4.慎重にと言いつつ衝動で動くのが人間
「そろそろレベル9か」
初戦闘を終えた後、俺は1時間弱ほど戦闘を続けレベルを8まで上げることができた。
このゲームでの戦闘のコツをつかんだりしながら、いくつかスキルを取ったりしてレベリングの効率化を図っていった。
その結果、今のスキルはこうなっている。
——————
言語理解
弓術:初級
短剣:初級
採取
加工
索敵
狩人の目
STR上昇
DEX上昇
——————
初戦闘後最初にとったのが《採取》だ。
あの後、しばらくは弓で攻撃したまに近づかれたら短剣で応戦するというスタイルで戦っていたのだが、10分ぐらいたった時点で矢が残り10本になってしまった。1分当たり4本消費した計算だ。かなりのペースである。この時点で一回街に帰って買い足そうか迷ったが、できればどうにか自力で調達するなり、矢を回収したりできないかなと思ってスキルを眺めていて見つけたのが《採取》と《加工》だ。
まず、《採取》で撃った矢を回収できないかと試したが、残念ながらそれはできなかった。
なので次は《加工》を習得。このスキルは文字通り簡単なアイテム加工ができる生産系スキルだ。アイテムと少しのMPを消費して、別のアイテムを生産できる。これを使って、まずはそこら辺で拾える、木の枝から『木の棒』を作成。さらに『木の棒』とこれまたそこら辺で拾える『石』を合わせることで『簡素な矢』を作ることができた。
もともと使っていた『木の矢』よりは性能は劣るが、弾切れの心配がなくなったのはでかい。
《採取》も完全に無駄ではなく、木の枝と石を集めるときに回収するアイテムが増える効果があるので、ギリ費用分は働いている。2つとも1SPだけでとれる安いスキルだしね。
その次にとった 《索敵》はスキル名からわかる通りモンスターを見つけやすくなる効果がある。このゲーム、モンスターにHPバーとかアイコンとかが表示されないので、敵を探そうと思うと意外と見つからないし、見つけたと思ったらかなり近づいていたみたいなことが多々あった。遠距離職が先制攻撃できないディスアドバンテージはかなり重いということで、こちらは2SPと高めではあるがその分の価値はあるだろうということで取った。
ついでに《索敵》とシナジーがありそうな《狩人の目》、これも3SPを出して習得した。モンスターが見つからないイラつきで半ば衝動的にとったのだが、このスキル思ったより俺と相性がいい。効果としては、まず視界の拡張。多分、角度にして270度ぐらいまで見えるようになった感じがする。慣れてないと酔いそうではあるが、そこら辺はまぁVRゲームを長くやっていれば慣れるものだ。
そしてもう一つの効果がターゲティング能力。これは《弓術》についてきたエイムアシストに似ていて、体感的に射程と命中精度が1.5倍ぐらいになった気がする。これのおかげで、一方的にモンスターに攻撃が可能になり、かなり安定した戦闘が可能になった。今後も腐ることはないだろうし、高くともいい買い物だったと思う。
残り2つの上昇系は、ゴブリンを一発で倒したいと思って、弓の威力につながりそうなものを取った。ちなみにまだヘッドショット1発は耐えられる。悲しい。1つ2SPもしたのになぁ。
まぁ、スキルでステータスが決まるのなら、無駄になるってことはないだろう。多分。
ちなみに、レベルアップでもらえるSPは1レベルごとに1だった。今はまだいいが、すぐカツカツになりそうな感じである。あんまり無駄遣いはできない感じだ。
「あ、いた」
いままで取ったスキルを振り返りながらモンスターを探してると、《索敵》の効果で木の上に小動物っぽい輪郭が見えてくる。
「またリスか…」
この1時間で、もう何体倒したかもわからないぐらい倒してきた、グリーンスクワルというモンスター。見た目はまんま緑のリスだ。おそらくこのエリアで一番、出現数が多いモンスターだ。
