24.帝国の影
再びステラ視点になります。
「で? 魔物を解き放ったのに大きな被害もなくそのまま終わったのか?」
「申し訳ありません。内通者も上手く作れず、タイミングが悪かったせいか制圧されてしまい……」
どこかもわからない薄暗い密室。そこでフードを深く被った者が二人立っていた。声はどちらとも男だが容姿は何もわからない。
「ちっ、忌々しい。多くの金を使って何とか召喚陣を設置したというのに……成果がここまで出ないとは」
「調べたところどうやらそのタイミングで公爵家夫人が学園を訪ねていたようで、警備が厚かったのも原因かと」
「今更そこを省みてもしょうがない。ともかくこの国を何とか衰退させねば……我が帝国のためにも」
「帝国のためにも」
粗末なテーブルに置かれたグラス。そこに注がれたワインを二人して飲む。
「しかし、こう上手く対処されるとこれからの計画も先行きが不安だな……」
「それに関して実は気になる情報を掴んでまして」
「ほう? 話してみろ」
「実は計画を実行する前に公爵家令嬢……確か名前をリーティアというのですが……彼女から公爵家へ手紙を送っているのです。内容まではわかりませんでしたが、その翌日公爵夫人が学園を来訪したらしく」
「我々の計画が筒抜けだったという事か?」
敬語で話していた男が首を横に振る。
「いえ、計画が漏れていることはありえません。どちらかというと予想された……いえ、予想ではなく預言されたのではないかと」
「なに? そんな力をもった奴がいるのか?」
「ええ。表立って動けない内通者からの情報ですが、平民ながら光魔法に覚醒した者がいるらしく、なんでも預言の力を持っているとのことで……」
「バカな。そんな魔法があったら今頃広まっているだろうに」
「恐らく広まるのを恐れて黙っているのではないかと。そして現在それを知っているのは公爵令嬢だけで、それが公爵家に手紙で伝わった可能性が高いのです」
「……信憑性はあるのか。その情報に」
問われた男は深く頷いて肯定した。
「今度、学園の長期休みがあります。その平民の者も実家に顔出しに戻るはずですから、そこで仕掛けるつもりです。流石に封じなければ」
「そうか……であれば何とかその力利用させてもらいたいな。可能なら捕まえろ。平民の子供ならどうとでもなるだろう」
「わかりました。捕縛することを優先で動きます」
「そいつの名前はなんという?」
「……ステラ、というらしいです」
「よし、それなら早速準備に取り掛かれ。あくまでもバレないよう慎重にな」
「はっ」
敬語の男はワインを飲み干すとそこからすぐに姿を消した。残った男はグラスを持ちながら大きく息をつく。
「我々帝国のためだ。預言の力が本当かどうかはさておき邪魔をした報いは受けて貰わねばな……」
薄暗い部屋は益々暗く、王国の見えない影は少しずつ大きくなり始めていた。
*****
「というわけでかつては帝国も侵略戦争を仕掛けていましたが、条約を結び漸く大陸に平和が訪れました」
眠い。前世でも社会の時間は安らかなるスヤスヤタイムだった気がする。
「また、それを機に貿易などが再開され……」
もし私がこの作品を好きだったらこういう話もキラキラと目を輝かせて聞いていたかもしれないが、生憎先輩から勧められたから見ただけで歴史にあんまり興味はない。
ただ、さっき先生が言った帝国のことについては思うところがある。
(全然条約守らないんだよなあ)
帝国は漫画では明確な悪である。資源豊かなこの国を狙って工作を行い衰退させ、最後には侵略を仕掛けてくるのだから。主人公と王子、色々な人々と共に何とか退けるが傷跡も大きく残る結果となった。
(恐らく魔法陣も根本は帝国が絡んでいるんだろうけど……まあ、それは調査している人が暴いてくれるのを期待するとして……)
それはそれとして最近気になることがある。
「……」
横の列は一緒だが少し離れた場所の席に座るリーティアさん。最近彼女からものすごい視線が飛んできている……気がする。
「……っ」
何となく気になって目を向けると慌てて視線を外し前を向く。最近彼女はずっとこの調子なのだ。
(なんなの、一体……?)
そろそろ前期の学園が終わり、連休が始まろうとしている。そんな時期のことだった。
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