表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

2.チュートリアル

 一瞬の浮遊感の後、地面に降り立つ感覚が足に伝わる。ゆっくりと目を開けると、いかにも中世ファンタジーな石造りの街並みが見えた。周りを見渡すと、かなり大きな広場のような場所に立っているようだ。


 息を吸って、吐いて。ぐっと伸びをする。

 空気が肺を満たす感覚が、体の筋肉が伸びる感覚が、太陽が肌を照らす感覚が。その他の生きてるって感覚が全部、余すことなく感じられる。

 まだまだ7月だというのにクソ暑い現実世界と違い、爽やかで涼しめの風が穏やかに吹き抜けて、背後に生える、おそらく広場のシンボル的な存在であろう大木の、青々とした葉っぱを揺らす。

 五体の感覚、風の感触、葉擦れの音、そのすべてが現実と同等の情報量を持っている。


 また、地面の方に視線を向けると、石畳が広場に敷き詰められてい居る。地面に立っていると全体が見えないが、どうやら何かしらの模様が描かれいるようだ。

 俺はおもむろにしゃがんでその表面をなでた。


「表面の質感(テクスチャ)もすげーな」


 歩きやすくするための工夫であろう、ざらざらとした引っ掛かりのある石の感覚が指先に感じられる。表現しずらいが、ちゃんと石の表面をしている。

 事前の評判に偽りなしというか、それ以上というか。

 石畳やその隙間から見える石、少し歩いて木の表面。いろんなところを触ってみるが、一つとして違和感がない。石はしっかりと硬く、土は柔らかく、日の当たり方で湿り気が変わっている。

 そうやって五感から感じられる情報量に感動していると、ふと視線?のようなものを感じて周りを見る。

 周囲にはおそらく俺と同じように夏休みを機に始めたのであろう、初心者っぽい様子のプレイヤーたちがたくさんいる。


「ていうかめちゃくちゃいるな」


 改めて周りを見ると、初期スポーンである大木の周りには、初心者プレイヤーが現れていて、それを遠巻きで眺めるように中級者から上級者っぽい装備のプレイヤーが広場の外周にいる。

 多分だけど、初心者プレイヤーが入ってい来るのを見に来た野次馬ってところだろう。俺もそうだが、夏休みを機にALTerraを始めるプレイヤーがかなり多いらしいのだ。理由はPOD(ハード)がこの夏に増産され入手難度が下がり、ついでにALTerraのサーバーも強化されたからだ。

 プレイヤーが大量に流入してくるという噂を聞きつけて、見物しに来たってところだろう。俺も同じ立場ならやるから間違いない。

 で、改めて今の自分を客観視すると、上級者(おとな)に見られながら、物珍しそうにあたりを見回す初心者(こども)、あるいは上京したてで大興奮のお(のぼ)りさん。いやむしろ、独り言をぶつぶつ言いながら、にやけ面でかがんだり地面をなでながら這いまわってる不審者だろうか。

 どうりで生暖かい視線が来るわけだ。

 といってもテンションが上がって様子がおかしいやつは俺以外にもいて、そいつらとまとめて向けられた視線のようだ。

 うわーめっちゃ恥ずかしい。

 いたたまれなくなって、そそくさとその場から逃げ出したのだった。


 ―――


「さて、これからどうするべきか」


 俺は最初の広場から続いている道を歩きながら、次の行動を思案する。今は広場からなんとなく人の少ないほうへと動いているが、それでも結構なプレイヤーが周りにいる。

 さすがに広場から出てからは特に目立ったりはしていない、と思う。多分。......悪目立ちした後って何やっても誰かに見られてる気がしちゃうよね。早く忘れよ。


 で、次のプランだが、実はずっと無視していたが、世界(ゲーム)に降り立ってからずっと視界の端で存在をアピールしているアイコンがある。あからさまに「最初はここから始めてくださいねー」って感じの存在感を放っている。

