34.なんでいるんですか
色々と整理したいことがあった。
朧気だった過去の嫌な記憶。それが突然戻ってきたこと。どうして今まで忘れていたのかについて。
だけど、そんなことよりも今は目の前の状況だ。
「……本物?」
「え? 何言ってるの? それよりすごい汗かいているし顔色も悪いけど、大丈夫?」
言われて嫌な汗をかいていることに気が付いた。まあ確かに思い出したくもない記憶だったのは確かだ。
「無断で部屋に入ってごめんなさいね。でもいくらドアをノックしても声をかけても返事がなかったから……それで入ったら入ったでうなされていたから……」
「あ、いや、それは別にいいんだけど。え、なんでここにいるの?」
そもそもの疑問はそこである。まさかこんなのどかなだけの村に用があるわけはない。
「今日は……というか、昨日から挨拶周りで色々と動いてたのよ。それで今はその帰り道」
今日のリーティアさんはいつもの制服や部屋着と違ってよそ行きの服装で、髪もきっちりと整えられている。
詳しく話を聞くと夏休みはそうして各所を回りつつ、隙を見て家に帰って休むらしい。貴族はめっちゃ大変である。
「それで偶然この村に?」
「いいえ。偶然じゃなくて貴女の村の近くを通るって聞いたから寄ってみようと思ったの。だから、事前に先触れを出したはずよ。貴女についたメイドから何も聞いてない?」
「スーラさんのこと?」
「そう。間違いなく届いているはずだけど」
そういえば、何か楽しみにしておいてください。とかそういうことを言っていたような……そう伝えるとリーティアさんはため息をついた。
「無表情な割にそういうことをするのよ。それにしても私の先触れをちゃんと通さないなんて後で説教だわ……」
「そういうことするとは想像もできないけど」
私がそう言うとリーティアさんはまた大きなため息をついた。
「まあ、私にとっては子供の頃からの長い付き合いだから。それにしても聞いたわよ。何でも襲撃にあったとか」
「うーん、私ずっと馬車の中にいたからよくわからないんだけど、なんか勝手に始まって勝手に終わってた……」
一応、この旅の間にあったことを話した。彼女は満足気に笑う。
「ふふ、貴女が危ないって言ったから出来るだけ精鋭を揃えたからね。心配はしてなかったわ」
「道理で……でも、リーティアさんお付きのスーラさんをつけたのは?」
「? だから、精鋭を揃えたって言ったでしょう?」
「ん? スーラさんってメイドさん、だよね?」
「メイドだけど……凄く強いわよ。見る機会がなかったってことは大した相手ではなかったみたいね」
たぶん帝国の兵ですとは言えなかった。まあ、実際見てないわけだからただの盗賊とかそういう可能性もあったからだけど。
「二人ともー、ご飯できてるわよー!」
そうして話していたら部屋の外からお母さんの声が響く。ここで初めて夜になっていることに窓の外の暗闇を見て気が付いた。
「え? 家で食べていくの? というかお母さん言葉が……」
「友達だって言ったら是非にって誘われてね。あ、それと私のことは学校の友達としか言ってないから。そういう風によろしくね」
「えぇ……」
そりゃ公爵家令嬢なんて聞いたら流石の母も慌てるだろう。でも友達だって言われたからって雑な対応をしていなかったか不安だ。
そんなわけで不安な食事会が幕を開けることになった。さっき見た夢のことはすっかり忘れて。
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