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17話

 ユフィによるラナのトレーニングは簡単には終わらず、井戸端会議が三日に一回行われる定例会のようになった。


 メンバーは決まってないけど最初より少しだけ多くなっていて、特に田んぼの代表格であるオレンジ色のモグラっぽいカボグラと、最近農園を気に入り出した尻尾が長く紺色のダックスフンドっぽいサソリンが多く顔を出している。


 カボグラはマルチな才能を持っていて、ノクルの代わりに私のろ過魔法の練習を手伝ってくれたりアドバイスをくれたりもする。サソリンは学者肌で、イルちゃんと話が合いそうなんだけど間が悪くてずっと会えないでいる。


 イルちゃんが来た際にはめでたく紫トマトと丸太ネギの権利が商品として扱われることが決まり、収入に繋がることになった。イルちゃん的にあの土は再現可能な範囲のものだったみたい。

 因みにトウモロコシは結局ダメそうだった。前回のものが一番適した状態だったみたいで、それ以上は望めなさそうということだ。前回の再現も難しいしね。


 実験畑で次に植えるものは特に決まらないままだったので、一応でとっておいた種を一つずつ植えた。運良く簡単に育つものがあればそれを使うっていう、雑な実験。種類が多い分、意外とこの方法で都合の良い作物が見つかることもあるから馬鹿には出来ない。


 田んぼ、というか水たまりみたいなものも用意して、そこにも植えた。いよいよ魔法の練習の成果を見せる時……というほどではない。まだ自信はないので、どうせ失敗すると思ってる。

 ミルスの方と同じで完全に魔法頼りなのに、その魔法があまりにも心もとない。絶対無理。


 一番やりたい水中カボチャも種がもったいなくて植えてないし、他にこれといった種もなかった。なんでもいいからと雑な種を利用しただけなので、成功したところで美味しく食べられるわけでもない。


 イルちゃんが言うには、他の農場にも田んぼを上手く運営出来る能力者はほぼいないみたいだから急ぐ必要はないんだって。結局水の成分をいじる必要が出てくると考えると、魔法で水を生成しようが自然の水だろうがそのままでは使えず、ここでやるように魔法に頼った方法になりそうとのことだ。


 水の成分を弄ろうとする人は錬金術を目指すような人ばかりで、そうした人材を農業の方へ引っ張ることになるみたい。



「おかえりー」


 夕飯の支度をしていると、開けっ放しの玄関の外から三人が帰ってきたのが見えた。いつもなんだけど、ラナよりもノクルが疲れてる気がするんだよね。今日は特に酷いみたいで、足取りがおぼつかない。


 ユフィはわりと平気な感じなので、ただいまと言いながらテクテクと帰宅。続けて帰宅を喜ぶラナ。そしてノクル。あれ?


「……ナ?」


 流れでそのまま入ってきてしまったようだ。頭が働いていないようで、すぐ出て行くということもしない。

 周辺で寝てることは多いけど、当然ながらノクルはこの家の子じゃない。普通のミルスなら敷居をまたぐことなんてまずしない。


「ええと、いらっしゃい?」


 別に私としては、入ってもらって悪いという事はない。すっかり仲良しでもあるし。

 もちろん溶かされたらたまらないので、土間よりも先に進むならミサキさん家に行ったときのようになんとかしておいてもらう必要はあるけど。


「ミャー」


 やれやれとユフィが呆れながら、魔法でむんずと掴んでノクルを持ち上げ、外へ行く。

 私は「お疲れ様」と労いの言葉をかけながら、とりあえずラナを洗ってあげることにして料理を切り上げた。



「へい、いっちょあがり!」


 濡れたせいで細い体にぺたらんと毛が張り付いてるラナの背中をトンと叩く。プルプルと体を振って、水気を飛ばすラナ。私は慣れたもので、手で目に水が入らないようにだけする。


「ミャ」

「え?」


 「こいつも」と言って投げ込まれたノクル。無情にも風呂場の床に打ち付けられる。既に濡れているせいで、べちんと響いた音が予想より大きくてびっくり。色んな意味で大丈夫?


