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キミの世界は青いから……  作者: 白い黒猫
中学校時代
12/31

ここには居ない……

 誰かが後ろに引っ張り抱きしめてくる。


「だめだよ、残情に触ったら」


「今見えた光景って……」


 ヒカリお姉さんは何も言わずに俺をより強く抱きしめた。聞かなくてもなんとなく分かった。

 これはヒロシくんが最後に見たであろう風景。俺の頬にも涙が流れる。

 ヒロシくんが消えてしまう。そう思うと耐えきれず残情を掴もうとするけどお姉さんが強く抱きしめていてそれもできない。


「離して! ヒロシくんが居なくなっちゃう」


「ヒロシくんはもうここには居ないから!」


 ヒカリお姉さんが叫ぶ。


「離して!!」


 俺はお姉さんに負けないくらい大きい声で叫び体を揺らす。

 突然、身体がお姉さんごと弾け飛び浮かぶ。

 お姉さんに抱きしめられたまま、誰かに突き飛ばされたらしい。お姉さんは俺に覆い被さった状態で痛そうに顔を顰めている。


「マズイ……逃げて! 残魂が!」


 それを聞いて、もしかしてヒロシくんがまだいる? そう思いお姉さんの背後を見て俺は恐怖で動けなくなる。

 ヒロシくんの残情の前に、赤くて黒い女の人の姿が見えた。長い髪の毛が禍々しく蛇のようにうねっている。

 異様な感じになっているけど、それがヒロシくんのお母さんであることに気がつく。

 その激しい悲しみと怒りの恨みの感情を迸らせた姿は壮絶だった。


「上にあった二つの残情喰らって強めになってる……」


 上、つまりはお父さんとあの女の人の残情を食べてきたのだろう。

 となるとヒロシくんの残情も食べられてしまう。

 俺はそれを止めたくて、お姉さんを突き飛ばし走ろうとすぐが、お姉さんに足を掴まれて転ぶ。起きあがろうとしたがお姉さんが俺の上に乗り動けないように抱きしめてくる。


「ヒロシくんが食べられてしまう!」


「あれはヒロシくんではないから!」


 オバサンの残魂はゆっくりとヒロシくんの残情の方に振り返る。その手がヒロシくんの残情に伸ばされる。


「オバサン、やめて!!」


 俺は叫ぶ。

 瞬間白いロープのようなものがオバサンの身体に巻き付いた。それが痛いのかオバサンは叫び声をあげ転がる。

 オバサンの体に巻き付いた紐はそばに立つ男性の手につながっていた。顔をあげるとミキさんだった。

 ミキさんはこちらを見ることなく、オバサンの方をまっすぐ見つめ、紐を持ってないほうの手を翳し、何か言葉を紡ぐ。その瞬間オバサンの姿は光って消えた。

 俺は立ち上がりミキさんに近づく。


「倒したの?」


「おくっただけだ。お前らは何している?」


 ヒロシくんのお母さんが消滅した訳ではないことにい少しホッとしたけど、怖い顔で見下ろすミキさんにビビる。


「ヒロシくんが……」


「ヒカリ。地面に座ってないで仕事しろ!」


 ミキさんは、どこか傷が痛むように顔を顰め、視線を青い大きなヒロシくんの残情に視線を向ける。

 残情をジッと見つめたままミキさんがそんなことを言う。振り向くとヒカリ姉さんは地面にしゃがみ込んだまま震えて泣いていた。お姉さんも同じ気持ちなんだ。ヒロシくんの想いを消したくない。

