よく分からない状況
赤い髪と赤い瞳を持つ男……ミキさんだった。
「この馬鹿天部が! ジンに何てことをしやがった!」
ミキさんの憤怒の表情が怖くて、彼が本当に鬼に見えた。比喩ではなく、彼の頭には角のようなものが生えている。
「ミキさん?」
恐る恐る声をかけると、ミキさんは俺の方に視線を向け、いつもの優しい表情になった。だが、髪と瞳は赤いままだった。
「ジン、久しぶりだな。少し大きくなったか?」
「お久しぶりです。あの、これってどういうことなのでしょうか?」
俺の問いに、ミキさんは軽く溜息を吐いてから答えた。
「コイツの暴走でこんなことになった。すぐ戻るぞ」
そう言いながら、ミキさんは周囲に視線を向ける。
ミキさんは辺りを見回すように視線を動かした後、誰かに話しかけるように呟いた。
「……はい。無事保護できました」
その言葉に、ヒカリ姉さんが慌てた様子で立ち上がり、俺に近づこうとする。
しかし、ミキさんが俺と彼女の間に立ちはだかった。
「ミキさん、なんで! ジンくんが天国に行けないなんておかしいと思わないの?」
「やむを得ないだろ。天国の規定にまだ届いていないのだから」
俺は混乱する。俺が何かしでかしたのだろうか? だから天国に行けない?
「俺、何か悪いことしたの?」
俺が問いかけると、二人は俺を見て首を横に振る。
「ジンちゃん!」
ミキさんが何かを言おうとしたその時、俺を呼ぶ大声が響いた。振り向くと、ふくよかな体型の女性がこちらに向かって走ってくる。母親だ。
「よかった、無事で……」
母親は俺を抱きしめた。その抱擁は暖かく、なんだかホッとする。
だが………俺の中で一つの疑問が湧き起こる。
俺の母親は小柄で、いつもハムスターのように忙しなく動き回る元気な人だ。この人は……誰?
「良かった、ジンちゃん……」
その声には安堵が滲んでいる。けれど、俺は困惑したままだ。
「大丈夫だよ……お母さん?」
俺の声に、不信感が滲んでいたのだろう。女性――いや、この「母親」らしき人は悲しげな顔をした。
俺は声をかけるべき言葉が見つからず、怠い体をその母親に預けるしかなかった。
気がつくと、周囲には複数の人が立っていた。
「離して!」
ヒカリ姉さんが男性二人に押さえつけられているのが見えた。
その様子を見ていたミキさんは、俺の方に視線を向けると、やがて口を開いた。
「ジン、場所を変えて話をしよう。お前も辛いだろう」
そう言うと、ミキさんは俺を軽々と抱き上げた。お姫様抱っこの体勢に恥ずかしさを覚えたが、体が重く自由に動けないので、むしろ助かった。
「こちらの方の騒ぎにより、ご迷惑をおかけして申し訳ありません」
ミキさんは俺を抱いたまま、母親に向かって頭を下げた。そしてそのまま歩き出し、海岸に現れた唐突なドアをくぐる。
その時点で俺の意識は、怠さに耐えきれず途切れてしまった。