 弱弱しく「お世話になります」と鳴くノクル。泥水塗れみたいなので、ひとまずユフィに言われた通り洗ってあげる。ユフィが入れた以上平気なのだろうけど、素手でがっつり触るには少し勇気が必要だ。おっかなびっくり触りながら、洗ってあげる。


「お?独特な感触なんだね」


 ラナやユフィとはまた全然違う感じだ。毛がモフモフではなく、少し固くてしっかりしてる。千差万別なミルスだけど、三人ともわりと特別感のない陸上獣タイプなので似たようなものだと思ってた。本来は危なげな、魔法だか魔法液だかを纏っている関係だろうか。


 わしゃわしゃとしっかり洗ってあげる。後から思ったけど、あんまりしっかりと洗うのは少し嫌だったかもしれない。猫っぽい雰囲気もあるし、風呂に浸かるのが平気なユフィに対しても楽しく洗ってると少し渋い顔をするのだ。

 清潔かどうかだけで言えばユフィは魔法で綺麗にしてるから、洗う必要がないというのもある。洗われるの好きなラナは、ミルスの中でも少数派な気がする。

 


「ほい、終わったよー」

「……ナ?」

「あ、その場で水払って良いよ?目は隠すし、他は濡れても平気だから」


 田んぼ用の皮鎧じゃなくたって、畑仕事をする以上作業着は多少濡れても大丈夫になってる。シャツが濡れるようなことになっても、どうせ私もすぐ風呂に入るし。


 少し遠慮がちに水を払ったノクルをタオルで拭いてやる。柔軟剤を使わずともふっかふかのタオルはイルちゃんが作った叡智の結晶だ。ノクルも気持ちよさそう。


「洗い終わったよー。私はそのまま風呂入るね。ユフィも用終わったらおいでー」


 と言ってもユフィが来ることは少ないけどね。



 やっぱりユフィは来ないし、向こうがどうなっているのかちょっと気になったので早めに上がってみる。


「あら」


 ここまで来れば予想外というほどでもないけど、ノクルがまだいる。

 居間の隅の方でラナと一緒にくつろいでいる風に見えて、ノクルは落ち着かず固くなってるだけなのが分かる。ユフィは土間で私が作っておいた食事を盛り付けしてくれているので、大人しく任せて私はラナたちの方へ行く。


「そんな緊張しないで良いよー。と言っても難しいかもだけどね」


 初めて行く家はどうしても緊張しちゃうよね。あ、でもミサキさん家はあんまり緊張してなかったかも?


「暇なら教えて欲しいんだけど、あの溶けるやつってどうなってるの?しばらくは大丈夫なの?」


 緊張をほぐそうと意識したところでそんな技術は持ってないので、私は自分がしたい話をすることにした。


 少し間を置いてから、ノクルは説明してくれた。

 あれもやっぱり魔法の一種らしいんだけど、ほぼ勝手に出てくるものらしい。用途は防衛。あの状態のノクルを食べようと思うモンスターは少ないだろうから、不意打ちだろうと襲われる可能性が大きく減る、かなり有効な魔法だと思う。


 魔法は意図的に止めることも出来るけど、それまで出していた分はそのまま残ることになるから、落とす必要がある。、水でよく洗うと取れるらしく、今回はユフィに田んぼで揉みくちゃにされたそうだ。「自分でやると時間かかるだろー」と、少し静かな声で話してたのに平気で聞き取った土間にいるユフィが補足した。


 その通りなのかもしれないけど、田んぼの水で洗われるのは同情する。だから汚れていたわけだ。まあ分かってるからこそ風呂に放り込んだわけだろうし、今は綺麗なわけだけども。


 そっと頭から背中にかけて撫でて労をねぎらう。そもそもボーっとしてうっかり入って来ちゃうほど疲れていたわけだしねぇ。


 気持ちよさそうに目を細めて、されるがままになるノクル。ユフィが食事の準備を終わらせる少しの間、そのまま休んでもらった。



 食事を終え洗い物が終わってからも、ノクルはそのまま家の中。どちらかというと、今は帰って良いのかが分からない雰囲気だ。結果的に招待?したのはユフィの方なので、私としても帰して良いのか微妙なところ。当のユフィは見当たらないので、何処かへ出かけていそうだ。


