天使との再会
ヒロシくんの家の中には見つけられなかったモヤモヤや、外では結構見かける。
交差点とか駅のホームとかにそれは多い。
それがあると俺は避けるように動く。
ヒロシくんもそれが分かってくれているので、俺の視線だけでモヤモヤがあるのを感じて頷き一緒に避ける行動をしてくれる。
小学校四年の時、俺は幼稚園に来ていた天使さんを街で見かけた。
黒い長い髪で明るい様子も顔の雰囲気も変わらないけど、あの時とは違うもっとフリフリとレースのついたワンピースにピンクの細い肩紐のリュック。
黒い長い髪にはレースのリボンの髪留めがついている。
よりヒラヒラした服を着ているためか余計に天使に見えた。
天使って軽くてヒラヒラな服を着ているイメージだから。
俺は走ってその女の人を追いかける。天使さんはまっすぐと商店街の方へと進んでいく。
どの店にもよらず踏切へと進む。
そこは近所でも【開かずの踏切】として有名。
イライラしながら待っている人の間を抜け、天使さんが向かうのは線路の横にあるモヤモヤの所。
そのモヤモヤは青くて黒い。
幼稚園でやっていたように、天使さんはそのモヤモヤをナデナデして消している。
「あ、あの」
俺は天使さんのお仕事が終わるのを待ってから声をかける。
いきなり声をかけられて天使さんはびっくりしたように立ち上がり俺を見る。
少し申し訳ない気持ちになる。
そんな俺に天使さんはニコリと微笑む。
「ここじゃなんだから、もう少し話しやすい場所に行こう!」
そう言って連れて行ってくれたのは、神社。
天使なのに神社? と思ったけど神聖なる場所という意味では似合っているのかもしれない。
天使さんは、神社の隅にあるベンチに俺を誘う。
「それで、私に何か用?」
そう言ってコテンと首を傾げる。
「あ、あの、お姉さん……昔、幼稚園にも来てくれましたよね。そしてあのモヤモヤを消してくれて」
お姉さんは目を見開きその後弾けるような笑顔を見せる。
「あ、ぁあ! キミ、あの時の子? きゃー大きくなって! あんな小さかったのに!」
親戚の叔母さんのような言葉をいいながら俺を撫でてくる。
「あの時はありがとうございました。おかげで幼稚園も平和になりました」
俺の言葉を聞き、お姉さんは俺の腕を取り、感動したようにウルウルとした目で見つめてくる。
「う、嬉しい! 自分のしたことに対して、『ありがとう』って言われるのこんなに嬉しいのね!」
「え? 誰もお礼言わないんですか?」
お姉さんは顔を顰める。
「まあ、それが仕事でやって当たり前で、同僚も同じことをしているし……。
キミのように見える人があまりいないから、人にはその成果は見てもらえないし」
確かに、幼稚園でもお姉さんが仕事しているのを見えたのは俺だけだった。
「俺がおかしいの? お姉さんが見えるのは」
お姉さんはぶんぶんと音がするように顔を横に振る。なんかお姉さんだけど仕草はなんか子供みたいな人だ。
「いや、感性が鋭いというのかな? 生まれ持っての才能ともいうのかな? ザンジョウが見えたり、私のような存在に気がついたりするの」
俺は首を傾げる。
「ザンジョウ?」
「残るに感情の情という文字を書く言葉でね、死者の忘れ物なの。死んでいった人がこの世界に残してしまった感情があんな形で落ちてるわけ」
やはりあれは人の思いだったんだと納得する。色だけそこにあるから何々かわからなかったが、お姉さんの話を聞いて事情がよく分かった。
「だったら、あのモヤモヤのある場所で誰か死んでしまったってこと? それがなんで幼稚園の中にあったの?」
お姉さんは少し悲しそうな顔をする。
「あれはね、あの幼稚園の前で交通事故にあった子供の感情なの。
それが幼稚園で子供がいっぱいいて楽しそうな空気に誘われて少し移動してしまったのよ。
亡くなったところから数メートルくらいは動いてしまうものだから」
昔、お母さんたちが「可哀想に」とか言って幼稚園の前で何かあったことを話していたことを思い出す。
「その事故にあって死んじゃった子は、お姉さんがあのモヤモヤ、いや残情を消してくれたから幸せになった?」
お姉さんは眉を下げて首を振る。
「あの子は事故にあったあそこで死の時に感じた感情を残して旅立つことで、死の国で痛みも恐怖も忘れ過ごしているわ。
私がしていることは、この世界で困った現象をするその子の落し物を消してお掃除することだけなの」
それはそれで大切でスゴい仕事だと思う。
そういうとお姉さんは嬉しそうに笑った。
「で、お姉さんは何なの? 天使?」
ウーンと声を出してお姉さんは悩む。
「正確にいうと天部。神様のお手伝いをしているの」
「それって天使とは違うの?」
お姉さんはさらに悩む。
「どうなんだろ? 天使ってそもそも他の国というかキリスト教徒の考える神世界の考え方よね。
私がその天使の概念に当てはまるのかどうか分からない。
天使って生まれた時から天使していそうよね? 私は立候補して天部になったの!」
天部というのは、立候補してなれるものらしい。
「俺も天部になれる?」
なぜかお姉さんは、困った顔をする。
「……君が、一生懸命人生を頑張って生きたら……という感じ?」
俺は少しがっかりする…
「そうか、俺もあのモヤモヤを消せるようになりたかったんだけど」
お姉さんは俺の頭をポンポンと撫でる。
「それをキミにやられてしまうと、私の仕事なくなるから!
そこは私に任せて!
私も頑張るから!」
お姉さんはあっかるい笑顔で力強くそう言った!