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イロガミノイロハ  作者: 伽耶
一章:Embrace the dark

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第11話:それぞれの明星

視界に色が戻り、荒れた呼吸を必死で整える。

反撃に備えて防御態勢を取りたいが、身体が言うことを聞かない。


耳鳴りがして、視野が狭くなっているのもわかる。

遠くで何かが落ちる音がした気がしたが、振り返ることすら困難だった。


ぼんやりした意識の中で、いつの間にか猫さんの腕の中にいた。

おひさまの匂いに包まれ、抗えない眠気が押し寄せる。

閉じたように冷たく固まった指先を、あたたかい両手がゆっくりと解いていく。


「よくやったな」


ぶっきらぼうな言葉に、思わず笑ってしまった。

ゆっくりと、夜の帳が閉じていくのがわかった。


―――――――――――――――――――――


夜が、戻っていく。

太陽が沈んだ空にひときわ明るい星が瞬いている。

この空間を覆っていた張りつめた圧が、潮が引くみたいに消えていった。

胸を押さえつけていた感覚が薄れ、耳を塞いでいた沈黙がほどける。

遅れて、風が通り抜ける音が聞こえてきた。


――終わった。


そう理解するのに、少し時間がかかった。

私はその場に立ち尽くしたまま、自分の指先が冷たく、震えていることに気づく。


さっきまで、動けなかった。


怖くて、息の仕方すら思い出せなかった。

視線の先で、いろはが倒れている。


猫さんと呼ばれた存在の腕に抱えられ、力なく項垂れた姿。

強くなっていく過程を知っている私でも、久しぶりに見る光景だった。


胸が上下しているのを確認して、ようやく息を吸う。


――生きてる。


それだけで、膝から力が抜けた。


私は、逃がされた側だった。

守られた側だった。


白炎の鹿と対峙することすらできず、

ただ“認識されない位置”に置かれていただけ。


完全なる、蚊帳の外。


「……っ」


悔しさなのか、恐怖なのか。

自分でもわからない感情が、喉の奥に詰まる。


いろはが前に出たとき、

手を伸ばすことさえ遅れた、臆病な自分。


止められなかった自分。

追いかけることも、並ぶこともできなかった自分。


――剣を、握っていたはずなのに。


ぎゅっと木刀を握りしめる。

震えは、止まるどころか強くなっていた。


―――――――――――――――――――――


ズキズキとした頭痛で飛び起きる。

酸欠のときみたいに、頭の奥に響く痛み。

何度経験しても、慣れるものじゃない。


西の空には宵の明星が顔を出している。

意識を失っていたのは、ほんの数分だったはずだ。


猫さんは夜空を仰ぎ、俺を待っているようだった。

尻尾が、ゆっくり左右に揺れている。


「起きたか……もう少し寝ていても、罰は当たらんぞ」


視線だけをこちらに向ける。

横顔は、無表情に見えた。


「俺も寝ていたいけどさ。できれば、あったかい布団がいい」


軽口を叩いて、問題ないことをアピールする。

正直、歩ける状態じゃない。

それでも、きららに何も言わず出てきている以上、早く帰りたかった。


「いろいろ聞きたいことがあるだろうが……

 アレの対応を、頼む」


心底嫌そうに視線を向け、すばやく俺の影に隠れる。


「いーろーはー!!」


半べそ状態の茜が、こちらへ走ってくるのが見えた。

これから繰り広げられる問答を想像して、俺も辟易した顔になる。


「どっか痛いところは!? 怪我ない!? 大丈夫!?あー! 髪、白くなってるよ!!さっきの何!? あの猫耳イケメン誰!? 知り合い!?」


「……とりあえず今、頭が痛いから静かにしてくれ」


茜に怪我がないことは確認できた。

髪が白い?

……白炎に当たったのか。鏡がないのが悔しい。


「個別で説明するの面倒だからさ。まとめて説明してもらえる? 猫さん」


「……ああ、わかった」


尻尾が、パタパタと風をきって左右に揺れ始めた。

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