何がヤバいモノが来た
ヒロシくんとヒカリお姉さんが会ってから、三人で会って行動する事が増えた。
何故か分からないけど、どちらの親もお姉さんと出掛けると言うことに何か言うことはなかった。
親戚のお姉さんと、遊びに行くのねという感じのノリで送り出される。
お姉さんは俺達を博物館とか水族館とか美術館とかに連れていってくれた。
コレがお姉さん流、俺達に対する情操教育で、ヒロシくんが家以外で楽しめるモノを見つける旅だったようだ。
お姉さん曰く、【良い男】を二人を育てて世に放つ! コレも新しい天部の仕事の在り方と思わない? と意味の分からない事を言っている。
「と言いつつ。私が二人のこと大好きなだけで、一緒に遊びたいだけなのもある!」
と続けて言ったので、俺達は笑ってしまう。二人もお姉さんのこと好きだから三人のお出かけは楽しかった。
今日は動物園に連れて行ってもらっている。お姉さんは小学生の俺たちよりもはしゃいで動物に声をかけている。
「ヒカリお姉さん、動物と話せたりするの?」
ヒロシくんの言葉にお姉さんは大きくため息をつく。
「それは出来ない!
天部になったから前より彼らの気持ちは分かるようにはなったけど、逆に声掛けて『なんだアイツ』みたいな気持ちで見られているのが分かるだけに悲しくもあるのよね」
確かに後ろの猿山で猿が何か呆れたような視線をお姉さんに向けている気がする。
「じゃあサハリの方に行きますか!」
猿に手を振ってからお姉さんは歩き出すが、いきなり足を止めたために、ついて行っていた俺はぶつかる背中にぶつかる。
お姉さんは動かない。
「お姉さんの知り合い?」
ヒロシくんは聞く。俺は鼻を押さえながら少しズレて前を見ると、離れた所に男性がいる。
ダメージジーンズに派手なロックバンドの柄のTシャツに短い髪を突っ立てて少し怖い感じ。
何より変に感じるのは、普通の人間にはないようなギラギラした色を纏っている。
「もしかして、お姉さんの同僚?」
「まあそんなところ?」「なわけないだろ! こんなポヤポヤポンコツと一緒にするな! おい! アマネアカリ! 仕事しないで、おまえこんな所で何してんだ!」
男が鋭く大きな声を出したので、身体がすくんでしまった。
俺たちは人気のないらしい鳥コーナーの、後ろにある東屋で向かい合う。
男の人の前でお姉さんは少しむくれたような顔をしている。
「あ、あの、オジサン? もしかして天部って俺達人間と会っていたらダメなの?
お姉さんは悪くないんだ。仕事していたお姉さんに俺が話しかけたから」
「オジサンって」そう言ってお姉さんは笑い、男性は眉を寄せる。
もしかしてそこまでの年齢ではなかったのかもしれない。俺は慌てる。
「すいません、お兄さん」
「俺達子供は大人の年齢よく分からなくて」
言い直す俺に、ヒロシくんが事情を説明してくれる。
謝る俺に男性は溜息をつく。
「別に俺はオッサンでもお兄さんでも構わないよ。
そうか二人とも、元々見えるヤツなんだ」
「いえ! 見えるのはジンくんだけです」
ヒロシくんは訂正する。
「ミキさんだって、人間とよく遊んでいるじゃない! 友達も多いわよね!」
ミキさんはジロっとお姉さんを睨む。
「俺は人間として友達付き合いしている」
「でも!宮部さんとかいう人は! 」
「アイツは仕方がないだろ! 商売柄俺の正体が見えちまうから」
「だったら同じじゃん!」
お姉さんとミキさんの口論が始まってしまう。
「じゃあ俺達も人間と人間としてお付き合えば問題ないって事ですか?」
ヒロシくんがそう口を挟む。ミキさんは頭を搔く。そして俺の方に視線を向ける。
「アンタは何がどう見えるんだ?」
「残情と人の気持ち。あとお姉さんの周りは白いポヤポヤがあり、オジ……ミキさんの周りはギラギラしたものが見える」
ミキさんは俺の言葉を聞き、なるほどと頷く。
あれ?思ったより話を聞いてくれた怖くない感じ。
「つまりはオーラが見えちまうタイプか。で、残情とかを歩いていて見つけたらどうしてる?」
「アレ触ると嫌な気分になるから避けて通って、お姉さんのスマホに残情があった場所を伝えてる。消してもらうために」
俺の言葉に、ミキさんはお姉さんを睨む。教えることは悪い事だったのだろうか?
「仕方がないじゃない! 担当区域広すぎだから!」
俺が身体を強ばらせているのを見てミキさんは少し表情を優しくして笑う。
「お前が悪いのではない、本来ならコイツがもっと気合いを入れて区域を周り、お前達人間に悪影響を及ぼす前に処理すべきだけなんだ。
しかしコイツがチンタラしているからあっちこっちに散見して困った状況になっている」
お姉さんは頬をプクッと膨らませる。
「ガキかよ! 怒られてむくれるなんて。話してるとコイツらの方がシッカリしてるぞ」
「そりゃそうよ!この子らは賢くて良い子だから!」
何故かそう言って自慢げに胸を張るお姉さん。しかし次の瞬間お姉さんの表情が強ばる。
同時に俺の身体にもゾクリとした寒気に襲われる。
何かヤバいものが現れた。それだけは分かった。