5.ステラ、思い出す
これから主人公のステラの一人称と、ヒロインのリーティアの一人称で進行になります。
よろしくお願いします。
私が魔法に覚醒したのはなんてことないよく晴れた日のことだった。
「お、おお?」
いつも通りの日常の中、なぜか私の手の平の上に球状の光る物体が発生し輝いていた。
そしたら周りの村人は慌てて魔法の鑑定が出来る人を呼んだ。
この国では魔法の素質があるのか大体10歳になるころに、その力を鑑定できる者に頼んで調べてもらうのがこの国では一般的だ。
そこで自分に何の適性があるか知り、その後望むのであれば使い方について学んでいく流れになる。
私も10才の時に鑑定はしたのだが、その時はまだ適性の魔法は診断されなかった。年齢によって魔法の適性が発現するのは個人差もあるので、また何年か後に鑑定することにはなっていた。
そんな中で突然の覚醒だった。素質があるのを確認した後学んでやり方を覚えるのが普通で私みたいにいきなり出るのはかなり珍しいことらしい。
「こ、これは……!」
しかも適性の出てきた魔法までも珍しいもののようだった。要請を受けて国から飛んできた者の驚く顔を見たら容易にわかる。
「まさか、光魔法なのか……!?」
用意された水晶から光が溢れていた。この水晶は触れた人の適性に応じて中で火が起きたり水が湧いたりするのだが、私の場合は『光魔法』だったというわけだ。
そこからはてんやわんやであった。ただでさえ珍しい光魔法の適性者が至って普通の村で突然誕生したからだ。
王国は報告を受けて保護が必要と判断したらしく、私は貴族の学園へと招待を受けた。どうやらそれなりにお金も出るらしく村の両親のためにはいいかと思って安請け合いをしたのだが、王国のことや入学する学園のことについて説明を受けた時、私の脳裏になぜか強烈な既視感が襲い掛かってきた。
「え、どういうこと、これ?」
実は光魔法を発現した瞬間、私の頭の中にとある記憶が蘇っていた。
それは日本で生きていた時の自分の記憶だ。ところどころうろ覚えというか靄がかったような部分もあるが、妄想や空想とは思えないほど脳に強烈に刻まれているもの。
「前世とかそういう……?」
正直に言うと日本での生活についてはあまり思い出したくない。でも、その記憶の中にこの世界のことと、そして自分の名前である「ステラ」という単語があった。
『……先輩、何読んでるんですか?』
『ん、これ? 乙女ゲーがコミカライズされたやつ』
あまり家に帰りたがらない私をよく家に招いてくれた高校の時の先輩。彼女の部屋にはゲームや漫画などがたくさん置いてあった記憶がある。
『乙女ゲー?』
『────にはわかんないかー。えっとね乙女ゲーってのはねー』
簡単に言うとそれは女性向け恋愛ゲームのことで、その先輩が読んでいるのはそのゲームを漫画化したものらしい。
『けっこう人気なんだよ? まあ、ルートは王太子固定になっちゃうけどさぁ』
『???』
よくわからない単語ばかり並ぶが先輩がそれを好きなのは伝わってきた。でも恋愛ごとには興味はないし、「ふーん」と流そうとした。
『せっかくだから読んでみなよー。けっこうハマるかもよ』
『いや、そんな恋愛系は別に興味ないです』
『まぁまぁ、私の好きなものを共有させてよ。ほら、これ一巻』
『……読むのは別にいいですけど』
そうして読み始めたのは「星詠みの乙女と恋心」というタイトルで、平民だったステラという少女が「光魔法」に目覚めて貴族の通う学校に通うところから始まる。
その学園の中で王太子と出会い、恋に落ち、様々な事件に巻き込まれながらも障害を乗り越えて最後には結ばれる話だった。
先輩の言う話ではゲームだと他にも色んなキャラのルートがあって楽しいということを熱弁されたが、生憎ゲームとかは好きではなかったので漫画だけ読んだ。
そんな記憶があるのだが、現在の状況と名前、そして通うことになる学園の名前。すべてが一致している。
「うーん、よくわからない……」
「ほら、ステラ。明日から学園でしょう? 今日は早く寝なさいよ」
「う、うん」
気づくのが遅かった。既に学園に入ることは了承したし、迷惑料的なお金ももらってしまった。
「今更断るわけにはいかないか……」
正直、学園には行きたくなかった。
理由はいくつかある。まずは単純に面倒くさかった。
これが読んだ漫画と本当に同じ世界であるのなら、平民と貴族ということで主人公のステラは最初めちゃくちゃ虐められるのである。そこを漫画では王太子に助けられてから恋が始まっていたはずだ。
それともう一つ、これがメインの理由なのだが作中で出てくるライバル令嬢「リーティア」の存在であった。ライバル令嬢というのは読んで字の如く、主人公の恋敵である。確か王太子の妃候補で何かと突っかかってくる相手である。
これが漫画の中ではかなり陰湿で、最後の方は国を巻き込むほどの事態に発展する事件を起こすことになる。結局それが決めてで彼女は破滅し、主人公のステラと王太子は無事に結ばれてハッピーエンド……という話だった。
先輩は彼女を「悪役令嬢」だと言っていた。競い合う相手なら「ライバル令嬢」だが、悪事に手を染めて国や人々を巻き込む事件を起こす場合はそう呼ぶらしい。
「い、行きたくない……」
私は思ったことがある。そもそも主人公が現れなかったら一連の事件などは起こらなかったのではないかと。漫画の中のリーティアは最初は貴族らしい高貴な考えを持つ令嬢だった。しかし、それが嫉妬で徐々に狂い始めて悪事に手を出していくのだ。
つまるところ、主人公の存在がなければそのまま事件も起きずうまく世界はまわっていたはずなのだ。いや、もちろん作品の根幹から否定することになるし、創作物の話であるから考えるだけ無駄ではあった。
しかし、今はどうだ。
その物語の中に私は入り込み、そして流れに沿った行動をしているではないか。
「…………」
私は考えた。お金を受け取った以上断ることはできない。相手は国だし家族もみんな喜んでいたから没収や罰を受けたら溜まったものではない。
じゃあ、どうするか。しばらく今夜が最後の自室で考えた結果、私は素晴らしい考えにたどり着いた。
「そうだ、さぼればいいんじゃん!」
ただの問題の先延ばしだともう一人の私が出てきたが、それをさぼりたい自分が叩き伏せる。
とりあえず学園に行くという約束は果たせるし、最悪ダメ生徒の烙印を押されさえすれば王太子との恋愛も成立しない可能性が高い。
「うん、それでいこう!」
基本さぼる! 私の学校生活指針が決まった瞬間だった。
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