなように受け取れば良いんじゃないかなー」


 まあそうかも。


「この耳の方はすごく便利で、植物の声?が聴けたり、耳がすごく良くなったんだよね」

「良いね良いねー。進化って感じだねー」

「でもこの尻尾は何にもないんだよね。なんか分かる?」

「分からんねー」


 あら、即答。


「イルちゃんでもダメかぁ」

「私は興味ないこと全然だからねぇ。ミサキさんの方が詳しいくらいじゃない?」

「そうなんだ」


 どっちにしろ私の交友関係ではどうしようもなさそうだ。


「本気で調べるなら仲介するけど、お金かかるしお勧めしないかな」

「因みに、いくらくらい?」

「五千万とか?」

「無理すぎるー」


 冒険者価格ってやつだ。桁がおかしい。


「しかも結果、何もありませんってなるだけかもしれないし、お勧めしないかな」

「そういうもの?」

「そう聞かれると分かんないんだけどね。個人的に意味ないのかな?って本気で一度思っちゃったことは、意味がないと思うようにしてるから。他の事を考えてた方が有意義かなーって」

「おー、学者っぽい」

「そう?」

「うん。有効に頭を使ってるーって感じ」


 無駄なことは考えずに、もっと考えるべきことを考える。真似しようかな。でも私だと他に考えることがないかも……?


「まーでも、一回握ってみて良い?」

「ん?良いけど……?」


 触れないって話じゃ?


「……ふに˝ゃっ」

「あ、ごめん」


 変な声出ちゃった。


「え、触れるの?」

「そりゃ触ろうと思ったら触れるよ。幽霊系のモンスターとかいるよ?」


 確かに。触れないから何もできません、じゃどうしようもない。私だって傘魔法は多分そういうのに干渉できる。


「あれ、じゃあユフィとかも触ろうと思えば触れる?」

「ミャ」


 当たり前のようで。


「触った感じどんなの?何かわかった?」

「普通に尻尾の感じ。なーんも分からん」

「そうかー。じゃあ、本当に何にもないってことでいいかな」

「ご自由にー」


 何かあるなら勝手に何か起こってくれるでしょう。きっと。


「作物の方はどう?」

「最近ごたごた続きで、あんまりかなー」


 襲撃の件で一度リセットされたとは言え、ミルスの方は回転が速いし既に収穫は毎日してる。そうして畑作業は常にやっているんだけど、最近はパッとしない成果が多かった。ミルスが一定数入れ替わった関係だと思う。


 普通に食べられるものはあるんだけど、あくまで食べられるってだけの野菜。食べる人が食べたら美味しい料理とか思いつくんだろうけど、生憎私は一般人。食べられる葉っぱだなーとか、食べられる実だなー、で終わることも多い。

 初めて食べるせいかもしれないんだけど、こう、普通の野菜としても一歩劣ると言うか……。

 育てやすさを含めて何かしら特徴や面白さ、あるいは美味しさがないと、雑にうちで汁物か何かに入れて消費して終わりだ。


 私の方の畑も、全然。それこそミルスの方より期間が長いし、成功率も低い。良さそうに思えても種切れで諦めざるを得なくなっちゃったりもする。


「でも耳のおかげで、今やってる分は期待できそうかも」


 ケモ耳が生えてからは、なんか上手くやれてる気がする。自信がついたからフルーティーな玉ねぎも植えた。田んぼの方も、もしかしたら行けるんじゃないかと思ってる。


「おー、よっぽど良い耳なんだね。でも、そうなると他の農園での栽培難易度はまた別になるのかな?」

「ん?……あー、そっか」


 私だけが上手く育てられても、一般化はできない。簡単なやり方が分かるなら良いんだけど、私が声を聴きながら調節しなきゃいけないようならダメだ。

 元からこの土地は育てやすい場所なんだし、他で通用しないことが増えちゃうかもしれない。


「代わりに、高く売れそうなやつをリコちゃんが何度も作り直せる可能性は増えてる?」

「だと思う。まだやってないけど」


 普通には考えられないような味の植物はやっぱり普通じゃないというか、栽培難易度が高い。言ってみればすごく美味しいものはミルスじゃなきゃ作れない。


 でも、今の私なら可能性はあるかもしれない。それこそハチミツシリーズとか栽培できたらすごい。少しくらい味が落ちたとしてもやっぱり保存の問題は大きいから、賞味期限がなくて美味しいのは便利だよね。


 という話をしたら「えーっと、美味しい野菜だったり、野菜で賞味期限長い方が嬉しいのかも……?」とやんわり否定された。

 私は普段からよく分からない野菜を食べてるけど、普通の人からすると肉や果物より野菜の方が希少だ。これは畑自体が少ない影響。森には野菜も果物もあるけど、草みたいなやつは見た目で食べられるか分かり辛いから、木の実みたいなやつより採取されない。


「でも、美味しい野菜ってどんなのだろう?」

「……確かに!」


 イルちゃんもあんまり考えていなかったみたい。


 安定して美味しい野菜は食べたいけど、とびっきり美味しい野菜ってどういうものかパッとしないよね。私の畑で作る用の、量より質を求めたものの話をしてるわけだから、最高に質の高いものが分からない野菜を作るのは微妙そう。


「じゃあ、やっぱりハチミツシリーズかな?」

「あま~~いやつね。作り過ぎたら嫌厭されるかもしれないけど、どうせ少数なら丁度良いか」


 甘すぎるからね。前回売った分は、あの人数で分けるなら美味しく食べられるだろうし、美味しいからまた欲しいと言われるかもしれない。でも、本当に次同じ量を売ったらそこで飽きるんじゃないかと思う。


「食べられるなら私もまた食べたいし、頑張って!」


 基本的には二度と食べられないものばっかりだもんね。飽きるほど食べるなんて、そんな贅沢してみたい。


「他の種で実験を繰り返した後になると思うけどね」


 ハチミツシリーズは種に余裕があるけど、生態が不思議だったから失敗したら一気になくなるかもしれない。実がなった際は特定の形に草の株が並んで生えてて、パイナップルみたいに一つの株に一つの実が生るんだよね。再現しようとすると一度に十五粒くらいは使う必要がある。

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