 多分、ここからチュートリアルが始まるんだろうなとは思うんだけど、あの広場で何食わぬ顔で始める勇気がなくて無視していた。

 気持ちを切り替えて、そのアイコンに意識をむけ(インタラクトし)てみる。


『ようこそALTerraの世界へ』


 目の前に半透明の四角いウィンドウが表示される。開かれたウィンドウを確認すると、ステータス、インベントリ、設定などの項目が並んでいる。その中の『クエスト』の部分がまた、存在をアピールするように光っている。


「クエストの指示がチュートリアルになってる感じか」


 いや良かった、 いたたまれないからと広場から出たけど、案内人とかがいるタイプで、もしかしたら戻る必要があるかもとも思ってたんだよね。多分誰も覚えてはいないとはいえ、あんまり気乗りはしなかったからちょっと安心。


「まずは『インベントリを開け』」


 クエストリストの一番上に表示されている、簡単なチュートリアルを進めていく。最初の方に並んでるのは、さっき開かれたウィンドウにある項目の説明だ。

 インベントリ、ステータス、スキルといった項目を順に開いていく。


 持ち物は当然何もない。せっかくなので、なにか入れられるものがないかと周囲を見渡す。道の端に生えている雑草と転がってたから無意識に蹴っていた小石が目に入ったので、試しに拾って入れてみたら普通に入った。


「どっちも素材アイテムってなってる。石はわかるとして、雑草は何だ?アイテム名も雑草だけど……」


 雑草としての使い道があるのか、何らかの方法で鑑定をすると使えるのか。まぁ今考えてもしょうがないか。


 次にステータス。


「レベルは1。HPとMPが100で他は全部10か、どんくらいの強さなのかわからんな」


 項目はHP、MP、STR、INT、VIT、AGL、DEXの7つ。一応ほかにも種族とかジョブとかの項目も表示されているけど、とくに説明が表示されない。まぁ説明がなくともなんとなくわかるが、今は変更とかできないのだろう。


 それぞれの項目のざっくりとした説明を読んでいく。

 HP、MPは体力と魔力。体力が尽きれば死んで、魔力はスキルを発動するのに使ったりする。特筆すべきこともないかな。

 STRはストレングス、つまり力の強さ、物理攻撃力を示す。INTはインテリジェンス。賢さ、ゲーム的には魔法攻撃力のことだ。この2つも特に変わったところはない。

 VITはバイタリティ。言葉としては生命力みたいな意味だ。VITってゲームによって何を示しているのか微妙に異なるんだけど、説明には「打たれ強さ」とある。防御力的なステータスっぽいかな。攻撃と違って物理と魔法で別れてないのかな?どういう計算式になってるか気になるところ。

 AGLはアジリティでそのまま素早さ。これもフルダイブVRだと微妙にどういう意味になるかってのが、ゲームごとに違うんだよなぁ。足が速いのか行動(モーション)の一つ一つが素早いのかスキルとかの出が早いのかとか。説明的に行動が早くなるタイプっぽいが、確証が持てない。プレイスタイル的にも重要なので早いところ検証なり調べるなりして、理解しなきゃな。

 最後のDEXは器用さで、一般的には武器を使う条件になったり、スキルの習得条件になったりする。ゲーム内の説明はシンプルに「器用さ、技能の高さ」としか書かれてない。うーん、わからん。器用さってある意味あらゆる行動に必要だから、ゲーム的に何に関わってくるか来るか読みずらいんだよね。これも要検証だな。


「さすがにステータスの意味ぐらいは調べたほうがいいのかなぁ」


 俺は基本、ゲームをプレイするにあたって、事前情報とかはできるだけ見ないようにしてる。その方が新鮮に楽しめると思ってるからだ。

 当然、わからないことも多いが試行錯誤もゲームの醍醐味だと思っているので、わからないなりに楽しめる。

 ただなぁ、ステータス関連は後から取り返しがつかないこともあるからちょっと怖いんだよなぁ。どっかで変なステータスの振り方したせいで、やりたい遊び方ができないというのは避けたい。

 しょうがない、あとで調べることとしよう。



「で、最後はスキル」


 これが一番気になる。

 実は、さっき事前情報は好きじゃないとか言ったが、残念ながら回避しきれずに知ってしまったことがある。

 このゲーム、ステータスの伸び方がスキルによって決まるらしいのだ。

 今までもないことはないが、それなりに珍しい方式なのでちょっと話題になっていたんだよね。

 自力でステータスの数値を割り振る形じゃなくて、スキルの習得条件や使用頻度などによって、レベルアップの時のステータスの伸び方が自動的に決まるんだそうだ。基本的にスキルが要求するステータスが伸びる。ということは、つまりプレイヤーの個性はスキルによって決まるってことだ。


「とはいえ、今は何も……なんかあるな。”言語理解”?」


 なんだこれ、最初からもってるスキルか?でもわざわざ言葉が分かるなんてスキルいるか…?

