52.リーティアさんと先輩
「……やることないなぁ」
思いがけないリーティアさんのダウンにより急にぽっかりと時間が空いてしまった。寝ようにもそのベッドは占領されているし机に突っ伏して寝るのも気分じゃない。
「それにしてもよく眠ってるなぁ」
日頃あまり隙を見せない彼女にしては珍しい無防備さである。規則的な寝息とそれに合わせて静かに上下する体はどこか人形めいた美しさがある。
なんだか間近で見たくなってベッドに近寄ってみる。毎日しっかり手入れされている金髪がベッドの上に広がっていた。思わず手で触ってみると予想通りきめ細やかで透き通るようで全く指に絡まらない。
「そういえば先輩もたまに疲れてこんな風に寝てたっけ……」
その姿を見ていたら突然脳に昔の記憶がフラッシュバックした。
『先輩、最近勉強し過ぎじゃないですか……?』
『まあねぇ、でもほら模試とかで成績落ちちゃうと親がうるさいしさ』
『……クマひどいっすよ』
『いくらやっても勉強って終わらないよねぇ』
先輩の広くて綺麗な部屋は最近参考書とかそういう本が最近増えたように思う。以前にあった漫画とかそういう娯楽系のものはいつの間にかなくなっていた。
確かに受験は大事なのはわかるけど、先輩みたいに追い込みすぎるのもどうかとは思う。
『確かに先輩の目指す大学難しいって聞きますけど、そんな状態でやってても捗らないと思うんですけど』
『やっぱりそうかなぁ』
『私が監視しとくから少し横になったほうがいいと思います』
そう言ってドアの方を睨むと先輩は苦笑した。
『何も言われなかった?』
『娘の邪魔はするなって言われました』
『ごめんねぇ』
申し訳なさそうに謝る先輩に無性に腹が立ってしまった。いや、先輩に怒っているんじゃなくて先輩をこんな状態にしているあいつらにだ。
『とにかく、一回横になってください。何かあったら起こしますから。ほら、早く早く』
『……そうだね。ちょっと横になろうかな』
休日だというのにヘトヘトの先輩はベッドに横になるとすぐ静かに寝息を立て始めた。いつもは綺麗な黒髪も今日は元気なくしおれてしまっているように見える。
『……先輩』
前は明るく元気に笑っていた先輩も今はいつも疲れているようで見るにたえなかった。
その時である。扉から突然ノックの音が響いたのは。
「ステラ様? いらっしゃいませんか?」
「んあ?」
ハッと意識が戻すと今は見慣れた寮の自室であった。どうやらいつの間にかベッドに突っ伏していたようだ。
「……ステラ様?」
「あ、はいはい、今行きますー」
思い出したくないことをこんなタイミングで思い出してしまった。前みたいに頭はいたくないけれど弱った先輩の姿を思い出して何だか妙に胸が苦しい。
しかし、今は来客が来ている。慌てて起き上がって扉を開けるとそこにはメイドさんが立っていた。スーラさんではなく初めて見るメイドさんだ。
「えっと、なんでしょう?」
「お休みのところ失礼致します。ラティエナ様の侍女をしております。本日はお茶会の招待に参りました」
「ラティエナ様……? え、私に?」
「はい」
「えっと、いつですか?」
「今からです」
「……はい?」
災いが降って湧いてきた。そんな気がする。
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