もう一人の幼馴染?
何故だろう? 佐藤くんと再会してから、高校生活がより楽しいものになった気がする。
不思議なものである。
それまで全く交流どころか認識すらしていなかったのに、一度顔を合わせると、途端に佐藤くんの姿を校内で見かける機会が増えた。図書館にもよく来るようで、二人で「なぜ今まで会っていなかったんだろうね」と笑い合ったりもした。
学内では、佐藤くんは友達三人と一緒にいる姿をよく見かけた。色黒で背が高く、いかにもスポーツをやっていそうな子、背が低めで足が悪いのか少し引きずった歩き方をしている子、そして猫背でひょろっとした体型の子の三人だ。
彼らが他愛もない話をしているだけの光景なのだが、なぜか俺にはそれがモヤモヤを引き起こした。
特に、佐藤くんはその中でも背の高い子と仲が良いらしく、四人でいないときはその二人で行動していることが多い。
ある日、佐藤くんがその背の高い友人を連れて図書館にやってきた。
「真田!」
佐藤くんは俺に笑顔で声をかけてきた。俺も笑顔で挨拶を返しつつ、隣の人物がなぜか気になり、ちらちらと視線を送ってしまう。
この人の纏う雰囲気は何か不思議だった。喜怒哀楽といった感情ではない、何か強い「色」を感じる。こんな色を持つ人は時たま見かけるが、警察官のような職業についている人に多い気がする。
適性のようなものが色となって現れるのだろうか。背が高く肩幅が広いせいか、存在感がとにかく強く、威圧感すら覚える。
友人を気にしている俺の様子を見て、佐藤くんは楽しそうに笑った。
「真田、わかる? こいつ」
そう言われても、俺には心当たりがなく、首を傾げるしかない。学内で有名な人物なのだろうか?
「スズキタカシだよ」
……誰?
「幼稚園、小学校、中学校一緒だったスズキタカシだよ」
そう言われ、目の前のスズキタカシという人物が苦笑した。
「俺、目立たないから忘れられてそうだな」
こんな印象的な人を忘れられるものだろうか。
しかも中学だけでなく、幼稚園から一緒だったなんて……。
そう思いながら彼を見ていると、目が合ってしまった。気まずくて視線を外そうとしたが、なぜかそれができない。結果的に、彼と見つめ合う形になってしまう。
外人のような薄い茶色の目。その色が、まるで赤く光ったように感じた。
何か、心の奥底まで見透かされるような恐怖に襲われたが、体が動かない。
「体育祭でお前が転けて遅れたのを、俺が挽回してやったこともあったのに、忘れられるなんてショックだな」
スズキタカシは笑いながらそう言った。
その言葉をきっかけに、記憶が蘇る。中二の秋、擦りむいた膝の痛みと恥ずかしさに耐えながら必死でバトンを渡した……。
その相手は、前川充ではなかったか? いや……違う、スズキタカシだった。どうして前川の名前が浮かんだんだろう?
思い出が次々と広がり、スズキタカシという存在が記憶に定着していく。だが逆に、ふと名前が浮かんだ「前川」という人物の方が、一体誰なのか分からなくなっていった。
「覚えているよ。でもあの時のことは恥ずかしいから言わないでよ、スズキくん」
忘れていたわけではないと弁解しながら、彼の背を見上げた。
「ただ、また身長伸びた? それに驚いて」
「お前は変わらず小さいからな」
スズキタカシはからかうように言う。その言葉に苦笑する。
「これでも背は伸びてるんだよ、五センチくらいは」
嘘だ。少しサバを読んでしまった。
「俺から見たらよく分からないけどな」
すまして言うスズキタカシに軽い苛立ちを覚える。
「タカシ! お前はなんでそうやって――」
「わりぃ、わりぃ。なんか真田が変わってなくて嬉しくて、ついからかった」
代わりに佐藤くんが怒ってくれた。
でも、それ以上に気になったのは、二人が名前で呼び合っていることだった。
付き合いの長さなら俺も同じはずなのに、なぜ佐藤くんは俺のことを「真田」と呼ぶのだろう?
あれ? ずっとそうだっただろうか……?
『ジン、そろそろ帰ろうか。もう暗くなったし』
昔、佐藤くんに呼ばれた記憶が頭の中で再生される。
再会する前も、LINEでたくさんやり取りしていたはずだ。
「真田、どうしたの? 大丈夫?」
佐藤くんの声で我に返った。変わらず優しい笑顔。その後ろでスズキタカシが茶色の目を細めてこちらを見ている。
「ううん、大丈夫。ただ、色々昔を思い出してしまって。懐かしいなって」
「そうだよね。真田に会えて嬉しくて、タカシにも知らせたんだ!」
佐藤くんはスズキタカシに笑顔を向ける。
思い返してみれば、それなりに仲の良いスズキタカシとの再会。だが、不思議と佐藤くんと再会した時のような喜びは湧いてこなかった――。




