7.はじめましての悪役令嬢……?
「ちょっとステラさん! いらっしゃるんでしょう!?」
将来的に悪役令嬢になるかもしれないリーティアをやり過ごすことに成功したその次の日、私は彼女の突撃を受けていた。
「な、なんでこんなことに……」
部屋の中でガタガタ震える私をよそに彼女の声が部屋に響き続けていた。どういうことか昨日のあれで諦めたわけではなかったらしい。
「先生からも貴女のことを頼まれましたし、このまま退学になってもよろしいの!?」
おかしい。私の知っている物語の彼女は嫉妬深い性格でこんなお節介なことはしてくるようには思えない。だとすればあれか、評価を上げるために仕方なく来ている感じだろうか。それなら納得することができる。
「とにかく一度お話だけでもしてくださらないかしら! 何か悩みがあるなら出来る限り協力もしますし!」
いや、どうだ? いくら評価を上げるためだとしてもここまで詰め寄ってくるだろうか。彼女がいるということは学校が終わった時間であり、周りにも目があるはずだ。下手にそういうことを口にしたら後々迂闊に変なことができなくなる。
「……また明日も参ります。急に訪ねてしまいごめんなさい」
謝りおった! 漫画ではごめんのごの字も言ったことがないぐらいなのに! というか明日も来るってことはまさか毎日来るつもりだろうか。公爵令嬢リーティアに間違いはないはずだ。そんな相手を毎日来させてるなんて色々とまずいのはわかる。私は慌ててベッドから飛びあがると扉を開けた。
「……あ、え、えーと、その~、ご、ごきげんよー?」
考えなしに開けてしまったものだから出てきた言葉は何というかそれはひどいもので、そしてまさか出てくるとは思ってなかったのかリーティア嬢はキョトンと瞳を丸くしていた。と思ったらスゥッとその瞳が冷たい笑みに変化していった。
「あら、ごきげんようステラさん。どうやら元気そうですわね」
これは釣られたというやつ? それとも対応を間違えたやつ?
「とにかく扉を開けてくれたということはお話ぐらいはしてくれるということかしら?」
そして冷たい笑みからものすごい怒りが伝わってくる。いや、何かした覚えはないんだけど何でこんな怒っているんだろう。もしかしたら彼女も何か記憶を持っている可能性があるかもしれない。
「ど、どうぞ」
「ありがとう」
だけど今は彼女に逆らうとどうなるかわからないので、とにかく部屋に上げることしかできなかった。
そんなわけで、私は初めて漫画の悪役令嬢レイファール家公爵令嬢リーティアと向かい合うことになるのであった。
「それで、一体どうして学園をお休みしていらっしゃるのかしら? クラスメイトも先生も心配しているというのに」
「……は、はぁ、それは申し訳なく」
「いえ、責めているわけではなくて何か原因があるのかと思いまして。貴女は今まで王都から離れた村に住んでいたと聞いていますし、環境の変化は簡単に受け入れられるものではないでしょうから」
「え、ええ、まぁ……」
しかし、こうして面と向かって話しているとやはり漫画の彼女とは受ける雰囲気が全然違う。確かに鋭い瞳は時々見えるけど静かな落ち着いた雰囲気で、纏う雰囲気は一流の令嬢のそれである。(あくまでもイメージだが)
「先程からどうしましたの……? ああ、私のことは知っているかとは思いますが学園の生徒は皆平等なので、かしこまる必要はありませんから」
まただ。漫画の彼女は絵に描いたような貴族至上主義であった。それだというのに自分から平等なんて口にしたのだ。
「ステラさん?」
そもそも彼女は初対面で私のことは「平民の娘」とか呼んでいたはずである。やっぱりこれは『知っている』のでは……
「えっと、リーティア……様?」
「別に様はつけなくてかまいませんわ。別に呼び方を強制するつもりもありませんけど」
「じゃ、じゃあとりあえずリーティア様で……それで、変なことを聞くんですけど未来の記憶があったりします?」
というわけで思ったことをぶつけてみた。私はこういうのはとりあえず聞いておくタイプである。ちなみに漫画の主人公のステラは努力家だけどそういう自分の気持ちには奥手である。見事に真逆かもしれない。
さて、それでリーティア様の反応だが、意味がわからないという感じで訝しげな目線になっていた。
「ごめんなさい。ちょっと言っている意味がわからないのだけど……」
動揺も何もない、本当に何を言っているのかわからないという表情だ。もしかしたらうまく隠している可能性もあるが、今は深く聞けそうにもない。私の記憶のこととか逆に疑われたら大変なことになるのはわかっているからだ。
「あ、いえ、忘れてください。ちょっと寝ぼけてて」
「そ、そう……? それで、学園には来れそうなのかしら。このまま休み続けると進級どころか、退学処分になる可能性もあるみたいだし……」
「そ、そうですね。そろそろ落ち着いてきたので登校するつもりではあったのですが」
「あら、そうでしたの! それならよかったですわ。せっかく光魔法に目覚めてこの学園に入学したのだから、色々なことを学んで欲しいですし、この機会を逃すのはもったいないですわよ」
「は、はぁ、ありがとうございます」
私の発言で、リーティア様は大変ご満足されたようでニコニコ笑顔である。初めて見たが私より身長も高く大人びた雰囲気の彼女だが、そうすると子供らしさがまだあるのがはっきりわかった。
「夕食前にごめんなさい。でも貴女と教室で会えるのを楽しみにしていますわ」
そう言って彼女は立ち上がると部屋から出て行った。最後の最後まで誰なのか疑問に思うほど別人であった。もしかしてステラがこんな状態だからあのような感じになっているのだろうか。ライバルに足る相手ではないと認識されたから冷静に落ち着いていられるのかもしれない。
私はベッドに横になる。
(ということは……やはり目立ってはいけない。しかし、そろそろ登校しないわけにもいかなくなってきたしなぁ)
そうやって考え込んでいるとすぐに睡魔が襲ってくる。考えていると眠くなるのはしょうがない。もうすぐ夕食だけどなんかドッと疲れたしちょっと小休止しよう……
そうして三日が経った。私はいまだにこの部屋でスヤスヤであった……
「ちょっと! ステラさん!?」
うん。そもそも自分が超がつくほどの怠惰魔であったことを忘れていた。
いつも読んで頂き、また感想や評価なども毎回ありがとうございます!
今回で説明回から初対面まで終わり、次から少しずつ物語が動き始めますので、楽しんで頂ければ嬉しいです!
今後もよろしくお願いします!