 仕方がないので残された三人で、縁側でお茶することにした。


「温かいので良い?」

「ナー」

 

 外を眺めながらのんびり。今日は綺麗な月が出ている。

 この一月の月は私が元々知っているものと同じだ。偽物ではなくて、恐らく実際に存在するもの。異世界だから別物のはずだけど、違うと言い切ることも難しいらしい。

 世界の位相がどうたらこうたらで、見えているものはおなじかもしれないんだとか。意味が分かんない。


 二月は二つの月が出てくるから、この見覚えのある月は一月限定だ。


「ユフィは興味なさそうだったけど、ミルスにとって月に関する話とかってあるの?」


 不思議だなぁと思いながら、そこら辺に関する話題を振る。明確に答えが欲しいわけじゃなくて、暇つぶしの一環。ノクルも「どうだったかなぁ」と、時間をかけて面白いかどうかに関わらずポツポツ話す。月によって力が変わる子もいるんだって。


 月以外にも、夜の景色で気になるものはいくつかある。農園で動く影。夜行性のミルスがいるんだと思う。


 私は素直に夜は家で寝ちゃうから、仲が良くなる夜行性のミルスは少ない。それでも必要なことのやり取りをするために朝に軽く話すことや、常連さんのミルスを通してやり取りしたりする。


 夜行性のミルスは、黒っぽい子が多い気がする。そう考えると実はノクルも元々は夜行性だったりするのかな。聞いてみると「そうだったかも」と曖昧な感じ。ミルスらしい、なんとも雑な感じだ。能力が高いと、どうとでもなるんだろうなー。


 ユフィが戻って来ると、ノクルは泊まっていくことになった。寒いわけでもないから布団が必ず必要なわけじゃないけど、一応クッションと毛布を居間に用意してあげる。

 

 私たちはいつも通り、私の寝室で寝る。ラナが布団に潜り込んできたので、あの子と話ながら寝て来たりしないのと言ってみたけど反応は芳しくなかった。


「ミャミャー、ミミャ」

「そうだねー」


 多いことじゃないだろうけど、こうして誰かがお泊まりすることを考えるとミルスの魔法を剥がす場所があっても良い。具体的には水場と砂場があれば大抵なんとかなるみたいなので、その二つをユフィは提案した。


 客室もあっても良いかもしれない。最初はあったんだけど、すっかり物置になってるから物置用の部屋を別に増やして、客室を維持できるようにしなきゃだ。客室としての実績は、イルちゃんを一回か二回泊めたことがあったくらいしかない。泊まりたければ今のノクルと同じように居間で寝るしね。


 この世界のすごい人って、前の世界とは逆でお金が掛からないなって思う。装備品とか消耗品の値段は恐ろしいことになってるみたいだけどね。


 お金持ちやすごい人は大抵が冒険者ということもあって、どこでも寝られる。

 イルちゃんは夜気付かないうちに遊びに来ていて、玄関横で寝ていたこともあった。「寝てる間に用事を忘れそうだったから、こっち来て寝た」なんて平気で言っていて驚いたっけ。


 お客さんを泊めることも考えたら、水場じゃなくて露天風呂って形で風呂場に併設するのも良いかもしれない。水を温めるのは魔法アイテムがあるから切り替えも簡単だ。水山の噴水を溜めておいて温めれば、実質的な温泉にもなる。ふもとの町ではそれをやってる温泉宿があったはず。

 それを温泉と呼ぶのかはよく分かんないけど。


 例えお客さんが来なくても、水を溜めて置ける場所は何かと使えそうだ。野菜をまとめて洗うことも出来るし、大き目の道具を洗う時にも便利かも。あ、丸くしておけばお洗濯にも使えるかも?


 色々考えてたらワクワクしてきた。田んぼの方もミルス側は落ち着いてきたわけだし、丸太ネギと紫トマトのおかげでお金も入った。

 そろそろリフォームも具体的に計画し始めて良いかもしれない。

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