 あーいや、そういえば、運営が最終的に世界中のプレイヤーが一つのサーバーで遊べる的なこと言ってたし、翻訳システムがありますよってことか?スキルの説明にも「言葉がわかる」しか書いてない。

 まぁ最初からみんな持ってるやつだろうし、気にしなくてもいいか。


「それでスキルを習得するにはSPなるものが必要なのか。で今は当然、0SP。レベルアップや一部クエストの報酬なんかでもらえるのか」


 あ、チュートリアルクエストの報酬にSPがある。これで最初のスキルをとれってことか。


 それからさらに、設定やらゲーム内掲示板やらを指示に従って確認していき、表示されている最後のチュートリアルを完了し、報酬を受け取る。


「ってまだ追加されるのか」


 空になったはずのクエスト一覧に新たなクエストが表示される。マップを開けだとかアイテムを購入しろだとか、追加のチュートリアルのようだ。

 ちょっとしつこいぐらいに、丁寧にチュートリアルで説明してくれるな。


「VRゲーム新規も増えるしこんなもんなのか……?」


 まぁ考えても仕方ないので、おとなしくチュートリアルに従うのだった。


 ―――


美味(うま)っ。てか味の再現度、高すぎだろ...」


 道中で購入したリンゴをかじりながら、その情報量の多さに、もう何度目かもわからない驚きを覚える。


 ここまでクエストの指示に従って、マップを埋めたり、リンゴを買ったり、商品を落としてしまった商売人(NPC)を助けたりしてきた。……”NPCからクエストを受注できる”って教えるためのチュートリアルだと思うのだけど、あのNPCは新規プレイヤーが現れるたびに商品を落とし続けるのだろうか……

 それでその過程で分かったことを軽くまとめる。


 まずはお金。通貨はアルゲンで単位はAr(アル)。さっき食べたリンゴが1つ100Arだった。ちなみにこのリンゴはHP+10回復と満腹度回復の効果がある。満腹度ってなんだ……と思ったらステータスに普通に載ってた。お腹が減りすぎるとステータスにデバフがかかったり、継続(スリップ)ダメージを受けたりするらしい。よくあるやつだな。

 あと、さっき助けた商人のクエストで500Arもらってる。まぁこういうのって強くなるにつれて稼ぎも出費も増えていくので、この段階での金銭感覚は参考程度にしかならないだろう。


 あともう一つ。レベルが上がった。

 戦闘なんてしてないし、なんならまだ街から出てない、唐突なタイミングでレベルアップした。一応クエストを達成したときに経験値が入ってきていることは確認していたので、どっかで上がるだろうとは思っていた。ただ、レベルアップのタイミングは本当に歩てるだけの時だった。

 これは、多分だけどただ歩いてても経験値が入ってくるということだな。

 ALTerraは非戦闘系のコンテンツも充実してるらしいし、そういうタイプのゲームでは戦闘以外の行動で経験値が入ってくること自体は珍しくない。ただ歩くだけで、ってのは珍しい気もするが。


「これはちょっとミスったかな?」


 ステータスの上昇のタイミングがレベルアップ時であること、その方向性がスキルによって決まるらしいってことを考えると、”スキルをとらず街でふらふらしている間にレベルが上がる”というのは、あまり好ましくない気がする。


「となると、そろそろ街の外に出るタイミングか」


 クエスト的にも、ちょどいいタイミングだろう

ALTerraのチュートリアルクエストは、あくまでクエストなので達成せずに放置もできます。プレイヤーによっては、ほとんど何もクリアせず、にいきなりレベリングしたりもします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