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8.さぼりの限界

「ステラさん! 貴女はいつ登校する気なんですの!」

「えぁ、いやぁ~……」


 そんなわけで説教中である。この三日間休み続ける私のこの部屋に訪ねてきたのだから当たり前と言えば当たり前だ。というか、ここまで構ってくる理由がいまだ謎である。


「慣れない環境なのは大変でしょうけど、このままじゃ本当に退学になってもおかしくないんですのよ!」

「それはわかってますけど……でも、こう部屋から出るのが辛いというか……」

「そうですわね。知人もいないでしょうし初めは緊張もするでしょうけど、私も出来る限りはサポートしますから」


 微妙に良い方向に勘違いをしてくれている。単純に登校するのが面倒とは口が裂けても言えない。


「少なくとも明日ある魔法実習には参加して頂かないと……」

「魔法実習?」


 その言葉には見覚えがある。そう、確か漫画の一巻の最後の方でステラの見せ場だったシーンだ。


「ええ。既に知っているとは思うけど、この学園では2年になってから本格的に魔法の使い方を学習しますから。だから魔法実習は最初の授業を受けないと次からついていくのが難しくなりますわよ。そもそも貴女は1年の授業を受けていないからなおさら受けてくださらないと……」


 この世界。血統かどうか詳細は不明だが貴族は一般人と比較すると魔力が高く、それゆえに慎重に扱い方を覚えないと大きな事故に繋がる。リーティア様の言う通り、学園では1年目は座学を中心に、魔力の放出の仕方や溜め方など基礎を学ぶ。

 そして、2年目からは漸く本格的に魔法の使い方を学び、それぞれ適性にあった魔法に慣れていくのだ。


「リーティア様は氷の適性でしたよね?」


 ステラの光魔法に対してリーティアは氷魔法である。氷は水から派生するタイプの魔法で、適性を持っていることが優秀の証でもある。火は炎、風は嵐などどういう判断基準かわからない派生の魔法もあるが、とにかく彼女は漫画では優秀さをめっちゃアピールしていたはずである。


「え? ええ……その通りですわ。別に隠しているわけではないですけどよく知っていましたわね」

「え、そうなんですか?」

「え?」

「あ、いや、氷魔法が使えるからてっきり自慢しているのかと……」

「そんなことしませんわ。自慢したところで扱えないと意味がありませんもの」


 だというのに彼女の口ぶりから自慢していたわけではないらしい。また漫画との違いが出てきた。

 気にはなったがしかし、今はそれを気にしている場合ではない。何故ならその魔法実習である事故が起こるからだ。


「その授業に参加するかどうかは別としてなんですけど」

「別にされてはまずいのですけれど」

「と、とにかく、その授業中ある事故が起きるかもしれないんです。魔力の暴走とかで」

「……貴女、それが怖いから休むとかそういうつもりではないですわよね……?」


 瞳が鋭くなると漫画版リーティア様にそっくりだ。いや、本物なんだけども。

 とにかく怒りゲージが上がっていく彼女に私は慌てて首を横に振って弁明する。


「いやいやいや、怖いとかじゃなくて本当に起こるんですって! 確か火の魔法が暴走して」

「確か……?」


 そう、漫画ではこの生徒が魔法を使おうとした際に魔力を溜めすぎて暴走が起こり、数多の怪我人が出ることになる。それは火の魔法だったはずだ。

 そこで主人公である私、ステラの魔法が半分覚醒する。その時点までステラの持つ光魔法の力は明確にわかっていなかったのだが、怪我をした人を助けたいという強い気持ちに応えるように「癒しの光」という魔法を無意識に発動するのだ。


 そこで今まで平民だ村娘だとバカにされていたステラの評価は一変し、さらに参加していた王子からも関心を寄せられるようになるところで、1巻が終わる。

 ご都合主義だって? 私もそう思うけど、物語っていうのは大体そういうものなんだろう。


 それで、だ。今はその事故を何とか防ぎたかった。

 今の私だと光魔法を覚醒させ癒しの力を発動できるか怪しすぎるのだ。物語のステラは以前にも言っていた通り聖人君子な性格であるからこそ、救いたいという思いから覚醒できたのだ。今の私ではまじで自信がない。

 それと、治るとは言っても一度怪我をしてしまうのに変わりはない。そうなる前に助けるなら今のところリーティア様に頼るしかなかった。悲しいことに交流があるのは彼女だけだし。


「まるで見てきたかのように言うけれど……」

「いや、起こらないかもしれないんですけど、そのリーティア様にはもしもって時のことを考えて欲しいなぁって。初めての魔法だったらあり得ない話ではないですし」

「まあ、周りには気を配るようにはしますけど……そもそも話の内容が変わっていますわ。今は貴女の登校についての話ですわよね……?」

「うっ、ま、まぁ気が向いたら……行けたら、行きます」

「それは来るつもりのない者が言う言葉ではなくて?」

「ぐっ」


 やばい、目が据わってきている。もうこれ以上はまじで限界か……!

 そう思っていたら彼女はため息をついて私を見つめる。


「とにかく、これ以上休むのは本当にまずいですから、せめて見学だけでも明日は参加してくださいまし。わかりましたか?」

「うぅ……はい……」

「なんでそんな悲しそうな……私、間違っておりませんよね?」


 間違ってないです。だけど時には正論が傷をつけることもあるんだということを知って欲しい。

 そんなわけで次の日。魔法実習の時間、遂に私は部屋を出て実習用の広いグラウンドにやってきていた。


「うぅ、ステラさん……漸く来てくれて先生は……うぅぅ」


 ただし、実習の場から離れた隅っこである。しかも担任のウェール先生を伴って。つまるところ見学であった。


(はぁ、太陽が眩しい……辛い……)


 本当は今日も休みたかった。しかし、それが限界なこと、さらにリーティア様の昨日の様子から過激な突撃をされるのが怖かった。

 というわけで、生徒が朝食を終えて登校してから寮の管理人のところに行って連絡を頼んだわけである。


 基本的にリーティア様を除いて人付き合いのない私だが、寮の管理人さんに関してはここに来た時に話していた。気さくな人で私の「魔法実習を見学したい」という連絡をウェール先生に届けてもらったわけだ。

 先生は驚くほどすぐに飛んできた。授業はなかったのか心配になったがよっぽど嬉しがっているところを見るとまじで出席状況が危なかったのだと再認識した。


 そんなわけで私は魔法実習を遠くから見学しているわけなのである。


(さて、どうなるか……)


 何組か合同でやっているようで生徒の数は多い。事故が起こらないならそれに越したことはないが、何となく起きるような気がしていた。

 私の視線の先には生徒の中に混じり、リーティアが姿勢正しく立っていた。

いつも読んで頂きありがとうございます!

次回はリーティア視点になる予定です!どうぞよろしくお願いいたします!

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