39.こんなはずではなかったのに
「さ、ステラさん! 次は茶会のマナー講座をしましょう!」
「ひ、ひぃぃっ」
その日から私の夏休みは地獄の特訓日に変貌してしまった。
リーティアさんの言い分はわかる。確かに私は貴族のマナーとか詳しいことは全く知らないし教えてくれるのはわかるけど、だったらせめて招待した時に教えて欲しかった……
「だって、教えてたら貴女来ないでしょう?」
そりゃそうだ!
というわけで私の残りの夏休みはこの屋敷でマナーレッスンを受けることになってしまった。いずれ必要になることとは言え全く知らない分野のせいでひぃひぃ言いながら終わる頃にはグロッキーである。
「大丈夫?」
「大丈夫じゃないです……」
「そのうち身についてくるから気長にいきましょう」
「き、気長……」
正直今すぐにでも辞めたいといいたいところだが、リーティアさんはなぜか一緒に講義を受けてくれるのでそれも言いづらかった。
(そういえば漫画でも何かこういうシーンあったなぁ)
ただし相手は王子であるオルソンがメインで場所は王宮だったはずだ。もう最近は私の中で空気になりつつある王子だが何せこのレイファール家だけでありとあらゆることが済んでいるのが原因だと思われる。
まあ、このマナーレッスンが厳しいというわけではなく基本からゆっくりと丁寧に教えてくれるし、一日の中で数時間だけなので実際のところ地べたに這いつくばるほど厳しいというわけでは決してない。
さらに言えば美味しい食事とめっちゃ豪華な部屋まで用意してくれているのでプラスである。
「ごめんなさいねぇ、あの子も中々正直に気持ちを伝えるのが難しい性格なのよ」
「は、はぁ……え、もしかして誤魔化しでレッスン受けさせられてます私?」
「それは本心もあるでしょうね。マナーを知っておかないと本当に苦労するわよ。まあ、貴女がどこぞの貴族と結婚とかするならだけど」
「いや結婚とか本当に無理なので」
「ふぅん?」
そして夜に私はリーティアさんのお母様であるラティーナ様と何故か話をしていた。
凄く広いお風呂でたっぷりと疲れを取ったあと用意してもらった部屋に向かう途中偶然出会ってお茶に誘われたわけである。
「まあ、今まで貴女みたいな友人がいなかったから本人も試行錯誤しているのだと思うわ。しばらく生温かく見守ってあげて」
「それはいいんですけど……そういえば、護衛の件は色々と融通してもらったみたいでありがとうございました」
「役に立ったでしょう? 我が家でも相当な精鋭を揃えたからねぇ」
「過剰戦力だったような気が……いや、すごく助かったんですけど」
「だってねぇ、リーティアちゃんが「ステラさんが攫われちゃうかもしれない!」って騒いだからねぇ」
本当だろうか。あんまり彼女が慌てふためく様子は想像できなかった。たぶん漫画のイメージとかが少し残っているせいだろうか。
「ところで貴女にちょっかいを出そうとしていた連中なんだけど、やっと色々と吐いたらしくてやっぱり帝国の者だったみたい。目的は貴女の誘拐から揺さぶりをかけるつもりだったみたいね」
「そ、そうなんですか。それって私が知っていい情報だったんですか?」
何かそういうところは秘匿する必要はないのだろうか。
「そうよぉ。本当はまだ話しちゃいけない情報ね」
「え」
「でも、貴女なら知ってたんじゃない? 『預言』が出来るんでしょう?」
「……いや、そういうわけじゃないんですけども」
流石に隠し通せるものじゃないというのはわかっていた。ラティーナ様が鋭い人だってのはわかっていたし、リーティアさんの報告でわかってしまう部分もあったのだろう。
「そういうわけじゃないの?」
「ええとですね。その、どういったらいいか……」
どう伝えればいいのだろうか。そう困っていたら彼女はにっこりと微笑んだ。
「そしたら……そうね。例えば『日本からこの世界に来た人』とか?」
「…………え?」
今、彼女はなんて言った?
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