25話
「あー!もう!」
「やっぱり大変そうですね。何か手伝えることとかあります?」
一週間後、町に人が戻って来た。すぐに行くのは流石に邪魔になりそうだったから、一日おいてから様子を見に来た。
町長のミサキさんは当然復興に関して決めたり考えることが多くて大変そうにしている。
訪れた私たちはリビングに通された後に三十分放置されていたくらいだ。アイリスちゃんもいない。
私たちは遊びに来たも同然だし、全然構わないけどね。やっぱり帰った方が良いかなとユフィと相談してたところに、不機嫌そうなミサキさんがやって来た。
「正直ユフィに手伝ってもらえれば大助かりだ。だがその際は正式に依頼を出す。今日のところは気にしないでくれ」
いつも通り流されると思っていたのだけど、珍しく素直に頼られた。まあ私ではないけどね。
なりふり構っていられない状況なんだろう。
「じゃあ今日はお忙しそうですし、一旦帰りますね」
「いや、悪いがちょっと愚痴らせてくれ。このままでは手が出てしまいそうだ」
「そんなにですか。えっと、エルフさんたちが滅茶苦茶にして行ったからですか?」
「違う違う。ムカつくのは正義ヅラして外部から来た連中だよ。『冒険者とエルフのせいで町が滅茶苦茶になって大変ですね、私も許せません。助けてあげましょうか?』なんて言ってくる。
助けるというのならモンスターを駆除しろクソどもが。あいつらがどれだけ支配者層の冒険者を嫌おうが、我々が生きていられるのはその冒険者のおかげだというのに。我々は恩を仇で返すつもりなどない。
それにエルフが略奪を行ったからこそ隙間なく、潜んでいたモンスターも一匹残らず駆除された。エルフは事が終わればあっさり森に帰る。見事な掃除屋だよ。略奪に感謝するわけにはいかないが、戦闘に自信の無い我々としては大助かりだ。復興の計画も立てやすい」
言葉が止まらないし、普段では使わないような言葉がポンポン出てくる。よっぽど腹に据えかねてるみたい。
「こちらは忙しいのに、くだらない要件で何度も話そうとして来る。正式にあいつらの駆除依頼を出すべきだと言う者も出てきた。どちらにせよ今は他に片付ける要件があるのだから静かにしていて欲しいものだ」
私が相槌を打つ暇もなく、次から次へと不満を吐き出すミサキさん。大人しく聞き手に回る。ミサキさんはその後も息が切れるまで話し続け、申し訳ないと思ったのか謝罪と共に話を打ち切り仕事に戻った。
特に帰れと言われたわけでもないけど、声を掛け大人しくお暇する。
「た、大変そうだったね……」
「ミャー」「ナゥ」
話しながら、町の様子を見て回る。
ミサキさんの家は襲撃前と比べて家財がなくなっているものの、建物自体は綺麗なものだった。これは予め簡単に直せるように魔法が使われているからみたいで、保険みたいなもの。
他にも同じようにポツポツと既に直ってる建物もあるけど、大体は瓦礫の山のまま。
「お、リコちゃん。大事なかったかい?」
空き地に設けられた炊き出しも行っている休憩スペースで、声を掛けられる。市場の人だ。
「はい、ユフィたちのおかげで戦いの様子自体一度も目にすることなく終わりました」
「そりゃ良かった。こっちも目立った被害はないみたいだし、これ以上ないくらい完璧な対処だったんじゃねぇかな。すぐに戻ってこれたし、最高の結果だな。とはいえ、なんだかんだリコちゃんも大変だったろ?美味いスープがあるからリコちゃんも食ってきな」
私は断ろうと思ったけど、無理矢理椅子に座らせられスープを提供される。ユフィとラナの分もしっかり用意されてる。
「あ、美味しい……」
ホッとする、優しい味。
私は何もしてないし家でぐーたらしてただけ。だからここでスープを貰う資格も無いと思ってたくらいなのに、不思議と涙が溢れてきた。
休憩スペースでも、町中を歩いている時も、みんなが今回のことをあれこれ話していて自然と耳に入ってきた。
「これが噂に聞いてたエルフの樹侵爆撃ってやつだろ?とんでもねぇな」
「破壊痕や繋がりを見る限り、数発で町を飲み込んだんだってな。だがよ、これは有利な戦場作りの一環だって話じゃなかったか?かなり破壊されてるみたいだし、戦場作りと言うには柔い気がするな」
「相手も強かったってことじゃねぇかな。どうせ禁断の森から来たんだろ?どっちもバケモンだよ。……なんだ?そんなにこの樹が気になるのか?」
「ツリーハウスが憧れでな。巨大な木々の上に住むエルフの町とか、そういうの期待して転生したくらいだよ」
「ところが森の中は怖すぎて、早々に諦めたってとこか。良いじゃねぇか、処分も面倒そうだしそのまま利用すんのもありだろ。日当たり気にしなけりゃ上下に建築もいけるか?」
