51.お転婆なラティエナ様
帝国第三王女ラティエナ。リーティアさん曰く彼女はまるで『嵐』であったらしい。
「連日のように午後はお茶会、夜は豪華な食事会を開いて色んな人を"招待"しているみたいね」
「リーティアさんも?」
「ええ、それなりに力を持っている貴族の生徒を呼んでいるみたい」
自分に何も来なかったのは出自が庶民だからだろう。最初に顔見世だけはしたし、たぶん帝国には私が光魔法を持っていることはバレているはずだが、それとは無関係なんだろうか。どっちにしろ眼中に入っていないならありがたい話だ。
「ちょっと、自分には無関係そうだって安堵しない」
「……そんな顔してた?」
「大体わかるわよ」
そんな顔に出やすいはずではないのだが……ムニムニと頬を触っていたら少し呆れたように彼女は話を続ける。
「とにかく態度は褒められたものじゃないし、ずっと帝国と自分の自慢ばかりされたわ……マリーシアさんも呼ばれたみたいだけど相当疲れたみたいね。あまり会いたくないって言ってたわ」
「あのマリーシアさんが……」
基本朗らかな彼女がそういうのだからひどいんだろう。たぶん原作のリーティアさんにする対応みたいに今後はなりそうだ。
「あと、とにかく王太子殿下をお呼びしているみたいね」
「それはまたなんというか」
いくら帝国の王女だとしてもいくらなんでも横暴である。しかし王子は特に文句も言わずキチンと応じているらしい。そこは流石というか、たぶん国同士の関係を考えているのだろう。たぶん。
「とにかくどうして横暴に振舞うのかわからないけど、皆うんざりしているのは確かだわ。変なことにならないといいけれど」
はぁぁ、と大きなため息。どうやら彼女も相当お疲れらしい。
「連日お呼ばれされて律儀に対応しておりましたので」
「わっ!? す、スーラさん?」
疲れてため息をつく姿も絵になる美人な彼女をちょっと憐れんで見ていたら突然第三者の声が部屋に響いてビクリと驚いた。
「貴女ね、入る時はちゃんと合図をしなさい」
「何度かしたのですが……お気づきになられませんでしたので」
「あら、そうだったの……?」
いや、たぶん何もしてないはずだ。だけどそれを追及する気力がないのかリーティアさんはまたため息。
「リーティアさんも連日呼ばれてたの?」
「まあ、そうね。王太子殿下とは時間をずらしたり一緒だったり呼ばれて……流石に相手が王女となると国の関係上それに応えないわけにもいかないから」
ここにも真面目な人がいた。自分だったら絶対適当な理由をつけて断っていたはずだ。
「ですがそれも限界で、今日もお呼ばれしていたけれど先約がいるからと断ったんですよね」
「え? もしかしてだから私の部屋に来たの?」
「……だって、絶対に課題をやってないと思ったから。ちょっと利用する気がして申し訳なかったから言えなかったんだけど」
「いや、別に全然気にしないけども、それよりあまりの真面目さにちょっとびっくりしてる」
スーラさんが用意してきたお茶を淀みなく綺麗に注いでいく。ハーブティーだろうか良い香りが部屋に満ちていく。
「お嬢様は生真面目ですから理由をつけないと休めない性格で……」
「難儀だねぇ」
「ちょっと、私は目の前にいるんだけど」
淹れて貰ったハーブティーを頂きながらしばらく休憩も兼ねて雑談する。そうしているうちに疲れが表面化してきたのか明らかにリーティアさんが微睡み始めた。
「寝てけば?」
流石に見てられなかった。
「んん……? でも、勝手にそういうのは」
「別に気にしないし休むのも必要でしょ? 適当な時間に起こすから」
「…………」
渋りそうだなぁと思っていたがなんと彼女はすんなりと席から立ち上がると私のベッドに腰かけた。
「ごめん……ちょっと借りる……」
「どーぞどーぞ」
そのままぼふっと倒れ込むように沈むリーティアさん。そして静かな寝息がすぐ聞こえてくる。
(こりゃ重症だ)
そんな追い込まれていたのだろうかと疑問に思っていたら、スーラさんが静かに教えてくれた。
「あの我が儘娘から呼び出されて国のことから個人の付き合いまでなんでもかんでも根掘り葉掘り聞かれて、波が立たないようにと考えながら対応して、そのあとは帝国について調べものをずっと行い、さらに日課の魔法の練習や勉強もしているものですから限界が来ていたようで」
「いや、真面目か……! でも課題は終わってたんじゃ?」
「課題とは別で勉強しているのです」
「……本当に私と同じ人間?」
そんな生活を寮に戻ってからずっとしていたのだろうか。公爵令嬢とは大変な物である。
「ステラ様がお休みを勧めて頂き助かりました。私が言っても猶更頑張ろうとしてしまうので」
寧ろ何で私の意見は聞いてくれるのか不思議だが、とにかく例の第三王女はそれだけ厄介らしい。
「私はしばらく席を外しますので、適当な時間に起こしてあげてください」
コクリと頷いたらスーラさんは満足気に部屋を出て行った。
部屋にはただリーティアさんの寝息だけが響いていた。
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