29.物々しい凱旋?
信じられない。呆然とした思考のまま、なぜか私は馬車に揺られている。
「ご不便はありませんか?」
「……はい」
あの校門に停まっていた馬車。幸いなことにあれが全て公爵家が用意したものではなかった。聞けば二日目に帰宅する人も少なくはないようだ。
しかし、それでも5台。5台である。ただの私の帰郷の為に5台!
仮に公爵家が私の能力を預言だと信じていて、リーティアさんから誘拐の可能性を聞かされたとする。それでそんなことはあってはならないとこれだけの護衛をつけた……
(いやいやいや!そもそもこんな連なって行く必要はないし、どうみたって過剰戦力過ぎる! 馬車をこれだけ用意するのもわからないし……)
当たり前のように馬車は公爵家仕様。街を通れば誰しもが気が付く物だ。しかもその馬車に護衛の兵士が乗っているわけじゃない。護衛の彼らは随伴して歩いているのだ。つまり他の馬車は荷物か空っぽであるという。
わからない。何もわからない……そう思い悩んでいたら声がかけられた。
「先程から落ち着かない様子ですが酔いましたか? 一度休憩を入れることも出来ますが」
「いえっ、けっこうです!」
今は街中。こんなところで休憩なんて入れたら注目の的どころではない。
この国から私の住む村までは馬車で大体1日かかる。出発したのが昼前だったから夜に一泊するとすれば、大体次の日の夕方には着く。
元々の予定では街中から出ている馬車に乗る予定だったのが、今ではこの様である。
「あの、色々と聞きたいことがあるんですけど」
「なんでもお聞きください」
なぜかいるリーティアさんお付きのメイドさん。いつも通りのポーカーフェイスでその心情はわからない。
「まず、なんでこんな大所帯で? しかも馬車を何台も連ねて……」
「これはラティーナ様よりの指示です。理由につきましては私共には知らされておりません」
「え? じゃあ、何も知らずに従ってるの?」
「はい。私たちはレイファール家に忠誠を誓っておりますので、疑問には思いません」
「やば……」
盲目的な信仰というより、絶対的な信頼というのだろうか。彼女や兵士は間違った指示をされないことをわかっているのだ。
「じゃ、じゃあ、リーティアさんにお付きの貴女……えっと」
「私のことはスーラとお呼びください」
「スーラさん……はリーティアさんのお付きメイドですよね? なのにどうして?」
「それも指示です。お嬢様は現在懇意にしている貴族様へ挨拶周りで、いつもなら私が付き従うのですが、今回はラティーナ様より直接の指示がありまして」
「リーティアさんのお母さん……」
その意図は読めなかったが、一回会ってだけでも彼女が聡明なのは明白。恐らく何らかの狙いがあるのかもしれない。
「はぁ……別にこんな大所帯じゃなくても」
幸いに馬車というのは窓から覗かなければ外からは見えない。きっと街中を連なって走るこの馬車は恐ろしいほど注目を浴びているに違いないのだから。
(せめて早く街を出て……!)
今の私には祈ることしかできなかった。
*****
「……というわけで現在、多数の護衛を引き連れて村に向かっているようで」
「なぜだ。いくらなんでもこれでは手が出せないではないか……!」
光の入らない暗い部屋。小さな灯りがあるだけの部屋で二人の男が焦った様子で話していた。
「まだ預言の力は漏れていないはずじゃないのか? それならあれだけ護衛をつけるはずないだろう!?」
「わかりません……確かにそのはずですが、あの公爵家、あのラティーナですから、もしかしたら……」
「女狐め……今までも散々帝国の邪魔をしてきたというのにまだ懲りんのか!」
帝国の侵略はただの武力だけではない。各国へのスパイの潜入はもちろん、市民などに扮した工作、さらに優秀な者は国の中枢にまで入り込んで内部からまず崩壊させていく。
今までもそうやって侵略し領地を広げてきた。帝国はそうすることで繁栄してきたのだ。
もちろん、王国リステラントも標的であった。豊かな資源に立地まで何もかも魅力的で奪わない理由がなかったのだ。
最初は上手くいっていた。リステラントの主要な場所に潜入し、いつでも工作を起こせるように準備を進めていた。しかし、公爵家の夫人ラティーナが台頭してきたことで雲行きが怪しくなってきた。
貴族と平民の格差を生むことは瓦解の第一歩。だから欲に目がない貴族をたぶらかし横暴をさせ、平民で力のある者にはクーデター部隊を作ることを囁き、勝手に争い始めるように準備していたのに、ラティーナはそれを防ぐような政策ばかりを打ち出して争いの種を摘んでしまった。
それからである。送り込んだスパイ達があっさり捕まり始め、何とか工作しようにも未然に失敗したりとまるでうまくいかなくなった。まだスパイがいないわけではないが、その殆どがろくに成果を出せてはいない。
それこそ帝国がすることを「預言」されているかのようだった。
だからこそ、今回のステラという少女を利用したかった。幸いにも村に帰るという情報だけは手に入ったので、その間に色々と仕掛けようと準備はしていたのだ。
それなのにまた事前に対策を打ちだされた。いくらなんでもこれに挑むのは無謀だ。
「ど、どうしましょう?」
「どうするも何もない。準備はしているのだ。護衛の兵士も付きっ切りでずっといるわけじゃないはずだ。少なくなる瞬間を待ち、隙を見て襲え」
「はっ、かしこまりました!」
慌ただしく男が部屋から出て行く。準備はしっかりとしたのだ。しかし、どうしても嫌な予感が拭えなかった。
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