正直、あんまりおいしい敵じゃないんだよなぁ。経験値は正確にはわからんがあんまり多くなさそうで、ドロップも『どんぐり』だけ。もしかしたらレアドロップでレアな木の実とか落とすかなとも思ったが、現状一回もない。そのくせこっちを見つけると、すぐ逃げ出す。アーツなしでも1発で倒せるぐらい弱いからいいが、面倒な敵である。
「とはいえ、無視するとちりつもでレベルアップが遅くなるだろうしなぁ」
内心、ため息をつきながら、矢を取り出す。
《索敵》と《狩人の目》のおかげでリスと俺のあいだには結構な距離があり、まだあっちは俺を発見できていないようだ。
「『狙撃』」
「キュイ!??」
射程と命中を上昇させるアーツを発動し、1撃でグリーンスクワロルを絶命させる。
「この微妙に罪悪感を抱かせる鳴き声、やめてくんないかな……」
これに比べるとコブリンの汚い断末魔もマシに思える。
そんな風に愚痴っていると。
『レベルアップしました』
「おお!レベル9か!レベル10の大台まであと一歩ってとこだな」
いやー結構時間がかかったから、達成感がある。
まぁ、時間がかかったのは道中、目につくもの全部拾えないかとか試したり、制限なく木に登れることに感動してパルクールごっこで遊んでたからなんだが。
「それで、レベル9のステータスはー」
—————
• HP:180
• MP:180
• STR:22
• INT:18
• VIT:16
• AGL:18
• DEX:21
—————
「やっぱりSTRとDEXに偏ってるな。弓も短剣もSTRとDEXを参照してるっぽいしその影響か?そんでVITが低いのは、基本相手の攻撃を受ける前に倒してきたからってところか?」
スキルによってステータスが決まるって聞いてたけど、プレイングによっても変わってきたりするのだろうか。
自分のプレイスタイルに合ったステータスに自動的になるというのはありがたいが、あんまり変わったステータス配分にはしずらそうだなぁ。
「ステータスポイントの割り振りとかできればいいんだけど……?え?あれ?もしかしてできる?」
ステータスウィンドウをいじっていたら、ステータスの数字を増やせることに気づいてしまった。
慌てて、チュートリアルクエストに書いてある文章を読み始める。
曰く、SPはそもそもステータスポイントの略で、ステータスを増やしたり、スキルを増やしたり、特殊なジョブや種族になる際に必要になるものであるらしい。
スキルに使うSPだから勝手にスキルポイントだと勘違いしていた。ていうか、事前情報でスキルによってステータスが決まるとか聞いてたから、ステータスは自分では割り振りできないものだと思って、チュートリアルも読み飛ばしちゃった。
チュートリアルを読み飛ばすのはよくないね。もう知ってることだと思っちゃうと、つい説明を読み飛ばす癖、本当に良くない。
いやー、今までも「はいはい、チュートリアルね」みたいな感じで読み飛ばして失敗した経験はあるのに、学べないものだなぁ。
「まぁ、でも、現状だとSPをステータスに振るのはあんまり得じゃなさそうだし、ぎりセーフか?」
SPを使った場合HP、MPは1SPごとに10、その他は1つづ上がっていくが、ステータス上昇系のスキルが2SPでとれる。上昇系スキルがその後のステータスの伸びのも関わってくるなら、序盤にとったほうがお得だろうからこっちで正解。の、はず。
「はぁ、憶測で大丈夫だろうと考えてはいるけど、いろいろ情報不足感が否めんなぁ。」
となると、一回情報収集のターンかぁ?でもなぁ、時間を掛けすぎると狩場にまた人があふれそうなんだよなぁ。
ついさっきも、遠目にだがプレイヤーらしき影を見かけてしまった。
「いったん、レベル10までは上げてしまうか」
数秒迷った結果そう結論を出した。
レベル10はキリがいいってのもあるし、あらためて読んだチュートリアル的にレベル10になると、またできることが増えそうなんだよね。
そうと決めれば善は急げ。とっととレベルを上げてしまおう!
