12話
「えっと、どう?」
届いた装備は、ザ・皮鎧という感じだ。篭手や足鎧までの関節部は伸縮性の良い布っぽい別の皮で作られていて、冒険者が金属鎧の下に着こむには最適な感じがする。
ただ、私のような農家が装着するには不相応で、結構恥ずかしい。
「ミャ」
別に。と言って目を逸らされた。これ、良くなかったときの反応だ。自分で感じていた似合わなさが、間違っていなかったと証明された!ますます恥ずかしい!
しかしながらここで「やーめた!」なんて出来ない。流石に全身ぐちゃぐちゃのぐちょんぐちょんになるよりはマシ。大人しく、ユフィについて田んぼの方へ向かう。
早速生えている雑草を抜く。本命の植物以外にもミルスによる漏れた効果が出てしまうのか、雑草もモリモリ育っちゃう。一番大変な作業。
この田んぼだと深さが場所によって違うせいで、足元にかなり気を付けなきゃいけないことがまた大変。
ミルスたちは水に浮いてたり、水中とは思わせない自然な形で歩いていたり。水生植物が好きなだけあって、雨を防ぐだけじゃなく水中での行動に適した魔法を用意している子が多いみたい。
中にはそうした魔法を使っていない子もいるけど、そもそも水や泥に濡れるのが好きなだけの気がする。
「これはあなた?」
「ロロー」
植えた当日に確認出来なかったし、最初だから植えた時期がが被っていてどれが誰の植物か分からない。
さらには初めての子や珍しい子がいるので、好みで察することもできない。思った以上に感覚に頼っていたみたいで、これが一番大きいかもしれない。
今いるミルス分は全部確認して、手伝える分は手伝う。
「んーっ」
慣れない田んぼ作業で疲れた。今までとはまた違った姿勢を維持していたから変な感じだ。
今更気付いたけど、稲作の田んぼって普通は毎日作業しないよね。水の調整とか全体としての作業はともかく、毎日田んぼに入って一つずつに何かしてるイメージはない。放ったらかしの期間がかなり長い気がする。
ひょっとして、とんでもないことを始めてしまったのでは?
「ミャミャ」
「頼りにしてます……」
全ての植物を確認したら、ユフィも魔法で手伝ってくれる。近くで魔法を使わない方が良い場合もあるからこそ、今日は見守っていただけだった。田んぼの外から魔法の手が届く、ユフィの活躍に期待したい。
それから三日ほど経って、植えているミルス全員に会いようやく全体を把握した。幸いミルスたちも私を見かねて手伝ってくれるので、最初ほどの苦労はなくなった。
思い返せば、農園も最初はあまり手伝ってくれていなかった気がする。もちろん性格によりけりだけど、雑な子がとことん雑というか。
植えることと育成促進の魔法?みたいなことはするけど、他はあまり気にしない。失敗しても、それはそれ。みたいな。とことん気ままなものだった。
多分、私が成功させようと色々やってるから腰を上げてる感じ。
田んぼはメンバーがガラッと変わっているせいで、農園での今までの積み重ねがなくなっている状態だったわけだ。ミルス元来の気まま育成法。最初から伝えていればもっと楽が出来ていたのかもしれないけど、何も考えてなかった私の自業自得。
雰囲気で農園をやっているツケが回っちゃったわけだ。
ユフィも手伝える状態になったわけだけど、結局あんまりしてもらうことはないかもしれない。というのも、作られた田んぼはあっと言う間に植物で埋まってしまい、田んぼ内に入りたくないユフィから見える部分は少なくなってしまった。やっぱり田んぼで作業するには水への適性……というか好み?が必須かもしれない。
因みにラナは田んぼをスイスイ泳ぐ。泥が舞っている中でも気にせず泳ぐ、一応適性があるということになるのかもしれない。
ユフィに試しに泳いだりしないのか聞いてみると、「体の大きさ違うんだからさぁ……」と呆れられた。そりゃそうだ。ユフィの大きさじゃラナみたいに田んぼで泳ぐのは浅い場所があったり植物が邪魔だったりで難しい。またアホなとこ晒してしまった。
◇
「おー、これが噂の」
田んぼに慣れてきた頃、イルちゃんが遊びに来た。イルちゃんは少し忙しかったみたいで、ミサキさんとは文面でやり取りして田んぼの件は保留にしてたみたい。
