6.悪役令嬢がやってきた
しばらくステラ視点が続いて、その後リーティア視点になる予定ですが、基本的にステラ主観で進みます。
そんなわけで私はとにかく存在感を消すことにした。
体調不良を原因に始業式もとい編入日を欠席……というかさぼることには成功した。もちろん、体調は至って万全だし、部屋に運んできてもらった食事もしっかり美味しく頂いている。
日本にいた頃の記憶を思い出した私だが、この世界で産まれた頃からの記憶もしっかり残っている。つまり前世を思い出したと判断してよいだろう。性格に関しては思い出してから若干その記憶に引っ張られている気はするが概ね変わっていないはずだ。
しかしこんなことになるなら先輩に頼み込んでゲームもやらしてもらうべきだったかと思う。だけどまさか記憶を思い出すなんて想像できるわけがない。漫画でも主人公が日本の記憶を思い出した! なんて描写は当然なかったし、ゲームをやり込んだと言っていた先輩もそういう設定があるなんて言っていなかった。
「ご飯が美味しいのはありがたいし、部屋は綺麗でまとも……娯楽関連はないけど別にこのまま適当に時間を過ごせばいいかー」
私だってバカじゃない。今やっていること(サボリ)に限界があることはわかっている。今のところ光魔法のおかげで目をつぶってもらっている部分はあれど、流石にずっと休むことは無理だし、もしも退学になったら家族に支払われたお金について返還を求められるかもしれない。
だから、いけるところまではさぼってダメな部分を周囲に認知させたいというところが本命だ。漫画での主人公は確か努力家で優しくて包容力があって、努力を怠らない人間だった。
「いやいや、ありえないよね」
いくら創作上の人物だとしても主人公設定盛り盛りである。少なくとも私には無理なのは確実。まあ、だからこそどうしようもない奴と周りに認識されるのは願ったり叶ったりだ。
結局この行為の行き着くところはこの学園、ひいては国を荒らさないことだ。
漫画で描かれた王太子ルートというのは、私の存在のせいでリーティアが暴走してしまい事件が起こったり、最終的に隣国との衝突とか滅茶苦茶な被害も出ていた気がする。主人公の存在だけが起因ではないとは思うが、一因なのは確かだしそこら辺の事件を出来れば起こしたくない。本音は当事者になりたくないというところだが。
「まあ、私がこんなことをしているせいで別の何かが起きるかもしれないけど……」
それはそれ、これはこれである。
さて、今日でさぼり始めてから大体二週間ぐらい経った。時刻は夕方、今日は晴れていたから綺麗な夕陽が見れるかもしれないがカーテンの閉めた部屋からは見えない。
「でも先生にはなんか申し訳ないなぁ」
休み始めてからしばらくして部屋を訪れてきたウェール先生。漫画でも彼女は朗らかで優しい先生だったが、現実でもそのままでちょっと感動した。
ただ、体調不良と環境の変化のせいで出られないことを伝えるとめっちゃ悲しい顔をしていた。本当に申し訳ない。
「そろそろ潮時だよなぁ……」
今日は一日中ゴロゴロとしながら過ごしていた。朝食と昼食が運ばれてきた時だけ起きて食べたけど、そこだけ見ると最悪である。しかし、ベッドから起き上がれる気がしないのでもう少し微睡んでおく。たぶんもうちょっとしたら夕食が来るはずだしそれを目覚ましに起きればいい。
そう思って目を閉じた。村の家と比べると流石貴族様の学園のベッド。寝心地は最高でいつまでも寝ていられる。
それからすぐに目を閉じてすやすやな私だったが、部屋に響いた控えめなノックの音でほんの少しだけ意識が現実に戻ってきた。
「ステラさ……? わた……、同じク……のリ……申しま……。いら……ゃいま……?」
「……んぁ?」
声が小さいのとまだ意識が覚醒してないので殆ど聞き取れない。反応するべきかどうか眠い頭で考えていたら今度はノックの音が強くなった。
「あの! 部屋にいらっしゃるんでしょう? 少しだけお話しできませんか? 皆さん心配していらっしゃるし……」
今度はしっかり聞こえた。先生の声ではないから内容的にクラスの生徒だろうか。いるのはバレているみたいだし、流石に反応しないわけにもいかなさそうだ。
ヨロヨロとベッドから立ち上がってポヤポヤの頭で扉を開く。そういえばもう夕食なのか、何もしていないけどしっかりお腹が空いている。
「うーん、だれぇ……? もう夕食ぅ……」
そして開けた扉の先にはこの世界ではまだ会ったことはないけれど、なぜかものすごい既視感に襲われる少女が立っていた。
「え、なっ、あなたが……ステラさん?」
鮮やかな金髪と力強い瞳。学園の制服だけど纏っているオーラは一級品。そしてこの無駄に整った容姿は紙を通して何度も見てきた。
「げっ、本物……?」
「……はい?」
そこには今一番会いたくない相手、リーティアが立っていた。
「え、ちょ、ちょっと!? ステラさん!?」
……なので私は扉を閉めた。いや、言い訳になるけど頭が働かなくてそうすることしかできなかった。
すごい勢いで扉がノックされる。明らかに対応を間違えたことに気が付いたが今更開ける勇気もない。
「えー、私はまだ寝ていますので、また次の機会……まあ、うーん、いや、よくわかんないや。私のことはお気になさらず~……」
そして自分でもよくわからない返事をしてフラフラとベッドに倒れこんだ。なんてことだ、まさかご本人がわざわざ来るなんて想像もしていなかった。目立たないようにしていれば関わってくることはないと思っていたのに。
しばらくして気が付いたら扉の前は静かになっていた。呆れて帰ってくれたのだろうか。出来ればそういうしょうがない奴だと認識して今後放置してくれると嬉しいのだが。
しかし、そんな私の思惑は無残にも打ち破られることになる。
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