第1話 ある日の出会い
深夜二時、草木も眠る丑三つ時。仁は自室に篭もり毛布を被って蹲りながら、スマホを眺めていた。
彼は四年もこうやって過ごしてきた。色々あって学校へ行かなくなって、今年で中学2年にもなった。〈ひきこもり〉なんてみっともない状態である自分を否定し、常に不安に駆られながら日々を過ごしているのだ。
「この状態から抜け出したい……でも家から出る勇気はない」
そんな中、彼はYouTubeでとある曲を聴いた。それはボカロ曲を人間が歌うという、いわゆる〈歌ってみた〉動画だ。
曲は失恋ソングだった。歌の中の二人は、夜が明けて目が覚めれば、恋人ではなくなるらしい。仁に、痴情の縺れの経験はない。だが涙を流し辛い思いを露わにするその曲に感化され、仁も泣いた。
泣いた目にブルーライトが沁みながらも、彼はその動画を繰り返し視聴することをやめられなかった。理由などどうでもいいから、とにかく泣きたい気分が続いていたのだ。
画面の中から聴こえてくる歌声は可愛らしくて、歌声を聴いている間は、何も考えずにいられた。そうして浸っているこの時間は、仁のルーティーンになっていった。
そんな夜を何度も送っていると、彼はこう思うようになってきた。
「投稿主って、どんな人なのかな……声しか分からないけど、顔も可愛いんだろうな」
それから、彼は悶々(もんもん)としだした。
そして勇気を出して、コメントをしてみた。
『いつも聴かせてもらっています。この歌を聴いていると癒されます。いいね一つじゃ足りない気がして、二回押しちゃいました』
投稿した後、我に返って恥ずかしくなった。このコメントを読んで欲しい気持ちと、読んで欲しくない気持ちで気持ちが悪くなってきた。
しばらくして恥ずかしさのあまり、「消そ、コメント」と独り言を呟きながらスマートフォンを手に取った。すると、通知が入った。
『コメントありがとうございます! 癒されるなんて嬉しいです……この歌めっちゃ好きだったけどあんまり褒められたことなかったので、本当にありがとうございます! イイネ一つじゃ足りないって……』
通知の字数制限で、肝心なところが表示されていない。彼は嬉しさや驚き、そして答えを知りたい気持ちで、慌ててチャンネルを開いた。
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