54.王女様の狙い
ラティエナ第三王女は胸を張っていた。
「あら、どうしてそんな驚いた顔をしているのかしら。とっくに察しているかと思っていましたけど」
「いや、留学だって聞いてたもので……」
「そんなもの表向きに決まっているじゃない。まあ、庶民の貴女にそのあたりを察するのは難しいでしょうけど」
フフンと不敵な笑みを浮かべるがそ本当にそうなのだろうか。もしかしたら本当にそういう動きがあるのかもしれないが、いくらなんでもめちゃくちゃに聞こえる。
が、否定も出来ないし変に拗らせたくないので適当に愛想笑いで済ませておいた。私は大人である。
「恐らく今のところ最有力候補は公爵令嬢であるリーティアって子でしょう? 貴女彼女とは仲がいいの?」
「……いや、普通じゃないですかね」
ただ、急に彼女の名前が出てきてちょっとビックリしてしまった。咄嗟に誤魔化せたのはちょっと褒めて欲しい。まあ、仲が良いかと言われれば、はいそうですとも言えないだろうし嘘じゃないだろう。
「そうなの? 貴女ってつくづく使えないのね。何か弱味でもあったら聞きたかったんだけど」
「…………」
知っていたとしても教えないとは思う。結局それから茶会はあっさりと解散して私はその場から追い出されるように寮に戻されていた。
「……なにあれ」
怒りとかじゃなくて驚きという気持ちが一番強かった。あんなコテコテに悪意を振りまくようなキャラクターは昨今で珍しいぐらいだった。
「ステラ様」
「ひゃい!?」
そんな呆然としていた私の後ろから突然気配もなく声がかかって文字通り飛び上がった。
「す、すす、スーラさん?」
「おや、驚かせてしまいましたか? 大変失礼いたしました」
「あ、いや、こっちがぼーっとしてたから、全然大丈夫です。ところでどうしてここに?」
「少し席を外したらあの王女様に呼ばれたと聞いて心配していたのです。何もありませんでしたか?」
「問題はなかったけど……何か疲れた」
「私も影からこっそり確認しようとしていたのですが、どうにも警備が厳しく無理でした」
「何しようとしてるの……」
でも何かと動けるスーラさんが防がれるとは流石は王女である。例え自国でなくとも警備はしっかりしているようだ。
「とりあえずこれをお渡ししておきます」
「……手紙?」
スーラさんが渡してきたのは便せんであった。まだ何も書かれてない真っ白のやつである。
「ラティーナ様よりもしも何か接触することがあれば気づいたことがあったら伝えて欲しいとの言伝です。こちらに書いて頂ければお届けしますので」
「ああ、なるほど」
ラティーナ様もたぶん色々と情報収集しているのだろう。何せ彼女の物語から外れたかなりのイレギュラーなのだから。
「まあ、あんまり書くことはないと思うけど適当に書いておきます」
「よろしくお願いします。それとまだお嬢様は眠っていらっしゃいますけどそろそろ起こしてもらってもいいでしょうか?」
「あ、そうだった……」
「では、私はこれで」
そのまま足音を立てずスーラさんはどこかへ行く。別に私が起こす必要もないと思うがいつのまにか時刻は夕方である。そろそろ起こしてもいいだろう。
「あ、ステラさん!」
「ん?」
自室に戻ろうとしたらまた声がかかる。
「マリーシアさん?」
「よかった。特に何もなかったんですね……」
「何も?」
聞けば彼女の元にも私が帝国の王女に呼ばれたという情報が回って来たらしく何かあってはと気を揉んでいたらしい。杞憂にすんで良かったと彼女は胸を撫でおろしていた。
「そういえばこうして話すのもなんだか随分久しぶりですね」
「確かに……あの王女様の元に集められた時も話す暇はなかったしね」
「ええ……それにしてもあんな人を迎えてこの学園はどうするつもりなんでしょう。私も何度か招待されて話してみたのですがあんな無礼な人がいるなんて!」
珍しくプンプンである。まるで原作のリーティアさんに対する態度のようであった。
「はぁ、新学期からどうなることか不安です。王太子殿下やリーティアさんも頻繁に呼んでいるとのことで、お二人にもスケジュールがあるというのに……」
「確かにね。まあ、何もないことを祈るよ、私は……」
何もない可能性は今のところ0に感じるが、そう願わざるを得なかった。
「今から心配してもしょうがないですね。あ、そういえば今日リーティアさんを見てませんか? 昼食に食堂にいらっしゃらなかったのでもしかして体調でも崩したのかと」
「え? リーティアさんなら私のベッドで寝てるよ?」
「は?」
「あ、やべ」
そういえばこの人割とリーティアさん好きな人だった! 言い方を間違えた私はそれからしばらく妙な誤解を解くのに苦労することになった。
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