4.現れない編入生
かなり遅刻しました・・・ごめんなさい
「どういうことなんですの……?」
2年生になってから一週間が経った。元々見知った顔が多いクラスなので特に問題なくリーティアは学園生活を過ごしては……いなかった。
「いくら体調不良だと言っても一週間も休むなんて……」
目を向けた先には彼女のために用意された席。だがまだ一度も使用されたことがない。
「わかりませんわ……先生も何も言いませんし。本当にいるのかすら怪しいなんて……」
同じ女子寮には住んでいるはずだが、そこでもリーティアはその少女の姿を見たことがない。他の生徒にもそれとなく聞いたが見たことがないという返事ばかりだ。
「あの、リーティアさん? 大丈夫ですか?」
「えっ? あ、ああ、何か?」
「いえ、次の授業は移動なのですが……」
いつの間にか教室にはほとんど生徒が残っていなかった。声をかけられて初めて気が付いたリーティアは教えてくれた女生徒に頭を下げる。
「すみません、少し考え事を……教えてくれてありがとうございます」
「どこか具合でも?」
「大丈夫ですわ。さ、行きましょう」
それからまた一週間後……
「さすがにおかしいですわ!!」
最初のうちはクラスメイトも登校してこない編入生に関心を寄せていたが、今はもう時々話に上がるくらいで興味も薄れ始めていた。
リーティアを除いて。
「先生! 少しよろしいでしょうか?」
「はい? どうしました?」
リーティアには貴族としての誇りがある。貴族とは常に学び常に前に進んでいくことが求められていると思っている。まだ子供ではあるが、公爵令嬢として生きてきた彼女の芯にはそういう思いが根付いている。
ゆえに、通えるはずなのに通わないということは心が受け入れられなかった。
「その、編入してくるはずのステラさんのことについてなのですが……」
そういうわけで遂に我慢ならなくなった彼女は先生を捕まえていた。
「何か大きな病気にかかっているのでしょうか? こんなに休まれては進級すら難しいと思うのですが」
「あー……うーん、そうですねぇ」
リーティアのクラスの担任であるウェール先生。おっとりとした優しい性格が生徒達に人気がある。そんな彼女は栗色のウェーブした髪を揺らしながら困ったように言いよどんでいた。
「いくらなんでも2週間一度も登校しないのはおかしいと思うんです。寮でも姿を見たことがないですし……先生は何かご存知ではないのですか?」
「あー、うーん……」
この先生、嘘をつけないタイプである。特に教え子たちを前にしてみればなおさらだ。リーティアは詰め寄った。
「もしかして何か嫌がらせでもされているんですか? それとも環境が変わりすぎて本当に体調をずっと崩しているんですか?」
元々ステラという少女は村に住んでいたと聞いていた。それがいきなりこの学園に入れられたりしたら環境の変化についていけないのは容易に想像が出来る。流石に村に住んでいた経験のないリーティアでは想像するので精いっぱいだったが。
「いやー、その……まあ、なんというかですねぇ」
しかし、ウェール先生の反応はリーティアの考えを否定した。リーティアは益々混乱した。
「ウェール先生、もし話せない事情があるなら無理にとは言いませんが、クラスで一人だけずっと欠員というのはいけないと思うんです。何か私に協力できることはありませんか?」
「リーティアさん……そうですね、もしかしたら貴女なら何とか説得できるかもしれません」
「……説得?」
「実はですね」
そこでリーティアはとんでもない事実を知ることになった。
***
学園の授業が終わった後、リーティアは寮の廊下をズンズンと歩いていた。普段あまり感情を出さない彼女にしては露骨に不機嫌で、すれ違う生徒は何事かと驚いていた。
「まさか、そんな理由で休んでいたなんて……信じられませんわ!」
ウェール先生曰く。
『なんでも通う気が起きないから放っておいてください、ということらしく食事は部屋の方で取っているらしいので、健康面は大丈夫かとは思うんですけどねぇ』
『それって……ただ怠惰なだけってこと、ですか……?』
『いやぁ、きっと環境が変わったからとか……上の方もほら、光の魔力持ちですしあんまり無理やりはよくないってひよって……じゃなくて、とりあえず落ち着くまで様子見ってことらしくて』
どう考えてもさぼりであった。「通う気が起きない」などという理由を告げるやつが精神的に弱いとは思えない。
しかし、それだけの情報でさぼりと決めるのは違う。なのでリーティアはこう言ったのだ。
『それでしたら私が会って話をしてみます。同じクラスですし話してみないことにはわかりませんので』
というわけで、彼女の部屋の前までやってきたのであった。
ウェール先生が訪ねても反応がなかったようで諦めたらしいが、今の時間帯は夕食前。寝ている時間帯ではないだろう。
「…………ふぅ」
謎の緊張感がリーティアを襲う。そもそも何でここまで自分が行動しているのかちょっと自分でもわからなかった。
元が貴族ではないため慣れない環境かもしれない。もしかしたら無理やり連れてこられたせいで拒否している可能性もある。
ただ、せめてきちんと自分の目で確認しないといけない。母からも「周りの目よりもまずは自分の目で確かめること」と幼いころから口うるさく叩き込まれていた。
リーティアは扉を軽くノックする。
「ステラさん? 私、同じクラスのリーティアと申します。いらっしゃいますか?」
しかし反応はない。次は少しノックの音を強くして声も張る。
「あの! 部屋にいらっしゃるんでしょう? 少しだけお話しできませんか? 皆さん心配していらっしゃるし……」
すると僅かに扉の奥で何かゴソゴソと動く気配がし、わずかに扉があいた。
「うーん、だれぇ……? もう夕食ぅ……」
そして顔を覗かせたのは明らかに寝癖でボサボサになっている明るい茶髪と、今の今まで寝ていたと言わんばかりにぼんやりとした表情の少女だった。
「え、なっ、あなたが……ステラさん?」
あまりにも自然体というか、本当にそのまま現れたためリーティアは面食らってしまったものの、何とか表情を崩さず出来るだけ温和に話しかけた。
しかし──
「げっ、本物……?」
「……はい?」
なぜか彼女はリーティアを見て、ギョッとした表情になるとそのまま……扉を閉めた。
「え、ちょ、ちょっと!? ステラさん!?」
まさか、そんな対応をされるとは思ってもいなかったリーティアは一瞬、呆気に取られると、慌てて扉をノックする。
「えー、私はまだ寝ていますので、また次の機会……まあ、うーん、いや、よくわかんないや。私のことはお気になさらず~……」
しかし、返ってきたのはそんなよくわからない返答で、公爵令嬢リーティアは何事かと周囲に人が集まりつつある中、ポカンと部屋の前に立ち尽くすことになった。
それは14年生きてきて初めての経験であった。
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