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38.リーティアさんのお家

「出迎えに行けなくてごめんなさいね。ちょっとやることが多くて」


 机の上には山のようにというわけではないが様々な本が置かれており、何なのかと問えば長期休みの課題と返ってきた。


「あったなぁ、そういえば」

「少しもやってないの?」

「後からやればいいかなぁって」

「貴女ねぇ……」


 昔からそうである。そもそも日本で生きていた頃はまともに宿題が出来るような環境ではなかった……はずだ。

 あの時夢の中で見た記憶は決してただの悪夢ではなく、過去にあったことなのは間違いない。きっとこの世界に来るときに思い出したくない記憶として体の奥底に眠らせていたのだろう。それが体が成長するにしたがって記憶として想起されたのかもしれない。


「ずっと勉強をしていたの?」

「そういうわけじゃないわ。ただ、今日までに訪問した貴族についてまとめていたの。お母さまからの課題でね」

「うえ、宿題とは別に?」

「ええ。そういう自分で見たものを文章化するっていうことはとても大事だって」


 課題に加えて課題である。面倒くさがりな私だったら絶対理由をつけて断るだろう。それのまとめがちょうど終わりそうで出迎えが間に合わなかったらしい。


「別に出迎えられるほど偉くはないし、気にしてないよ?」

「そう言ってくれるとありがたいわ。ただ、我が家はそういう家系だから、どうしても気になるところなのよ」

「外交? だっけ。外国からよく来るの?」

「ええ、引っ切り無しではないけれど。あとはこっちから訪れることも多いわ。主にお父様達だけれど」

「ふーん」

「あと少しで終わるからそしたら色々と案内するわ。スーラ、貴女もお疲れ様。早速で悪いんだけどお茶を用意してもらっていいかしら」


 リーティアさんがそう言うとスーラさんは「かしこまりました」と一礼して部屋から静かに退室した。


「彼女が何か迷惑をかけなかった? 前も言ったと思うけど優秀だけど一癖あるから」

「そんなことは……なかったと思う。むしろ色々と助けてもらったし」


 彼女含め護衛がいたおかげで"何らかの害意ある人達"は一網打尽になっていたはずだ。そういえばとそのことについて聞いてみる。


「結局捕まった人達の素性とかはわかったの?」

「まだ詳しくはわかってないわ。きっと尋問中ね。それに私が知ることが出来る情報も限界があるから詳細はわからないかも。そういうのはマリーシアさんなら知っているでしょうね。情報系を統率する一家だから」

「なるほど」


 確かに彼女は漫画でも情報屋として動いていた。情報を売っているとかそういうわけじゃないけれど。


「ただ、組織として成り立っていたようだからかなりきな臭い可能性は高いわね」

「だったらいやだなぁ」


 漫画では帝国からの潜入者だったから、そこが変わってない限りはそうなんだろう。姿さえ見てないから結局わからないんだけども。


「お嬢様方、お待たせいたしました」


 ちょうど話が区切られたタイミングでスーラさんがティーワゴンを押して戻ってきた。


「ありがとう。私もちょうどひと段落ついたから休憩にして、それから家を案内するわ」

「う、うん」


 結局、なんで私が呼ばれたかはわからぬままティータイムに突入した。お茶は甘いミルクティーとさっぱりした味のクッキーで相性も良く大変おいしかった。

 こっちの世界にこれてよかったことはそういう食事環境や衛生環境がちゃんと整っていることだとあらためて感じた。日本で作られたゲームだからそういう設定になっているのだろうけど、こちらからしたら大助かりだ。


 それからしばらく他愛もない話……主に私の怠けた旅の話や、リーティアさんの訪れた家について雑談をしてから家の案内をしてもらうことになった。


「スーラはもう下がって大丈夫よ。長く護衛についていたんだし休んでちょうだい」

「ありがとうございます。何かあればお呼びください。いつもそばにおりますので」

「はいはい」


 たぶん嘘じゃないんだろうなぁとは思う。それからリーティアさんの家の案内が始まった。


 さっきスーラさんがしてくれたのはリーティアさんの自室までの案内で、彼女はこのレイファール家全体を案内してくれるようだ。


「今まで誰かをこうして案内したことはなかったから、新鮮だわ」


 長く輝く金髪もどこか嬉しそうに弾んでいるようだった。家の立場というものは大変だなぁと思うと同時に、漫画での彼女の孤独を思うと少しだけ不憫だった。あの漫画の中の彼女が今のリーティアさんと同じだとは思えないが、もしも今の彼女が元であるならば非行に走ることにどれだけ苦しむことになったのだろうか。


「それにしても……色々あるんだね」

「当然よ。各国の偉い方が来ることもあるしありとあらゆる状況に耐えられないといけないもの」


 リーティアさんの案内で歩き続けるが、この家がどれだけ広いか改めて実感することになった。


 広々とした応接間から少人数用の会議室のような打ち合わせをする場所。

 食事をするための大きな食堂から、小さい規模の会食用の場所。


 そういうのは貴族としてはあるのは当たり前なのはなんとなくわかる。レイファール家でなくても客人を迎えることはあるはずだからだ。しかし……


「楽器を奏でるための防音ルームから、大きなダンスホール……お茶会専用の広場に、乗馬コースや貴族専用のキッチン……それと魔法訓練場と模擬試合用の闘技場? ここまでそろえる必要があるの?」

「まだこれだけじゃないわよ。本当に色んな人がくるからそれに合わせて増築したりしているの。最近は靴を脱いで室内に入る慣習を持つ方々がいらっしゃったからそれようの部屋を作ったりしてるのよ」

「はぇー」


 ちなみにこの世界は一応部屋でも靴のまま上がるのが普通だ。私もそれは子供の頃から常識として入っていたので、日本の記憶を思い出してからも大きな違和感はない。だけど、この世界にはそういう文化を持つ人もいるんだと知ることになった。


「ところで、ずっと聞きたかったんだけどなんで私のことを招待してくれたの? 前に言ってた聞きたいことがあるってことだけじゃないよね?」

「…………」

「そろそろ教えて欲しいなぁと思うんだけど」


 さっきから何か言い出したいような雰囲気は察していた。だから案内のキリがいい時に聞いたのだ。


「……そうね。これはちゃんと話さないといけないわ」

「う、うん」


 少し間を置いてリーティアさんは心情を吐露するように言う。


「私ね、我慢できないことがあるの」

「我慢?」

「ええ。私たちの学園はどうしても貴族出身が多いから礼儀作法やマナーの基本はないでしょう?」

「ま、まあ、そうかも」


 確かに彼女の言う通りで、学園でもマナーの講義はあるにはあるが基礎は基本的に家で学ぶもので、学園で教えることはそこからの応用らしい。その科目はこの休暇が終わってからなので受けたことはない。


「それでね、貴女が入学してからそういうことを学ぶ機会ってまずないでしょう?」

「うん……ん?」


 何か話が嫌な方向に進んでいるような気がする。


「学園に通う以上、これから先そういうマナーが必要な場所に出ることは必ずあると思うのよ」

「あの……リーティアさん?」


 そして彼女は目を輝かせて宣言したのである。


「だから、ここで貴女にマナーを学んでもらおうと思って招待したのよ!」

「……ええええええええ!!?」


 私の休暇に危機が訪れた!

いつも読んで頂きありがとうございます!

次回は来週の月曜日から投稿予定です!よろしくお願いします!

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