27.ステラ誘拐
当たり前だけど大体の恋愛シミュレーションゲームとかには色々なイベントがある。それこそ今までにあった魔力暴走事件だとか魔物乱入事件などがそれに該当する。
主人公のステラはそういうイベントを経て攻略対象と親交を深めていくのがゲームでの流れだ。詳しくは知らないけれど攻略対象は王子の他にも色々といるみたいだが、私が見たのは漫画版のみでそれは王子ルートだったから、詳細を知らないのは前に言ったとおりだ。
その漫画版で起こるイベントでステラが誘拐される話がある。タイミングはまさにこの後、村に戻るところを野盗に襲われて攫われるのだ。
実際は野盗に扮した帝国のスパイで、目的は王子への脅しと光魔法の封じ込めが原因であった。この国を侵略したい帝国からしたら王子と仲の良くて、「癒しの魔法」を使える私を攫うのは一石二鳥だったのだ。
それで漫画では攻撃手段を持たないステラはどうすることもできず、絶望しているところに王子が助けに来てくれるわけだ。
それまではお互いに少し気にしている程度であったが、そこで初めてお互い恋心を自覚するという甘い(?)シチュエーションだったはず。
この件に関しても物語のリーティアは直接関係はしていないが、それ以降明らかに仲が良くなったステラと王子に対して深い嫉妬を覚えるようになる。という幕引きでこの話は終わっていたはずだ。
ステラが誘拐された原因は学園側にスパイがいたからで、作中でも結局誰かは判明しなかったけど、そこらへんは物語の都合というものだろう。
「まあ、そんなわけでもしかしたら攫われちゃうかもしれなくて……」
「例の預言の力ってわけね」
違うんだけど否定が出来ない。まあ、家に招待されたとき話す時間はあるだろうし、その時じっくり話そう。
「でも、そういうことなら早く言って欲しかったわ。少しくらい協力できたのに……」
「いやぁ、本当かどうかわからないし、もしかしたら起こらないかもしれないから」
「今のところ貴女の懸念は全部あたってるのよ?注意するに越したことはないわ。例えば帰る日付をずらしたりはできないの?」
「出来なくはないけど……でもたぶんずらしたところで起こるような気はする」
決して物語通り進んでいるわけはないと思うが、結局起こるイベントは起きている。最悪帰らないという手もあるのだが、それを選んだところで攫われそうな気もしている。それに家族には手紙で帰ると伝えているのだ。たぶん、予定を変更したらきっと心配する。なんだかんだそういう両親だから。
「それなら一日だけ待って頂戴。お母様に言えば何らかの手助けはしてくれるかもしれないし」
「うーん、まあ今回こそ杞憂な気もするんだけど、毎回ごめんね」
「いいのよ。事情知っているの私だけだし……でも、今回でお母様にはバレるかも。凄く聡いから」
「ばれちゃってもいいよ。何かもうバレている気がするし……」
あの会話した日。何となくこちらを探るような目からたぶん彼女は既にわかっているとは思う。それを言わなかったのは大人の余裕か事情かわからないけども。だから、たぶん今回私を誘うように言ったのかもしれない。事実をキチンと確かめるために。
「私は明日から挨拶に色々と回らないといけないから会うのは難しいと思うけど、必ず誰か送るから」
「うん。でも無理に何かしてくれなくてもいいからね」
「知っちゃった以上、放っておけないわよ」
「あ、ありがとう……」
忘れそうになるけど彼女は嫉妬に狂って帝国と手を組むとは思えなかった。もしかしたら何かしらこれから変化が起こるのかもしれないが。
そう話し込んでいたらいつの間にか夜も深くなっていた。寮内で決められた時間があるので私は彼女の部屋を後にすることにした。
「私の家への招待も明日来る人に詳細を伝えておくから、絶対来て頂戴ね」
えらい押してくるなと思いながらおやすみを伝えて部屋を出る。すると彼女のメイドさんが控えていた。
「あ、あれ、もう戻ったんじゃ……?」
「ええ。ですが、どうしても私からステラ様にお伝えしたいことがありまして。不躾に申し訳ありません」
「い、いやいやいや、そんなかしこまらなくても!」
頭を深く下げる彼女に思わずそう声をかけてしまう。
「恐らく気づいていると思われるのですが、リーティア様は昔から立場のあるお方でしたので、中々心を割ってお話しできる同年代の方がいらっしゃいませんでした。教室でも殆ど敬語で話してはいませんか?」
「確かに、基本敬語かも」
「ですが、ステラ様と二人で話すときは時々口調が少し緩くなるでしょう。あれはお嬢様なりに気を許している証拠かと思います」
「でも……別にそんな仲良くなるようなことなんて特になかったような」
そう、別に話をしたり昼食を一緒に取ったり特別なことはしていない。預言の力について共有しているぐらいだろうか。
だけど、メイドさんは首を小さく横に振る。
「仲良くなるのに理由はいらないものかと思います。きっとステラ様の雰囲気がお嬢様に合っているのかもしれません」
「そうかなぁ……?」
「すみません、偉そうに語ってしまい……私からは今後ともお嬢様をよろしくお願いしたかっただけで」
「それはもちろん。仲良くするつもりだけど」
「それが聞けただけでもよかったです。お部屋までお送りしましょうか?」
「そんなに遠くないから大丈夫です」
「そうですか……それではよい夜を。おやすみなさいませ」
そう言って優雅に礼をして彼女は去っていった。リーティアは皆から愛されているようでやっぱり漫画とは違うように感じる、そんな出来事であった。
そんなわけで部屋に戻ってきた私はすぐに眠気に襲われて布団に突っ伏した。
幸いにも何らかの対策を打ってくれそうだし、ひとまず安心していいだろう。
しかし、この時私は忘れていた。魔物乱入事件の時リーティアさんの公爵家がどんな行動を起こしてきたか。
そして、案の定私は明日驚愕することになるのであった。
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