第7話 電話したい
YukiyamaのInstagramを閲覧していると、『ストーリー』を投稿していた。これは24時間で消える仕組みなので、気軽に投稿できる仕組みだ。連日その内容は個人用LINEのスクショで、友人との通話履歴だった。
『通話たのかったありがとー!! また話そっ』
そんなコメントと共に、平均して1時間程度の通話をしているストーリーばかり投稿されていた。誰に向けたものなのか分からなかった。人気者はこんなことをするのかと仁は困惑した。
そして何度もそういうストーリーを観ている内に、彼は欲が出てきてしまった。
『由貴さん僕とも電話しませんかー?』
DMで送った。Lineでなくとも通話はできるし、話せるならなんでもいい。
それにこれは、共にチャンネルを盛り上げた仲として、分不相応な欲じゃないだろうと、彼は思った。
『いいよーてか声聞くん初めてじゃんね』
二つ返事でOKをしてくれた。もはや何を言っても「Yes」を引き出せるところまで来た。
告白すれば付き合えるのではないかとさえ思った。会った事がなくとも恋人関係になるのは、イマドキ珍しくはないだろう。
電話をする約束の日を決め、数日経って当日を迎えた。着信の音が鳴り、画面にはYukiyamaのトプ画と名前が出ていた。
電話にドキドキするのは相手がYukiyamaだからか。あるいは引きこもりだからか。
それは仁には分からなかったが、彼は意を決して通話を開始した。
「はいですくわー仁くん! 由貴だよ!」
これは、滑舌が悪いプリッツの挨拶をネタにした彼女のお決まりの挨拶だ。つまり聞き慣れた挨拶だった。
「あ、あぁ、あー仁です」
吃った。
最近は歌を歌ったり漫画のセリフを朗読するなりして、声の出し方を取り戻したつもりでいた。だが会話をしようとすると、上手くいかないものらしい。
「声思ってたより低い!」
「あ……はぁ……ああありがとうございますはい」
頭は真っ白だ。
シミュレーションでは確かに明るく饒舌に話し込んでいたのに、言葉が宙を舞ってしまった。
「敬語禁止だよーあとコメントみたいに明るくね!」
「あ……あぁ……」
それからの記憶はない。30分は話してたのに、仁は基本的に受け身で黙りになってしまっていた。
断片的に「あんま楽しくない?」とか「今塾終わってもうすぐ家着く感じかなぁ」とか「こちらこそ!」とか、会話らしきことをして記憶はあるが、何の話しをしていたのか、仁は何も思い出せなかった。
「こちらこそってなんだ? もしかして告ってOKが……そりゃねぇか」
どっと疲れたが、不思議と達成感が仁にはあった。こうして女子との通話童貞を捨た満足感で、その日はぐっすり眠れた。