40.彼女の秘密と
その懐かしい言葉の前で私は茫然と固まっていた。
「……え、どう、して」
「あぁ、やっぱりそうだったの。本当はもっと早くからほぼ気づいてはいたんだけどねぇ」
「い、いつからですか?」
「そうねぇ、確か始業式あたりからかしら」
「しょ、初日じゃないですか!?」
数ヶ月前の入学式。やる気のなさすぎた私はいきなりサボるとかいう大技を繰り出した日である。
「ど、どうして? というか、え、じゃあ、ラティーナ様も……?」
「当然、そうなるわね。貴女はどこに住んでたの?」
「私は、東京に……」
「あら、一緒じゃない。まあ、私は地元は違うけれどね」
「え、ええぇ……本当に?」
信じられなかった。まさか自分以外にこっちの世界に来ている……いや、日本の記憶を持っている人がいるなんて。
「嘘なんてついてもしょうがないでしょう? そもそも貴女をここに招待したのはそれについて確かめるためだったしね」
もちろん、リーティアちゃんが誘いたかったのも本当だけどね。と悪戯っぽく彼女は笑う。
「どこからどう言えばいいのか……そもそもここがゲームの舞台だっていうのは?」
「もちろん知ってるわ」
「じゃ、じゃあ学園に魔物が出ることとか、馬車の襲撃事件については?」
「当然。流石に知ってないとあそこまで出せないわよ」
確かにその通りだ。いくら何でも娘が言ってきたことを鵜吞みにして滅茶苦茶な戦力を公爵家が用意するわけがない。ラティーナ様はある程度わかっていたからこそあそこまで準備してきたのだ。
「色々と聞きたいでしょうから何でも聞いていいわよ。今は護衛も遠ざけているから何でも話せるわ」
「……じゃ、じゃあ、元々ゲームをめっちゃやり込んでたんですか? だから知ってるとか?」
「いいえ? だってこの世界作ったの私だし」
「は?」
「実際に作ったわけじゃないけど、原作者なのよぉ」
「えええっ!?」
私の反応が面白かったのかクスクス笑っているが、それが嘘じゃないならとんでもないことである。
話を聞けばゲームを作る際に原作者として関わっていたらしく、この世界については誰よりも詳しいらしい。
「まさか自分がこの世界で生きることになるなんて思わなかったし、しかも悪役に仕立て上げちゃった子が娘なのよ? びっくりしたわ」
「リーティアさんのことですよね? というか私は途中で日本の記憶を思い出したんですけどラティーナ様も?」
「ええ。ちょうど結婚した時ぐらいだったかしら。しかも困ったことに私の設定ではこのレイファール家は家族仲がものすごーく悪いっていう風にしていたから、どうしたらいいか最初は悩んだのよね」
原作通りにことを進めるのか、それとも別の道にするのか。原作者だったら思い入れがあるに違いないし私とはまた違う悩みなのだろう。
「でもねぇ、やっぱり娘は可愛くて……だからいっそのことこの国に起こる悪い事全部なくそうかと思って」
「あ、だからアルティス先生も?」
「学園の男性教師ね。ええ、でも大変だったわよ。この国に根付いていた悪い貴族文化を変えないといけなかったんだから」
「そういえば貴族の女性が凄い色々な施策を行ってるって……」
「たぶん私よねぇ」
「やってることが主人公……」
何もしていない私よりよっぽど主役だ。でも、そのおかげで今までの事件が解決出来てきたのならありがたいことだ。
「私からしたら不思議なのは貴女のことだったのよねぇ。絶対に入学してくるとは思ってたからマークはしていたんだけど、あまりにも私の中にある動きではなかったから」
「だから、気づいたんですか?」
「リーティアちゃんからの報告も合わせて確信になったって感じかしらね」
確かに原作通りなら私は本来はここにはいないに違いない。ただ申し訳なかったのは私がゲームをやりこんでいたわけではなく、漫画だけを読んでいたという事だけだ。
「あら、そうなのね。でもそういう子も多いってそういえば編集者さんも言ってたから気にしないで。私としては楽しんでもらえてたら嬉しいから」
「……その、最初は先輩から勧められて読んだだけで、でも何だかんだ楽しかった……とは思います」
あの時はあんまり創作にのめり込む余裕はなかった。ただ、先輩と話が合わせたかったから読んだだけだった。最後は楽しんでたのは本当だけど。
「でもこっちに来たってことは貴女も向こうで亡くなったのかしら? 私は思いっきり事故に巻き込まれちゃったんだけど」
「え? 亡くなった……?」
「うん? そうじゃないの? 私がそうだったからてっきりそうなのかと思ったんだけど……」
あれ、そういえば私ってここに来る前って何をしてたっけ? 確か、先輩から何か……あれ?
「……う、ぁ、頭がいたっ……!」
「ちょ、ちょっと大丈夫!?」
何かノイズの混じる記憶を覗こうとした瞬間、強烈な頭痛が私を襲う。最後に聞こえたのはラティーナ様がテーブルに置いていた呼び鈴を大きく鳴らす音であった。
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