32.馬車の旅(平穏)
ぐっすり眠った翌日。宿で食事を取ってからすぐに出発となった。
馬車は一台。相変わらず作りは豪華だけど少なくとも5台連なって走るよりはだいぶマシになった。
「相変わらず護衛はいるけど……」
随伴して歩いてくれている方々には本当に申し訳ない。日頃から鍛えているのだろうまったく疲れている様子はないが、自分なんかのためにやっぱり申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
「昨晩はよく眠れましたか?」
そして、相変わらず無表情なメイドであるスーラさんは至って普通に座っており、私に話しかけてきた。
「ええ、まぁ、割とぐっすり寝ましたけど」
「それはよかったです。ステラ様の健康に何かあっては私がお嬢様に叱られてしまいますから」
「お嬢様ってリーティアさんこと?」
「もちろんです。お嬢様はずっと心配しておられましたから。ちゃんと起きられるかとか、途中で面倒くさがって動かなくならないかとか……」
「流石にそこまでは……というか、そんな心配されてたんだ」
「お嬢様は偉くステラ様を気にいっているようですよ。何かと話しておられますから」
「まじかー……」
そんな何かした覚えはないのだけれども。
「きっと、今回は驚かれることになるかと思いますよ」
「え?」
「楽しみにしていてください」
ただそれだけを言ってスーラさんは黙ってしまった。どうやら何か用意されているようだが、教えてくれるつもりはないらしい。気にはなるけど別に詰め寄らなくてもいいかと私は車窓から外を見る。
多少整備された道は普通の馬車ならガタガタと揺れるものだけど、この公爵家の馬車は流石というか殆ど衝撃がない。やっぱり作りが違うのだろうか。
そんなことに感動しながらも馬車は一定のスピードで進み続ける。そこでふと気が付いた。
「そういえば、今日は全然止まってないや」
「ええ、恐らく本日は大丈夫です。何でも昨日、首謀者と思われる人物を捕縛したらしく、今はご……尋問しているでしょうから。残党がいたとしても、動けないでしょう」
「今、拷問って言おうとしなかった?」
「まさか。栄えあるレイファール家に仕える者としてそのような非道な行為……できるわけないじゃありませんか」
無表情なのが今は怖い。明らかに何かそういうことをやってそうと思うのは偏見だろうか。だけど、どうやら今回は本当に何事もなく村に到着できそうである。
本来だったら攫われて救出から帰省という流れが随分と楽になったものだ。
「ふぁぁぁ……」
朝は割と早かったせいか、少し眠い。
「良かったら眠っても大丈夫ですよ。村に近づいたら起こしますので」
「いやぁ、何があるかわかりませんし……出来るだけ起きてますよ」
99パーセント大丈夫だとは思うが、まだもしもの場合がある。今までと同じように物語通りに話が進むような力が働かないとはいいきれない。
(まだ、油断してはいけない……!)
そう思ってからしばらく経った頃だった。
「ステラ様、ステラ様……」
「う、うぅ、なに……?」
「村に到着致しましたので、お伝えしようかと」
「……え?」
いつの間にか窓の外から見た景色は、子供の頃から見ていた懐かしいものになっていた。
我ながら何とも能天気である!
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