と、意気込んだがすぐにつまづくことになる。
「まーだ、ゴブリン相手にアーツがいるかー……」
一言で言えば火力への不満。
数回の戦闘をこなしてみて、今の俺がゴブリン1匹を倒すのに必要な攻撃回数は、『強撃』+通常攻撃0~1発、もしくは通常攻撃3~4発だとわかった。
ぱっと見だとそこまで悪くないように見えるが、これが意外とめんどくさいのだ。
まず『強撃』を使う場合、アーツのCTがあるせいで、戦闘が終わったあと数瞬待ってから次の敵を探し始めないと、CTが間に合わないことが多い。待つのはほんの数瞬とはいえ、戦闘ごとに挟まるのは結構なストレスだ。
一方アーツなしで通常攻撃のみで戦う場合、こちらは戦闘の安定性が激減する。
まず通常攻撃の射程の問題がある。正確な距離はわからないが、少なくとも3回矢を撃てるだけの距離をとると、まともに届かないか、当たらない。
そして命中の問題。さっきゴブリン相手に3~4発必要だといったが、これはうまく矢を中てられた場合の話で、近づいてくるゴブリンから逃げながらとか、射程ぎりぎりの距離で撃ったりすると、カスあたりになったり、そもそも当たらなかったりすることもあるのだ。
そうやって、近づかれる前に倒しきれないと近接の間合いに入られてダメージを食らうこともある。今のレベルならこちらが倒されるほどのダメージを食らうこともないだろうが、残念ながら今の持ち物には回復アイテムがない。
一応、森に入った段階では、¥念のため買っておいた『応急薬』という回復アイテムが10個あったのだが、すでに使い切ってしまっている。ゴブリンの一発がHPを8~12、当たり所が悪いと20ぐらい削ってくるのに対して、『応急薬』の回復量は何と脅威の5。アイテム説明には『ほんのわずかにHPを回復する』とし書かれていなかったが、マジでわずかすぎる。これは罠だろとも思うが、これに関しては、一番安いからとこれしか買わなかった俺が悪い。
「8から9に上がるのにも体感的にそこそこ時間かかったし、10に上がるまでこのままはあれだなぁ」
遊んでた分を抜きにしても、そこそこかかっていた。まぁこれは、ソロで安全策をとって戦っている以上しょうがない。
さて、どうしようか。
選択肢としては3つある。
1つ、このまま諦めて続ける。
2つ、いったんレベリングを切り上げて街に戻る。
3つ、この場で火力増強する手段を講じる。
まぁ1つ目は論外。どれぐらいかかるかわからないが、細かなストレスは蓄積する。ていうかすでに結構蓄積してきている。
2つ目。これは比較的”あり”だ。一旦、帰って装備とアイテムを整えればさっきの問題はすべて解決する。人が増える問題も狩場を変えてしまえばいい。
が、1つ懸念点がある。それは、レベル10になった時に解放される要素だ。正確にはレベル10に限らず、この先解放される要素全般について。
最初にステータスを見たときに、ジョブとか種族とか、まだよくわかってない要素は多かった。個人的にジョブあたりはレベル10で開放される要素なんじゃないかとにらんでるが、それらが開放されないと、装備をどういう基準で選べばいいか決められない。
まぁ簡単に言うと、貧乏性なので情報がないうちはギリギリまで装備にお金を払うのがもったいなく感じちゃうのだ。
3つ目。これは一番わかりやすい。この場で出来る火力増強は、装備更新ができない以上、スキルをとることだ。SPの残りは8。スキルに関しても2つ目と同じ問題があるように思えるが少し違う。装備は使わなくなったら売るぐらいしかできないが、スキルは(完全な死にスキルでもない限り)永続的に使い続けられる。
というか、ぶっちゃけるととりたいスキル実はすでにあるのだ。
それが《魔術》。
やっぱ魔法ってロマンだよなぁ。せっかく最新ハードで超高クオリティのゲームをやるなら、魔法も使ってみたいってものだ。ただ、ゲーム的なところで言うと、攻撃手段をいくつも持つって器用貧乏まっしぐらになる気がしてならない。
ただ、実際、火力補強になることは間違いないだろう。CTとかMP消費とか細かいことはわからんが、威力が弓より低いというのは考えづらい。MP消費があって弓より低威力なら完全に下位互換だしな。
「気持ちが魔法に惹かれちゃってるなぁ。ふぅ。まぁ、なるようになるか。」
迷いを振り切って、スキルウィンドウを開く。
「えい。」
1SPを消費して、《魔術・水:初級》を習得した。
ちなみに、《魔術》スキルは火、風、水、土の四大属性から選べた。俺がその中から水を選んだのは、回復魔法とか使えるようになったら便利だなぁと思ったからだ。まぁ他の属性出ないができるかわからんしね。
「あとは、《INT上昇》もまぁ必要だろう。これで魔法に3SP使ったわけだ。」
後悔こそないが若干不安ではある。ぜひとも《魔術》にはこの不安をぬぐう活躍をしてほしい。