表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/38

3話


「おはよー」


 いつも通りミルスたちに挨拶しながら、農園を回る。最近ちょっと気になるのは、例の黄色いバナナっ子だ。


 常連さんはほとんど農園に住んでいるような状態だけど、それでも森の方へ帰って姿を見ない時間は多い。でも、黄色い子は本当にずっといるみたい。ユフィに任せてたから平気だと思ってたけど、そろそろ気になってきた。


「ねぇユフィ。黄色い子は家に帰ってないのかな」

「ミミャー?」

「えー」


 ちょっと格好付けなとこがあるユフィだけど、「どうでも良くない?」というのはちょっと酷い気がする。

 心なしか黄色い子は痩せてきている気がするし、なんとかしてあげたい。でも、黄色い子に話しかけても何でもないような返事をする。



 一日考えながら過ごしたけど、よその子に出来ることは限られてる。ミルスと仲が良いと言っても何でも知っているわけじゃないし、黄色い子の親も知らないし。


「どうすればいいのかな……」


 独り言のつもりだったけど、近くにいたユフィは聞いていたようで「どうしたいの?」と見つめてきた。


 そこでようやく気付いた。ユフィは最初からそのつもりだったんだ。早速、黄色い子の元へ行く。



「ねぇねぇ、もし良かったらうちの子になる?」


 きっと、ミルスでは家を出されたらもう戻れない。というか戻らないものなのだ。そこに良いも悪いもない。でも、新しい家に行くのはまた別の話のはずだ。


 黄色い子は不思議そうな顔をして私を見る。私は黄色い子が安心出来るように、ユフィもいるよとアピールする。ユフィはそっぽを向いているけど、これは照れ隠しだ。


「ナー、ナゥ……ナウ!」

「ふふっ。これからよろしくね」

「ミャ」


 ユフィが黄色い子の頭をなでなでしている。黄色い子も嬉しそうだ。


「そうと決まれば呼ぶ名前を決めないとね。呼んで欲しい名前ってある?」


 ミルスたちはもともと名前を持っているけど、一緒に住む仲じゃないのに名前を呼び合うことは嫌がる。

 そもそもミルスの言葉は意味を直接伝えるものであって、私たちの声で喋る場合には成立しないこともあるんだとか。ついでに言うと、大きな区切りで名前を変えることはこの世界じゃよくあることなので、こうして改めて聞いてみている。


 転生した手前、名前に関することは色々ある。名字とか、基本的にはないし。


 私も名字を付けてないはずなんだけど、ミルスと仲が良いからか、勝手にリコ・ミルスとなっていることがある。

 因みに私のリコは前世のままで、ユフィも元々付いてたらしい名前そのままだ。


「ナー」

「私が?そうだなぁ」


 名前なんて付けたことはないけど、勝手に心の中で呼んでる名前はある。マルナスとかモモとかトロピとか。この子の場合はバナナだけど、流石にそれはあんまりだ。


 ナナ、ナウ、バナ、ナーナ……黄色いからフラーヴァ、フラ、……ラナ。


「ラナ!どう!?」


 ビシッと指差して言ってみる。私的にはしっくり来た。


「ナゥン」


 「それで良いよー」らしい。もっとこう、喜んで欲しいところだったけど軽いというか……まあ良っか。


「よろしくね、ラナ」

「ナウ」

「ミャ」


 こうして、私の家族が一人増えた。ユフィ以外に増えるとは思ってなかったけど、素敵な仲間が増えて嬉しい。ラナは何が好きなのかなとか、どうやって寝るのが好みかなとか、色々考えることが増えることもまた楽しい。


 今日はもう遅いけど、ラナが過ごしやすいように色々用意してあげたいな。



 ◇



 ミルスたちは、植物の精霊だと言われることがある。

 何故かいくつかの特定の植物について詳しいし、個体ごとにその対象も異なる。


 ユフィが詳しい植物は、米。みたいなやつ。

 私の家には、農園とは別にユフィ用の米畑がある。田んぼじゃなくて畑。丘の一角でしかない私の使う土地は大農園というわけじゃないので、そんなに広くはない。米畑も一枚分、五十メートルプール一つ分だけ。


