新しい世界
高校生になった。中学生と何が変わったのだろうか? 思っていたより大人になったという気がしない。
学校はこの辺りでは有名な私立の高校で、広い敷地に普通部、特進部、芸術部、体育学部と別れており様々な設備も整っているので、そこで高校生活を過ごすというのはかなり快適な学生生活は過ごせている。
男の俺にはあまりピンとこないが制服のデザインが良いというのでも評判なようだ。
紺のブレザーなのだが、袖と襟にラインが入り確かに全体的なラインがいいのかスタイルがよく見える。胸ポケットに挟んでつける校章のデザインが階級章っぽくて格好良くアニメの衣装にもありなところもウケている。
校章は胸ポケットに挟むためのベースのアタッチメントにつけるのだが、そのベースの色と上部にラインで入った色で何学部の何年生かがわかるようになっている。
特進コースは黄色で、普通部は青、芸術は緑、体育学部は赤で、そこに学年によって金銀銅にラインが入る。俺の学年は金色のライン。
真偽は怪しいが、金のラインが入る学年は当たり年とか言われているらしい。
スカートとパンツスタイルも選べることで、女子など両方を買い気分によって着分けて楽しんでいるようだ。三年生には男子でもスカートの制服を選んだ人もいるらしい。
学食も開放的で雰囲気がよく、メニューも多くて安くて美味しい。明るくて広い図書館もある。
そんな感じで校風は自由でおおらか。部活も活発で皆楽しそうに過ごしている。
特進部でも勉強しろ!という空気があまりない。
中学生の時かはあんなに勉強しろ!と煩かった母親も、この高校に来てから一切そんな事言わなくなった。
「高校は楽しい?」「何か困っている事とかない?」
のんびりニコニコとそんな事をきいてくる。
「子供はね遊ぶ事が仕事なの。思いっきり笑って青春を楽しむ! それこそが正しい高校生の過ごし方!」と元気に主張してくる。
呑気な母さんそのもの。
中学よりも高校での勉強の方が大切だろうにと、逆に俺の方が甘すぎる親に対して気になってしまい自主的に真面目に勉強をしている。
通学にも電車を使うようになったことで、通学定期という便利なアイテムも使えて遊びに行ける範囲が広がったことも嬉しいが、それによって視野が広がり目まぐるしく成長したとは思わない。
漫画は好きだし、身長もそんなに変わらず子供のまま。両親は平均身長よりやや高いので、成長期が遅いだけと思いたい。
校内で俺のお気にいりの場所は図書館。
図書委員になったことで、比較的自分の読みたい本の購入希望を出すことができ、またそれを最初に借りて読める権利があるのも役員であることの良いところ。
そのため当番でもない時でも、図書館にいてのんびりしていることが多い。
図書館といってもいわゆる図書的な部分だけでなく映画などを楽しめるブースのある視聴覚エリア、勉強用の学習エリアと別れているから、色々な形で利用できるからいる時間も長くなる。
映画とか家で配信動画で楽しめるのでは? と思うかもしれないけど、そういった配信サービスに入ってこないようなBlu-ray、DVDなどが置いてあるので、ここでの利用が止められない。
映画同好会の人と共同で図書館のサイトで映画紹介コーナーを始めてみたりした。それが結構それが評判で、映画同好会が映画部に昇格する手助けができたことも嬉しい。
友達もいて、やりがいのある図書委員の活動も頑張っていて、成績も特進クラスでも中の上あたりはキープできている。充実した学生生活を過ごせていると思うのに、何かが足りないというか物足りない気がするのは何故だろうか?
中学までよりも明らかに自分のいる環境が良いと思うのに、中学の時にはあったのに今の自分には何か 大切なものが失われている変な気持ちが常にあった。
これはいわゆる思春期特有の感情なのだろうか? 俺はそんな不思議な気持ちを抱えながら高校生活を過ごしていた。
窓の外をみると銀杏が黄色く色づき輝いている。
しかし何でだろう。世界はこんなにも穏やかで平和なのに、そこにいる人は何か青く感じた。