 ヒロシくんの残情があれば、まだいつでも会える。

 ヒカリお姉さんは涙を拭いて立ち上がる。そして真っ直ぐ青い残情の方に行く。


「お姉さん、これを俺の家に連れていくの手伝って……」


 お姉さんは震えながら青い残情に手を伸ばす。

 何をしようとしているのか分かりおれは止めようと近づくけど、伸びてきたミキさんの腕に囚われて動けなくなる。


「お姉さんやめて!」


 叫ぶけどお姉さんは俺の方を見ることもしない。

 俺の目の前で青い残情は白く輝き消えていった。


「ヒロシィィィィイイィィィィイ! いやだ! なんで!」


 俺は叫びながらミキさんの腕の中で暴れるがびくともしない。

 ミキさんは暴れる俺など全く問題ないように、俺を担いだままマンションから歩き出す。

 お姉さんは俺を心配そうに見ているが助ける事はしてくれず、横でついて来るようについてくるだけだった。





 俺は暴れ叫び続けたことで気力も体力も尽き呆然としていた。


「悪い宮部。面倒かけて」


「構わないよ、その代わり暫く除霊は無料で手伝ってくれ。

 今日は此処は使う予定もないから自由にしてくれていい。

 俺は母屋のほうにいるから……隣の炊事場にある冷蔵庫の中にペットボトルのお茶入っている……」


 ミキさんと誰か男性が話す声がする。そしてその誰かが遠ざかっていく音。

 気がつくと板張りの道場のような部屋に座っている。


「大丈夫です。今ジンくん私と一緒にいますから……。

 そうですね、かなりショック受けているので、今日はお休みさせた方が良いと思います。

 落ち着いたらお家まで送り届けますので……」


 ヒカリお姉さんの声が聞こえる。どうやら母親に連絡してくれているようだ。


 でもその事に感謝の気持ちが沸く前に、俺の心は怒りを思い出す。


「なんでヒロシくんを消したの!」


 突然自分に向かって怒鳴った俺に驚いたように目を瞠る。


「あれは、ヒロシくんではないよ……」「ヒロシくんが見えた!」


 正確にはヒロシくんが見ていたであろう光景。ミキさんが大きく息を吐く。


「あれは、出来立てのホヤホヤだったから、生々しい記憶も残っていた。

 ですぐにそういったものは霧散していき、あとは強い哀しみを帯びた絶望の感情だけになる」


「でも! それもヒロシくんだ!」


 ミキさんはしゃがみ俺に顔を近づける。


「ヒロシは、あんな感情を晒して、人に悪い影響を及ぼすものをあそこに放置することを望むのか?」


 そう言われると何も言い返せない。


「それに、ヒロシ自身はもう死者の国に無事旅立った。あんな悲しい感情から切り離されて」


 俺を慰めるようにミキさんは頭を撫でる。


「…………ミキさんは、強いし特別な力を持っているんだよね?」


 ミキさんは俺の言葉に不審げに眉を寄せる。


「なら、なぜヒロシくんを守ってくれなかったの? あんな風に死ぬ前にオバサン止めてくれなかったの?!」


 俺の言葉にミキさんは顔を顰める。


「…………それは俺の仕事ではない。俺は死者が残したものが生者に害を及ばなさないようにするのが俺の仕事だ」


 勝手にも思える言葉にムカつく。力があるのにそれを使わずに悲劇が起こるのをスルーするなんて傲慢だ。


「だからヒロシくんを守らなかったってこと? そんなのおかしいよ」


 ヒカリ姉さんは泣きながら首を横に振る。


「あのな、俺の力って言っても映画に出てくる超能力ヒーローのように万能ではない。


 もし目の前でヒロシやお前が危険な目にあっていたなら、そりぁ身体はって助けようとしたさ。お前らだけでなく誰であっても。

 しかし俺が対処できるのは今目の前で起きていることだけだ。ましてや未来予測なんて出来ない。

 あんな事が起きるなんて誰が予想できた?」

 誰も予想は出来なかっただろう。ヒロシくんのお母さんが悲しみと怒りを抱えていた事は分かっていたけど、あんな事するなんて思わない。

 だから俺は昨日の続きで変わらない今日が来て、ヒロシくんが勧めてくれて読んだ本の話しで盛り上がるつもりだった。


「ヒロシくんは、もう辛くないの?」


 ミキさんはゆっくり頷いてくれた。それで納得するしかない。

 俺は気持ちを鎮めるために大きく深呼吸をした。

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