6.安心したときが一番危ない
前回のあらすじ!アイシオ君はアーツ『ウォーターカッター』を習得することに成功した!
過去の経験とはかくも不思議な縁で活きるものである。まさかS&Wの技術が今になって役に立つとは思わなかった。
というか、プレイヤーのリアル技能をアーツの解放条件にするってどうなんだろう。いや、さすがに別のルートからも解放できるようになってるとは思うが。
「こうなると、他に『ウォーターボール』派生のアーツがないか気になってくるな」
CTはアーツごとにカウントされるので、使えるアーツを増やせれば戦闘のスピードをかなり改善することができる。MP消費があるので全部が使えるわけではないが、増やしておいて損はないだろう。
S&Wの記憶を参考にしつつ、『ウォータボール』の形をいじくりまわす。
結果、棒状にして『アロー』、円錐形にして『スピア』、リング状にすることで『バインド』、そして小さく分割することで『バレット』を習得できた。
この中で特に使えそうなのは『バレット』だ。16発の水の弾丸が現れ、『ボール』と同じように、1発1発を操作できる。ダメージはゴブリンを10発で倒せるほどであり、そうダメージでいえば『ボール』と変わらないぐらいなのかな?『ボール』は、ゴブリン相手にはオーバーキルだったので弾数を調整することでMP効率が良くなった。
「剣とかも作りたいけど、やっぱむずかしいか」
ホントはもっといろんな形を試したいが、俺の技能ではうまく形を作れなかった。S&Wよりやりやすくなっているはずなのに、どうやればいいのさっぱりかわからんのだが、当時のアイツ等はどうやっていたんだ……
けどまぁ、大して労せずアーツを4つも増やせたのだし、成果は上々といえるだろう。
「しかし魔法ばっか増やしてもあれだよな。魔法メインの戦闘は難しいんだよなぁ。かといって弓のアーツってどうやって増やせばいいんだ?」
前衛なしの魔法職って立ち回りが難しいし、ましてソロでやるのは避けたい。あくまでメインの攻撃手段は《弓術》が望ましい。
……ステータスがプレイング依存ってのが悩ましい。場当たり的に使い勝手のいい《魔術》を使うってのがどの程度許容されるのかが想像できない。
「リアル弓道やってれば何かしら思いつくのだろうか」
連射とかのアーツが使えれば便利なんだけどなぁ。
動画サイトで連射してる人とかいたが、どうやってるのか想像もつかん。ていうかあれはなんか機械っぽい弓だった気もする。この弓、種類は分からんがシンプルな奴で再現できるもんだろうか。
まぁ、できないことについて考えていてもしょうがない。逆にリアル技能なしでできることを考えたほうが有意義だろう。
「……矢以外の物を打つとか…?」
…有意義じゃないかもしれない。弓についてゲーム以外の知識がなければ大した発想もできない。
とはいえ、万に一つということもある。やるだけやってみるか。
インベントリにあるアイテムを眺める。
石。石を弓で撃つ…?早速、暗雲が見える。
木の枝と棒。無理やり撃ってみたが全く飛ばない。
雑草。毒草とかあれば毒矢とか作れるかも?どっちにしろアーツにはつながりそうにない。
あとは、リンゴを打ち抜いたのってウィリアムテルだっけ?あれ、ロビンフッド花にした人だっけ。どっちか忘れたけど、真似して遠くから打ち抜いたら。何かしらアーツを習得しないかな。…しないだろうなぁ。すでに『狙撃』があるし。
その他モブドロップ達も使えそうなものはない。強いて言えば『ゴブリンの牙』は石の代わりに、鏃として使えるかも?
『現在の加工熟練度では利用できないレシピです』
あ、はい。
試してみたが、熟練度なんてのもあるのか。まぁでもレシピとして存在していると知れたのは収穫か。
手持ちのアイテムは全滅かぁ…..
他に撃てる物。矢、アロー…|《魔術》《アロー》?
《魔術》偏重にならないという目的を考えると、本末転倒な気もするが、思いついてしまった以上やるしかない。
だって魔術の矢を弓で撃ちだすって、想像したらめっちゃ格好いいだもの。
「『ウォーターアロー』」
中に浮かぶ水の矢が現れる。それを改めて観察してみて直感する。
多分、いける。
VRゲームのオブジェクトってそれが持つ情報をプレイヤーにVRシステム越しに五感として伝えてくるのだが、ものによっては五感以外の物を感じ取ることもある。
例えば、不動オブジェクトを見て動かせそうにないなと感じたり、壁を見てこれあとで崩れるんだろうなと直感したり。
理屈はよくわからないし、人によって感じる人、感じない人がはっきり分かれるのだが、俺はかなり感じ取りやすいほうなのだ。そのせいで、一時期の謎解きとか脱出系のゲームをまともにプレイできなかった。作者の想定しないところでネタバレを食らいまくるんだ。
最近はそういう人がいる前提で対策が取られるようになったけどね。
で、目の前にある水の矢。この矢から、集中しないとわからに程度だが、インタラクト可能なオブジェクト特有の感覚、強いて言語化すれば”世界から浮いている”ような雰囲気が感じられるのだ。
水の矢を傍らに待機させ、的を探す。すぐにホブゴブリンを発見する。
左手に弓を握る。右手を、傍らに待機させている水の矢にゆっくり近づける。……さっきの直感が勘違いだった場合、自傷ダメージが入るのだろうか。
っ!触れた!水でできた矢の矢頭をつまむようにしてつかむ。つかんだ感覚は普通の矢とさして変わらな。
そこからはこれまで何度もやったのと変わらず、弓にセットして、構える。
ふと、この状態から《弓術》のアーツをさらに乗せることってできるのだろうか、と考える。
『強撃』
声に出さずアーツを発動する。水の矢がわずかに発光する。
まじか、発動するのか!
