44.お母さま再び
かくかくしかじか、案内されたこじんまりとした応接室で、私は知っている情報をラティーナ様に説明した。
「そうだったのね……これを転生と言っていいかわからないけど、基準は謎が深まるばかりだわ。別にこの世界に思い入れがあるわけじゃないわよね」
「まあ、その……原作者様を前に言いづらいですけど……」
ラティーナ様はこの世界を思い描いた人物である。だから死後ここに呼ばれたというなら納得が出来るが、私は特に興味もなかった一般市民Aだ。
「他にそういう人がいるかもしれないけど、思い当たりはある?」
「いえ、全然」
そうよねぇ、とため息をつく彼女はそれだけで絵になるほど綺麗に見える。
「今のところ悪いことにはなってないし、寧ろ良い方向に向かっているのだから喜ぶべきなんでしょうね。本来の主役である貴女もこっち側なら心強いし」
「やっぱりある程度は物語通りに進みますかね?」
「恐らくはね。何らかの形に変わってということもあるかもしれないけど」
魔法暴走事件か襲撃事件まで結局は起きてはいる。どれだけ状況をよくしようと発生だけはしてしまうと考えた方がいいんだろう。
「ただ、出来るだけ布石は打っておいたし、何せ私の中ではそれぞれちゃんと覚えているから対策はできるから大きな心配はいらないわよ」
「その節はどうもありがとうございました!」
権力 is ゴッドである。詳しく話を聞いてみたらとっくに王家との連携も結んでいるらしく、今のところは無敵らしい。確かに護衛とかについてだって何の滞りもなく進んでいた。
「あとは帝国がちょっかいを出してこなければいいんだけどねぇ」
「そうですね……でも、現状だと何かしらやってきそうですけど」
最終的に帝国とぶつかり合いになる。それは物語の終盤であり佳境でもある。今まで色々とつながりを作った人々と一致団結して真正面からぶつかる胸熱な展開だが、兵隊同士のぶつかり合いもあるわけで血みどろな部分もある。
ゲームや漫画なら良いが、実際にその世界に住む人としては決して気持ちのいいものではないのは確かだ。
「何とか戦争だけは回避したいわね。お互いにいいところなんてないもの」
それにコクコクと頷いて返事をする。
「とりあえずよくわかったわ。貴女が記憶を思い出すために光魔法が必要かどうかわからないけど、私も協力は惜しまないから貴女も色々と周りを気にしておいてね。どこに何があるかわからないから」
「はい」
流石にふざけた雰囲気はない。私も少し気を引き締めて返事をした。
すると彼女は、はぁぁと大きなため息をついて深刻そうな顔をより一層深くし、言い放った。
「それで、それはどうでもいいとして、リーティアちゃんについて話しておきたいのよ……」
(どうでもいいとして……?)
ツッコミそうになったが深刻そうな顔なのでとりあえず黙っておく。
「ずっと前からね、何かに悩んでいるみたいなんだけど、あの子しっかり者過ぎるから中々相談してくれなくてねぇ。私なんか母親だからなおさら聞くのが恥ずかしいのか……」
「……悩みですか?」
普段の彼女が何かに思い悩み塞ぎ込んでいる様子はない。だけど……
「あっ、確か聞いて欲しいことがあるって! それで私ここに招待されてきたんですけど!」
「やっぱりそうなのね。よくわからないのだけどあの子凄く貴女のことを気に入っているみたいだし」
「そこがよくわからないんですけど、なんでですかね?」
聞けばラティーナ様も首を傾げる。
「まぁ、人には相性があるから。あの子にとってはそうなのかもね。もしくは貴女がすごい聞き上手か」
「それはないと思いますけど……」
ただ受け身なだけで聞き上手では決してない。
「まあ、それも含めて聞いてみて欲しいわ。あの子には幸せになって欲しいしね。散々文章上では悪い役につかせてしまったから」
そういうラティーナ様はどこか責任を感じているようで少し苦しそうだった。確かに悪役として描いていた人物が娘になったら思うところもあるのだろう。
「もしかするとその悩みに付け込んで帝国から何かそそのかされる可能性もあるから、出来るだけ近くにいて欲しいの。いいかしら」
「……善処します」
そうとしか言えなかった。まあ、現状頼りきっているところはあるので自然と近くにいることにはなると思うが。
その時、部屋が控えめにノックされる。
「ラティーナ様、スーラでございます」
「入っていいわよ」
割と何度も目にするメイドさんが入室してきた。
「お話し中のところすみません。ですが、時間になっても現れないとリーティア様が非常にお怒りで」
「え……あっ、レッスンの時間!?」
気が付けばそんなに話し込んでいたのかと驚愕した。
「ふふ、確かにあの子の人生の中で貴女みたいな人は見たことがないから惹かれているのかも。もしあったら私に呼ばれたって言い訳して頂戴。スーラ、最短で案内してあげて」
「かしこまりました。それではステラ様、まいりましょう」
「は、はい。あのラティーナ様、ありがとうございました! 色々と」
「こちらこそ。また、何かわかったら教えてね」
そうして、私は部屋を後にして急いでレッスンに向かうのであった。
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