未来予想図
高校二年になった。大学受験が少し迫ってきたものの、クラスの皆はなんとなく呑気に感じる。まあ、まだ一学期ということもあるのだろう。
かくいう俺も、図書館で勉強はそれなりに真面目にしているけれど、映画を楽しんだり本を読んだりと、受験モードにはまだ程遠い。
「佐藤くんは進学、どうするの?」
佐藤くんは首を傾げる。
「理系の大学を選ぶんだろうな。でも、俺って何になりたいんだろう?」
そう言われると、俺も少し悩む。俺にも未来の具体的な夢はない。
「……大学は、ここではない土地にあるところに行きたいな」
「いいな、ここではない場所に行くの!
そしたら、二人で一緒に下宿する? 家賃折半して」
佐藤くんは俺のアイデアを気に入ったようで、笑いながら答える。
なぜだろう、未来について話すのって、なんだかワクワクする。
「家を出るというと……マミさんがね、就職する時に家を出ようと思うから、一緒に暮らそうって」
俺は首を傾げた。マミさんは佐藤くんの義姉で、とても良い人らしい。
熱すぎるほどの優しさと、真っ直ぐすぎる愛情を持った人だと聞いている。ただ、その愛情は佐藤くんを少し戸惑わせるもののようだ。
二人の関係は良好らしいが、義姉弟という複雑な立場が影を落としているのだろう。憎んでいるわけではないけれど、そんな相手からの同居の誘いを受けるのは簡単ではない。
とはいえ、佐藤くんを近くで見守るマミさんがそう言うのだから、やはり佐藤くんはあの家から出るべきなのだろうと思う。
「わー、三人暮らしになると俺、邪魔かな?」
佐藤くんが少し憂いを含んだ顔をしたので、冗談っぽく返してみた。佐藤くんは吹き出して笑う。
「いや、あのマミさんのパワーを一人で受けなくて済むなら、真田がいてくれると助かるかも」
そう冗談で返しつつ、佐藤くんは少し真剣な表情になる。
「でもさ、彼女こそ、本当に早くこの歪んだ家から解放されるべきなんだよな」
「だったら、二人で家を出るのもありなんじゃない?」
俺がそう提案すると、佐藤くんは首を横に振った。
「あの家で、俺が一番マミさんを束縛してしまってるんだ。
両親の過ちを一人で背負って、俺に償おうとしてくれてるから。
だから、マミさんこそ俺から離れるべきなんだよ」
佐藤くんはそう言って、少し大人びた笑みを浮かべた。
「まあ、とはいえ彼女の人生は彼女が決めるべきだから……それより、俺は自分がどうするかだよね」
佐藤くんは話の方向を変えた。これ以上マミさんの会話をしたくはなかったのだろう。
「佐藤くんは頭いいから、エンジニアとか向いてそう」
そう言うと、佐藤くんはふっと笑った。
「そういう真田は、学校の先生とか向いてそうだよな。なんか、人をちゃんと見て、導いてくれる良い先生になりそう」
そう言われて、少し恥ずかしくなった。同時に、心の奥からじんわりと嬉しさが込み上げてくる。それは、先生に向いていると言われたことではなく、今この瞬間そのものがもたらした感情だった。
なんでだろう。佐藤くんと未来の話をすることが、こんなにも素敵に感じられるなんて。
今まで二人でした会話で一番楽しい会話に思えた…