田んぼとその中や周りにいるミルスを見ながら、ふむふむと現状を確認していく。
「この感じならユフィと王様が平気なら良いんじゃない?そもそもこの手のことだと私はユフィ以上の判断は出来ないと思うし。まあミサキさんにはこっちから伝えておくよ」
「ありがとー!」
私もそうなんじゃないかなって思ってたんだよね。ただ、ミルスの言葉だけ聞いて判断するわけにもいかないって言ってたから、イルちゃんから意見を貰ったっていう形が欲しいんだろうな。外交って大変だ。
「入って良い?」
「良いよー。見えなくても足元に作物があるかもだから、気を付けてね」
これが田んぼの辛いところでもある。稲みたいに上側に実ができるなら良いんだけど、下側だと泥に隠れて見えなかったりする。歩くときは一歩一歩確認しなくちゃいけない。
返事を聞くや否や田んぼに入るイルちゃん。魔法で弾いているのか、水の存在を感じさせない歩き。試験管で採取したり、手に水につけ擦って確認したりしてるから、部位によって調節したりしてそうだ。すごいなぁ。
「どんなことが分かるの?」
「魔力の感じとかだねー。まだ詳しく見たわけじゃないけど、多分森の中と似たような状態になってるんだと思う。他の場所で同じような状態に出来れば、ここで採れた作物が作れる可能性も上がるだろうし気になる人も多んじゃないかなぁ」
「ほえー」
そっか。畑と違って水でも変わるのか。ん?でもそうなると、私用の畑の田んぼバージョンを作るとしたら、私も水から考えなきゃいけないってこと?
いやー、それはちょっと……めんどくさいかなぁ、なんて……。
そもそも水って作るもの?綺麗な水が良い、なんて話は聞くことがあるけども。
というか今更気付いたけど、この田んぼって水入れ替えられないよね。水路もないし当たり前なんだけど、田んぼとしては当たり前じゃない。ひょっとしたら田んぼって呼んで良いのかすら微妙なんじゃないかと思えてきた。じゃあ何なんだろう。沼?池?
イルちゃんに聞いてみたら、池らしい。まあ「田んぼでも良いんじゃない?」とのことで、そういうことにしておこう。
田んぼの水はミルスたちが手入れしてあるから、状態は悪くないらしい。「どんな状態が良いかなんて、植物によりけりだけどね」とのこと。
イルちゃんやミルスたちに確認してみると、植物毎に魔法をかけて水質状態を調整しているんだって。直接、ろ過装置がくっついているみたいな。
「絶対無理じゃん?」
なんとなくでも同じ土地だからとワンチャン狙いにいける畑と違って、前提条件として魔法による介護が必要だし途方もない手間暇がかかる。私が再現なんてとても出来そうにない。
「新たに作った田んぼと条件が合うやつだけ試すって手もあるけど、それでも用水路は欲しいね。仮に作るとしても排水方向に難儀しそうだし、しょうがないねー」
田んぼをやらなくていい大義名分もありそう。一安心だ。
「ミャ?」
「えっ」
「ミャミャ?」
「おー、確かに出来るのか、も?」
ちょっと待って。私の魔法なら頑張ればいけるだなんて……ユフィに裏切られた!
「あの、私の魔法しょぼいよ?傘だよ?綺麗に彩るのはわりと得意だけど、それだけよ?」
胡乱な目でユフィに見られる。
「傘だからじゃないの?薄い膜の形が得意なら、ろ過膜だって作れそうだし。素質に近い形でイメージ出来るならむしろ有利みたいな?」
イルちゃんからも援護射撃が入った。
あっ、この前の籾殻を分別したやつか。
「そう……かな?」
籾殻の分別は私にも分かったし挑戦したけど、田んぼの水?成分?をろ過ってどうすれば良いんだ?
しばらく話し合って二人にあれこれ案を出されたけど、正直ピンと来ない。
「イメージ出来て無さそうだし、難しいかー」
「ミャー」
「私には難しいよぅ」
そもそも傘魔法だけじゃなくて水魔法も併用する必要があるみたいで、その時点で私には厳しい。「能力は足りてる」とユフィは言うけれど、私にはどうしてそう判断出来るのかすら分からない。
あとその、ミルスの田んぼが増えたせいで今も結構忙しくて、ちょっと手心をね?
結局今日は私用の田んぼの是非についてずっと話し合っていたけど、良くも悪くも結論は変わらなかった。




