43.悩みとは
夏休み中盤が過ぎた。おおよそこれぐらいからほとんどの学生は憂鬱になるのではないだろうか。
「中には早く学校行きたいって奴もいるんだろうけどたぶんそれは人間ではない……」
「なにブツブツ言ってますの?」
今日は魔法の訓練でも礼儀作法マナー講座でもなく単純に勉強をしていた。
この学園、当たり前だが普通の宿題もあるわけで決して易しいことはない。確かゲームの方ではステータスみたいな感じで知力もあって、先輩はその割り振りに苦慮していたような気がする。
「そもそも何でリーティアさんのところに私の分の宿題が?」
「きっとやらないだろうと思って二人分用意してもらっていたのよ。貴女がもらったのはたぶん寮の部屋の引き出しに入ったままじゃないかしら」
「まじか……そこまでしなくとも」
「だってやらないでしょう?」
「いやぁ、まぁ、はい……」
十中八九やらないと言える。いや、最終的にはやるかもしれないけど、少なくとも夏休み明けは「やったけど部屋に置いてきた」などと小学生も真っ青な言い訳をするに違いない。あれ、でも取りに行けって言われたらこれ詰んでない?
「はぁ……何を考えているのかわからないけど課題は期間中にちゃんとやるべきよ。終わったら甘いお菓子を用意してもらってるから頑張りましょう」
「釣り餌が小学生……」
そんなわけでカリカリと宿題をしているわけである。こうしていると勉強している部屋は豪華だけど日本と変わりない。
(先輩にもよく勉強を教えて貰ったなぁ)
日本にいたころは学校に親しい友達はいなくて、勉強を見てくれたのは先輩であった。彼女の家はリーティアさんの家ほど豪華ではないけれど裕福な家だったのは覚えている。
そこでよくバカにされながら勉強をやっていた気がする。
『こういうのはやっておいて損はないから覚えといた方がいいよ』
そう。確か先輩はそう言ってよく面倒を見てくれた。まだ声はちゃんと記憶に残っている。
「ステラさん? どこかわからないところがあるの?」
「え? 大体わからないけど」
「ちょっと」
流石に冗談だけど歴史とかは本当にわからないので教えてもらうことになった。懐かしさを感じるのはきっと先輩のことを思い出しているからかもしれない。
私がちゃんと完全な記憶を取り戻すのはいつになるのか、まだ見当もつかない……
*****
「ステラちゃん」
その翌日のこと。今日は茶会のマナーを学ぶ予定でそれまで自由時間だった。
だから適当に許される範囲で館をぶらついていたらラティーナ様と出会った。
「ラティーナ様。今日は家にいらっしゃるんですか?」
「ええ。登城の予定はないわ。この前はごめんなさいね、私ったら聞いたらいけないところまで踏み込んでしまったかしら」
「いえ、たぶん私の問題だと思うので……どうにかしたいとは思ってはいるのですが」
「あの時急に具合が悪くなった理由って聞いてもいいかしら? もしかしたら力になれるかもしれないし」
「……確かに」
実際、今の状況について一番の理解者は彼女である。もしかしたら同じように記憶に鍵がかかっているかもしれないし、それを解決した可能性もあった。
「そしたら聞いてもらってもいいですか?」
「もちろん。少し場所を変えましょうか。私も貴女に少し話しておきたいことがあるの、愛娘についてね」
「……?」
そして、どうやら彼女にも私に会う理由があったようだった。
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