33.村と両親、それと……
私がこの世界で産まれた村は王都から離れたところにある牧歌的なところだ。
もちろん栄えているわけではないが、貧相ということはなく、皆が皆のんびりと暮らしているような村である。
「あら、お帰り。思ったよりも早く着いたんだね」
「た、ただいま」
母は帰ってきた私をそう言って出迎えてくれた。少しだけ小太りだけど普通のお母さんという感じの人で、ちょっと淡白だけど何だかんだ世話焼きな母。
「お父さんは?」
「まだ畑だよ。夕方になったら帰ってくるからゆっくりしてなさい」
「はーい……」
無事に村についてスーラさんと護衛の方々とは一度別れることになった。この村にある小さな宿屋に滞在する予定らしい。この帰省が終わったら私はリーティアさんのレイファール家に招待されているわけでそこの送迎のために残っているわけだ。
村は特に変わっていなかった。といっても私が学園に通って大体3ヶ月程度しか経ってないから、そんな劇的に変わっているわけもない。
「ふぁぁ」
ただ、やっぱり家は落ち着くのか少し眠くなってしまった。
「部屋で寝てるね」
「はいよ。夜になったら起きてきなさい」
家は大きくない。ゆえに私の部屋も狭く小さいものだけどあるだけマシというものだ。部屋は出る前と同じだったが細かく掃除はされていたようで埃を被っていたりはしていない。
(もしかして、掃除とかしてくれてたのかな)
学園から逃げかえってくるパターンとか想定していたのか、それとも帰るという知らせを受けてから掃除してくれていたのか。まあ、どっちにせよありがたい話だとベッドに倒れ込んだ。
学園のベッドはふかふかで寝心地が良い上質なものだった。帰ってくる途中に泊まった宿のベッドもこの部屋のものより良いものだった。だけど、やっぱり慣れているせいなのかこのベッドが一番安心する。
「…………結局、私何してるんだろ」
過去、日本で生きていた頃を思い出して、そしてここが先輩がやっていたゲームの世界であることに気づいて……しかし、結局のところ私はただ怠けて過ごしているだけで、普通こういうのには役目というものがあるのじゃないだろうか。
(私が何もしなかったら帝国にめちゃくちゃにされたりしないよね)
漫画では王子含め色んな人と協力して立ち向かい辛勝するわけだが、私が何も出来なかったらそのまま侵略されてしまうのだろうか。
(魔法も……ちゃんと練習したほうがいいのかな)
今のところ光魔法もただ光る玉を出せるだけである。漫画通り癒しの力は開花する日が来るのか今のところわからない。
「……すぅ」
そんな不安を抱きながら、私は目を閉じて意識を手放した。
*****
「あれ……」
ふと、目が覚めるとそこは見慣れた自室であった。だけど村の家の部屋ではなく、そこは日本で住んでいたアパートの小さな自室であった。
「ん?」
なぜここにいるのかわからず、むくりと体を起こしてみるとものすごく視点が低い。手を見れば小さくプニプニで子供のそれだった。
「なんで、私……小さく?」
なぜか私は小さな子供に戻っていた。時刻は夜なのか窓から見える外は真っ暗だった。自室と隣接しているリビングは明かりがついていて、そこに両親の影が映っていた。
「────!!」
「──、────!!!!」
そして聞こえてきた大きな音に私はびっくりして思わず耳を塞いでしまった。何故か言葉は聞き取れないがそれを聞いた私の心に大きな恐怖が湧いてきた。
「や、やだ……」
怖くなって、使っていた毛布を抱えて部屋の隅で丸まる。リビングから聞こえる声は言葉はわからずとも相変わらず大きくて、恐ろしい。
(これ、私の……記憶……?)
この出来事の既視感を脳が理解する。そう、異世界で前世を思い出してから何故か抜けていたような記憶だったのだ。
(確か、毎日のように親は喧嘩していて……)
理由は知らないがとにかく両親の喧嘩は日常茶飯事だった。お互いに何か気に食わないことが少しでもあれば何故か言い争いとなり、そこから喧嘩に発展してしまう。
子供だった私はただその音だけが怖くて、とにかく息を殺して毛布にくるまって時が過ぎるのを待っていたのだった。
だけど、たまに彼らの矛先が子供の私に向いたことが何度かあった。
「あ……」
自室の入り口に大人の影が映る。体が勝手にガタガタと震えだした。
(いや、いやだっ、いやだ!)
ギュッと身を丸めてどうか入ってこないでと心から願う。しかし、無慈悲にもそこは力任せに開けられて──
「いやあっ!!」
「ステラさん!?」
ガバっと反射的に体が起きていた。心臓が激しく動き、寝汗がものすごい。
「ちょ、ちょっと、大丈夫ですの!? ひどくうなされていたけれど……」
「え、あ、えっ? な、あれ?」
気が付いたらこっちの世界の自室に戻ってきていた。どうやら日本にいた時の夢を見ていたらしいとやっと気が付いた。そして、なぜか忘れていた自分の状況を思い出すことになった。
だけど、今はそんなことよりももっと気にしないといけないことが起こっていた。
「………………リーティアさん???」
なんで、いるはずもない彼女が私の部屋にいるのだろうか。
いつも読んで頂きありがとうございます!
今日は投稿がものすごく遅れてすいませんでした・・・
また、来週もよろしくお願いします!