「おや、そちらの家は形状保存付きでしたか、羨ましいですね。……すいません、僕の危機意識が低かっただけですかね。結果的に立て直しの方が高くつきそうですし、借金してでも付けておくべきでした」
「いえいえ、案外こういう機会に建て直しというのも良いかもしれませんよ。実際に住んでみてから見つかった不満点があっても、魔法のことを考えると気軽にリフォームも出来ません。建て直し料金だって転生前ほどじゃないですし。時間だって順番が回ってくればあっという間に立て直してもらえます。考え方次第ですよ」
「何やってんだい?」
「何って、途方に暮れてただけさ。片付けるにしたって、どこから手を付けりゃ良いか分かったもんじゃねぇ。お前だって同じだろ」
「ま、そうさね。こういうもんだって聞いてたけど、聞いてたのと経験するのは全然違うに決まってる」
「戻れると聞いて喜んでいましたけど、これからの生活はどうなるんでしょう。何も残ってませんし、明日の食料すら怪しい気がします」
「既に食料確保のメンバーが集められていますよ。どうせ建て直しは順番になりますし、仕事が出来ない人も多いです。そうした人たちが必要な仕事をやってくれるそうです。町長たちの仕事の早さには感謝しかありません。私たちも、出来ることをやりましょう」
「デクルの森かぁ。避難の時はマシだったけど、苦手意識が残ってるし気が重いよ」
「いつの話をしてんのよ。今となっちゃデクルは人間側でしょ。食料確保の狩りだけだし、むしろ楽だと思うわよ」
「そうかなぁ。あいつらはミルスと違ってどうにも胡散臭いんだよなぁ」
「そりゃ私だってミルスの方が好きよ。この町にいるんだから当たり前じゃない」
「よっ」
「よっ!いやあ、我が家が木っ端微塵だぜ。ここまで来るといっそ清々しいな!」
「お前の家って形状保存だったろ、当時自慢されたしな。土地ごといかれて終わったのか、最悪じゃねぇか」
「こうして戻って来れたんだ、また一から稼ぐさ」
「恨み言一つ言わず、そう思えるのはすげぇよ。そういうとこが成功する秘訣なんだろうなぁ」
「なに、確かに多少金は稼げちゃいたが、成功と言うほどのもんじゃねぇよ。消えたしな!」
「ひがみになるかもしれんが、俺もそれくらいの余裕を持ちたいもんだ。せっかく建てた家の変わり果てた姿を見て、あの冒険者嫌いだかエルフ嫌いだかの言うことも一理あると思っちまう自分がいる」
「目を覚ませ、どこにも理なんてねぇよ。救ってくれた冒険者は名乗りすらせず姿を消したんだぜ。町を破壊した責任から逃げるためなんてあいつらは吹聴してるが、むしろ町一個救ってもらう分の報酬を払わず済んだんだ。エルフだって、犠牲者がいたか知らんが命張って戦ったんだ。家を破壊されようが家財が盗られようが、何も文句はねぇ。
派手にやってもらったからこそ、モンスター共がビビってくれる可能性もある。そうなりゃまた安全な期間が延長される。俺は事業を立て直したら、エルフに貢物を送るつもりなくらいだ」
「そんなことしたら、エルフ嫌いが黙ってないんじゃないか?」
「知らねぇよ。エルフがどれだけの町を滅ぼして殺しているかなんて言われても、その真偽も経緯も知らない。俺は今回エルフに町を取り戻してもらって感謝してる。それだけだ」
「何はともあれ、ミルスとまた過ごせそうで良かったよ」
「本当にね。このたった数日でもミルスに会えないことがどんなに辛かったか」
「見て見て!僕の家から木が生えてる!」
「お、おう。何がそんなに嬉しいんだ」
「僕はエルフに会うためここに越してきたからね。というか転生自体そうだし」
「そんなんだから独身なんだろうな」
「君だって独身じゃないか。どうせミルスでしょ?変わんないじゃん」
「ミルスって言うか、アイリスさんみたいな……」
「……それはマズいっていうか、むしろミルス以外の方が良いんじゃない?」
「いや違くて、アイリスさんが良いって言うか」
「もっとダメでしょ。というか無理でしょ」
「言われなくても分かってる。ほっといてくれ」
気になる話も結構多い。アイリスちゃん人気なんだなぁ。可愛いもんね。
私は耳が良いから、周りに聞かせるつもりじゃない会話もそこそこ拾っちゃう。今は普段と違って家の外、道のところで話してるから余計にね。
ミルスも同じように耳が良いから、普段から世間話が聞こえてしまっている。ミルスの耳が良いっていうのはみんな知っているはずなんだけど、意外と気を付けるのは難しい。
そうしたところを小馬鹿にしながらも、可愛い可愛い言われて満更でもないのがミルスだったりもする。