『強撃』の分の威力が乗った『ウォータアロー』が放たれる。
ホブゴブリンはこちらに気づいた様子も回避する様子も見せない。回避スキルを持ってないのか、発動が確率なのか。
矢が当たると同時に、ひときわ大きな衝撃音とともにホブゴブリンが吹っ飛ぶ。
「わぁ、すっごい……」
『レベルアップしました』
『習得済みの初級スキルが自動的に強化されます』
『スキル《魔術・弓》が解放されました』
吹き飛んだホブゴブリンは絶命したようだ。まぁあれで生き残ってたらびっくりだ。
さて、当初は弓系アーツを増やそうと始めた実験だったが、結果的に魔術スキルを開放するに至った。
アーツが手に入ることがあるんだから、スキルでもできてることはそう驚きではないが、かなりうまくいったな。
ちなみにスキル一覧を確認したが、さすがに解放されたというスキルは習得済みにはなってなかった。習得可能状態になることを開放というらしい。
《魔術・弓》を習得するには5SP。迷わず習得する。
あんなん魅せられて、習得しないなんて選択肢ないよなぁ!ロマンの前にすべての理屈は価値を失うのだ…!
気づけば順調に魔法職構成になっていっている気がする。これはもうあきらめて、覚悟するべきか。
さて目標だったレベル10になったわけだ。
「表示が《弓術:初級》から《弓術》になってるな。って、未習得のやつも初級取れてるじゃん。あ、よかった。必要SPは変わらず1のままだ。」
《短剣》と《魔術・水》も初級が取れてる。性能はどうなっているんだろうか?弓に関しては『速射』と『二連射』のアーツが使えるようにもなっていた。レベルアップで増えるな、らさっきまでの苦労は……。無駄では無いのは間違いないが、ちょっとモヤッとしてしまう。
「スキル以外に何が増えたのかな。ああ、クエストが増えてる。しかも結構あるある。あ、やっぱりジョブもレベル10からか」
レベル10の新要素用のチュートリアルがクエスト一覧に増えている。
...…ふぅ。そろそろ、目をそらすのをやめよう。
たった今習得した《魔術・弓》。これについて、一つ考えなければいけない問題がある。
このスキルは、素晴らしい威力と何よりロマンを魅せてくれた。当然、解禁できたことは喜ばしいし、習得したことに後悔はない。ただそのロマンこそが問題を呼び起こす原因になる。
このスキル、多分持ってる人がいないか、いてもかなり珍しい可能性が高い。なんせ、前提となる技能が特殊すぎるのだ。S&Wをやってないプレイヤーが魔法を変形させようなんて発想をそう簡単にするとは思えない。S&Wプレイヤーは、大体みんな普通に性格が悪いので、こっちもそう簡単にスキルの解禁方法を誰かに教えるとかやりそうにない。
別ルートで習得する可能性もなくはないが、かなり低い。俺がいうのもなんだが《弓術》と《魔術》を両方伸ばすって、そこそこ特殊だ。そんな珍しいプレイヤーが、《魔術・弓》を習得していたとして、そのやり方をわざわざ広めている可能性はどれぐらいだろうか。
これで《魔術・弓》が珍しいと考えた理由は分かってもらえたと思う。そして想像してほしい。そんな珍しいスキルを低レベルのプレイヤーが持っていたらどうなるだろうか。しかも、見た目がかっこよくて、志納も悪くなさそう。
まぁ目立つ。これで目立つだけならいい。俺は別に目立って困るタイプの性格はしていない。
じゃあ何が問題化といえば、現状の俺のような低レベルプレイヤーが目立つと、困ったタイプのプレイヤーに絡まれたりするのだ。民度が悪い奴らってのはいつでもどこでもいて、プレイヤーの総数が多ければその絶対数も多くなる。ALTerraのプレイ人口を考えると、この心配も杞憂だと一蹴できない。
だからと言ってこのスキルを持っていることがばれないようにこそこそするというのも気に食わない。
”そういうタイプ”のプレイヤーに屈するというのが屈辱だというのもあるし、シンプルに今俺の持つスキルの中で最大火力を封じてプレイするとかプレイの幅が狭まる。
一番いいのはS&Wの誰かが、今の俺と同じことをすでに思っていて、情報を広めていることか。ほかプレイヤーに対して俺の優位はなくなるが、別にPVPをしようってわけじゃないからな。
それを含めて、当初の予定通り情報収集する必要があるな。個人的には無粋な気がして気乗りしないが、攻略サイトか掲示板を覗くしかないかなぁ。
情報屋的なプレイヤーとかいればいいが、わざわざ探すとなると苦労する。いないってことはないだろうな、あのタイプのプレイヤーはどこにでも湧く。
そんなことをつらつらと考えながら、街への帰路につく。
街に近づくにつれ、周囲にプレイヤーが増えていく。森の浅層にもすでにかなりのプレイヤーがいた。危なかった、もう少し遅かったらあれに巻き込まれていたのか。…最後の場面、誰かに見られてないよね。一応、周りは確認してたけど、不安だ。
内心、警戒心MAXでいたが、特にトラブルなく門をくぐる。
無事に街に入れたことで安心して気が抜ける。
それがいけなかったのだろうか。行く手を阻むように一人のプレイヤーが現れる。女性の見た目で、装備が整った上級者っぽいプレイヤーだ。今の俺では逆立ちしても勝てそうにない。
気分の乱高下が激しくて吐きそう。
目の前の女が明るい口調で話しかけてくる。
「こんにちは。初めまして、お嬢さん。私はカレンっていうんだけど、ちょっとお話、いいかな?」
俺は2つの意味で顔をしかめて答える。
「俺は、決して、”お嬢さん”ではない」