 それでも種を撒いてから約二か月で収穫出来るから、うちはいつでもお米が潤沢、たくさんある。たくさんあるけど、ユフィがモリモリ食べる。生でも炊いてもポリポリむしゃむしゃ。


 食べ過ぎだと言いたいこともあるけれど、なにせ自分で作って自分で食べてるだけだから怒るようなことでもない気がする。太ってもないし。むしろお米じゃなくて他のをたくさん食べると食費が嵩んじゃうし、手間も掛かる。

 私がお米に関してするのは精々、お米を炊くくらい。あとは収穫の時にちょっと手伝うくらいかな。


 私もお米は好きだから嬉しい。美味しいとおかわりをしていると、ユフィがフフンと誇らしげにする。自慢の一品みたい。


 イルちゃんもこのお米が好きなので、いつも買って行く。うちで食べていくときはユフィと大食い競争みたいになって、お腹を壊すこともある。


 そういえば、イルちゃんとユフィが打ち解けたのはこの一件が切っ掛けだったかもしれない。ミルスは意外とプライドが高いし、ユフィは特に格好付けだから仲良くなれる人は少ないんだよね。



 そんなお米の精霊?なユフィなわけだけど、じゃあラナは何の精霊なのだろう。精霊じゃないかもだけど、何の植物が好きなのだろう。


 最初はもちろんあの黄色いバナナだと思っていたけれど、よく考えたらあのバナナについては何も知らなかったわけだ。バナナを収穫した時も、別に大した興味を示さなかった。じゃあ何で植えたのよと聞いてみたけど、「なんとなく」以上の返事はなかった。そんなバナナ。


 因みにバナナは収穫した後すぐ食べたら生臭くて、熟させてみたら赤くなってピリカラバナナになった。正直、美味しくはない。ラナも拘りはないようで、すぐ抜いちゃうことになると思う。


 他に植物を植えないのか、好きな植物はないのか聞いてみたけど、ピンとくるものがないみたい。



 そういえば、ラナが一時期痩せたように見えてたのは毛が萎れていただけだった。家に帰らないから水気とか汚れが溜まっていった結果の見た目。お風呂に入れて綺麗にして乾かしてみたら、もじゃもじゃのもっこもこになった。前日比三倍、いや四倍だ。


 そりゃあすごいものだったからご自慢の毛かと思いきや、何の興味もないようで邪魔だから刈って欲しいと頼まれて、元のくらいに戻った。まあそんな大切なものだったら、あんなしおしおにさせないかも。


 洗った時に気付いたけど、ラナの本体はとっても小さい。というか細い。長さはそのままで手足は短い。やっぱりバナナだなと思った。生き物で例えるならイタチみたいな形かなぁ。



 ミルスとしては不思議ちゃんなラナだけど、その他のことは結構分かりやすい。


 性格は寂しがり。遊び始めるとそれを忘れちゃうけど、それ以外は私かユフィにべったり。体が軽いから、私の肩かユフィの上が定位置になりつつある。寒いところではマフラー代わりになりそうだけど、ここではちょっと熱い。

 寝るときもどちらかの上に乗ったり寄り添ったり。

 

 好き嫌いは少なくて、大抵のものを美味しそうに食べる。今はうちの食糧事情に沿ってお米をメインに食べている。ピリカラバナナは少し嫌みたいで、食べるなら熟さず生臭いまま食べている。


 仕事は軽い体を活かしてヒョイヒョイ植物を登り、作業をこなすこと。あまりいない人材だったから助かっているけど、作業をするために手を離したりするとすぐにフラフラとして、落っこちることも多い。

 ときどき登っちゃいけない植物に登ろうとして、他のミルスに怒られることもある。


 あとラナはイルちゃんが大好きだ。きっと、バナナの件で助けてもらったから。最初はちょっと恥ずかしがってたけど、今ではすっかり仲良し。

 イルちゃんがやってくると駆け上って首の周りをぐるぐるする。私とイルちゃんは面白くて笑っちゃうけど、ユフィは同じミルスとして少し恥ずかしく感じるみたいで叱ることもある。それがなんだかまた面白かったりするんだけどね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