第4話 南の島
Yukiyamaに誘われて、彼女と一緒にほのぼのゲームの実況を始めた仁。
そのゲームのオンラインは、南の島にプレイヤーが集まってミニゲームをするという内容だった。
撮影の最中、イヤホンを通してYukiyamaの声が聞こえてくる。
「南の島に来たわけですが、野良が現れません。まぁ人気ゲームなんで集まるとは……思うんですが……」
見せ場も何もなくトークに勢いは乗らない。TPSではないので山場を迎えることはない。快活に話す必要はないが、無言ではお蔵入りしてしまう。焦れた仁は、チャットでフリートークを始めた。
『お蔵入りしたらまたTPSで下ネタやって数字稼ぎますか笑笑まぁYukiyamaさん面白いから今作も人気出ますよ(´•ω•`)』
それに対し、彼女が声で答えた。
「言ってることめっちゃ嬉しいのに顔ウザすぎるんだが! あと下ネタは親の評判わるいんよねー……考えたくない。脳死でこのまま二人で南国BGM聴きながら話すのもアリ」
仁はYukiyamaの言葉の意味がわからずタッピングする指が止まった。オンラインで繋がる二人の間に、奇妙な間が流れた。これはもしや、動画のことは忘れて二人で過ごしたいという意味なのだろうか。
彼が困惑していると、Yukiyamaが口を開いた。
「普通に楽しんでるの私だけ?」
その言葉を聞き彼は、自分も楽しんでいることを伝えようとした。その瞬間彼は気づいた。
彼女とゲームをして過ごす時間が、ここ数日の生活の中心となっている。会ったこともなければ、顔も名前も、素性を何一つとして知らない彼女との時間が、憂鬱な日々を一変させてしまったのだ。
彼は楽しい以上の不思議な高揚感を覚えた。
それが何かと気づくのに、時間はかからなかった。
二人きりかつお蔵入りほぼ確定の今、彼は自身の欲望に従い、彼女にプライベートな質問をしようとした。その時だった。
「お! 野良さんいらっしゃ〜い」
待ちに待った野良が、空気を読めない登場をした。そして彼らは三人でミニゲームを楽しむも、仁はもどかしさから不完全燃焼のまま、その日の収録が終わってしまった。
撮れ高が少なかったにも関わらず、収録時間は押してしまっていた。Yukiyamaは収録が終わると足早に去っていった。
一人になり、仁は穏やかな夜のBGMを聴きながら考え込んだ。いつの間にか、一介のYouTuberにガチ恋をしている自分。彼は一ファンでは居られなくなり、次の収録の際に一歩踏み込んだ質問をしようと誓った。