そしてブルーになる
人生二度目のお葬式に参加した。
一度目は曾祖父のお葬式。
八十超えての大往生だった為、お葬式なのに誰も泣いておらず、思い出話を楽しみ、みんな朗らかに笑っていた。
出棺の時に涙を流す人はいたけど、寂しがっていたけど悲しんでいる人はいなかったと思う。
それはそれでオカシナお葬式だったのかもしれない。
そして二度目のお葬式はヒロシくんの式。それは別の意味でオカシナお葬式だった。
ヒロシくんのお葬式は、ヒロシくんのお父さん側のお爺さんが喪主でヒロシくんの両親とヒロシくん三人を合同で弔う式だった。
加害者と被害者を共に弔うという異常な状況。
お父さんの親戚、会社の人、知り合い、そしてヒロシくんの友達だけでなくマスコミもきていてこともあり異様な雰囲気中で行われた。
ヒロシくんのお母さん関係の人は来づらいのかあまり見えなかった。
ヒロシくんお母さんに刺されていたのは、ヒロシくんのお父さんの恋人だったらしい。
マスコミでも不倫関係の末の悲劇という事で、長い期間浮気で苦しめ続けられた妻の方が被害者という声も大きく、ヒロシくんのお父さんの親戚としてもお母さんを悪く扱えずこのような形になったようだ。
こういう死に方だったこともあり、お父さんとお母さんの死を悲しみ泣いている人は見られなかった。
泣いているのはヒロシくんにお別れをしに来た人だけ。
喪服を着た偉そうな人が何人も挨拶していたが誰も三人が何故亡くなったかは触れず、ヒロシくんのお父さんがどういう仕事をしてどう立派だったかを話し続ける。
【将来有望な、切れ者で皆から愛される若きリーダー】それがそのオジサンたちが言うところのヒロシくんのお父さん。
「本当にいい意味でなくオトノサマな人だったわよね~」
「不倫相手とのデートの手配まで全て秘書室にさせてらしいわよ! 彼女たち愚痴ってたもの」
「まさか経費で?」「それはないと思うけど……そういう無神経な事を平気でしているから、奥さんも大変だったでしょうね。」
「なんか仕事の頼み方も嫌な感じで……私なら金持ちでもあんな旦那様やだわ」
「綺麗な奥さんだったわよね。
それに会社に来られている時お菓子を差し入れて下さったり気遣いの人だったのに」
「奥さんや息子さんは、笑顔で挨拶して優しいい感じだったわよね」
「それに比べて旦那さん、チラッと視線向けるだけで感じ悪かった」
「電話かけながら廊下歩いていたけど、その口調がなんか横柄だったのよ」
「幼稚園でのお遊戯会でもずっとスマホ見ていて息子さんのこと見ようともしてなかったのよ」
弔問客が絶えて受付が暇になったらしい女性や、付き合いで参加したらしい近所の人らからのそんな会話がいやおうなしに耳に入る。
家族でも親戚でもなく、葬儀のメイン扱いにされているお父さんとも面識もない俺のような中学生や先生は葬儀場の一番後ろに座っていたから、そういう声の方がよく聞こえた。
泣きながら花をたむけるクラスメイトの姿を嬉しそうにカメラにおさめコメントを求めるマスコミにもウンザリした。
何のための式典なのか? それすらよく分からない世界で、俺は逆に泣く事も出来なかった。
もう散々泣いた後だと言うこともあるけど、ヒロシくんの残情とは違って、棺桶の中のヒロシくんの遺体は何の色も発しておらず、本当に空っぽという感じでヒロシくんを感じなかった。
お葬式から家に帰り道、ヒカリさんとミキさんが立っていた。
「大丈夫か?」
俺は肩を竦める。
「あのさ、なんて言うかスゴい茶番で、なんか褪めて、泣けなかった」
ヒカリねえさんは苦笑してミキさんは何も言わず俺の頭を撫でる。
「もう涙も枯れ果てたという感じもあるのかな?
哀しみとは違う次元に到達した感じ」
「……そうなのね。どうする?
なんか甘いもんでも食べる? ミキさんが奢ってくれるわよ」
ヒカリ姉さんはそう笑って、ホットチョコレートが美味しいというお店に連れて行ってくれた。
甘い物を口にすると、少しだけ心の痛みがうすれるという事を知った。
ヒロシくんが居なくても、俺の時間は前に進んでいく。
葬儀の後一週間は、呆けていても許して貰えたけど、「来年から受験なのよ」と、母親はそう注意するようになりいやおうなしに日常生活に戻らされた。
教育ママに戻って来てしまった。
でも勉強に集中する事で、気は少し紛れた。
学校に通い友達と他愛ない会話をして、勉強して、本や漫画を読んで、時々ヒカリさんやミキさんに会い会話する。
前と変わらない生活。ただ違うのはそこにヒロシくんが居ないだけ。
俺の世界からヒロシくんがつけていた青色がきえ、代わりに俺自身がブルーになった。




